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みやび萬紅堂。
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DATE: 2011/06/28(火)   CATEGORY: 業宿しの剣
業宿しの剣(2)
 雨を切り裂いて兇刃が男を襲う。それは脳天に向かって、真っ直ぐ振り下ろされていた。
 それを男はするりとかわして、手にしていた刀で賊の腹を両断した。切り口から臓物が零れ落ちる。
 他の賊も集まってきた。そのひとりが野太刀をぶらさげて男を睨みつけている。
 その場に賊は五人いた。野太刀、直槍、手斧とそれぞれの武器を持っている。どの賊もいかにも荒れくれ者といった面構えである。
 雨は勢いを増していた。
 槍の穂先が突風のような勢いで男に向かって飛んだ。穂先が男の躰を貫いた――と思った次の瞬間には男の姿は見当たらない。男は跳んでいた。槍を繰り出した賊の肩を使って、高く宙を舞い、そのまま着地と同時に賊をひとり切り裂いた。
 横薙ぎに野太刀が振るわれた。
 勢いも速さもあったが、男はそれもかわした。男の刀が一閃する。男を襲った野太刀は地に落ちた。それを握った腕も一緒に転がった。
 鮮血が舞う。雨に混じって降り注いだ。
 恐るべき速さでさらに二、三人を斬り伏せる。誰もが男の剣速には追いつけなかった。
「素晴らしいッ!」
 そう発したのは賊のひとりで長髪の男だ。肌は雪のように白い。端整な顔立ちだった。
「お前さん、なかなかの強さじゃねえか。どうだ、ウチに入らないか? お前さんほどの腕があれば、どこの村でだって好き勝手ができるぜ?」
 男はいかにも興味なさげな表情(かお)をするだけで、何も答えはしない。
「どうも仲間になるつもりはないようだなぁ。――まぁ それはそれでいいんだ。なに、他の楽しみが増えただけさ」長髪の男はゾッとするほど冷たい視線を投げかける。「お前さんを斬る楽しみ、がな」
「――斬れればいいがな」
「ほう、言うねえ。俺様の名は鬼童丸。冥土の土産に覚えておけ!」
 鬼童丸と名乗った男が地面を蹴った次の瞬間、一気に跳んで間合いを詰めていた。風のような疾(はや)さである。
それに対して男の動きも機敏だった。落ちていた直槍を手に取り、思いっきり投げた。男の背筋が一瞬隆起した。強靭な筋肉だ。
 鬼童丸は自分に向かって飛んできた槍を軽々と避けた。腰から野太刀を引き抜いて、男に向かって刃を放つ。
 男は鬼童丸の一撃を刀で受け止めた。そして雨で泥濘(ぬか)るんだ地面の土を足で蹴り上げた。泥が鬼童丸に降りかかったが、防がれて顔にはかかっていない。
 野太刀が再び男を襲う。今度は連撃で、手を休まずに次々と刃が飛ぶ。男はすべての斬撃を防いでいたが、防一戦になってしまっていた。
 後ろに跳んだ。一間(2メートル弱)ほど一気に離れることで体勢を整えようとしたが、鬼童丸も一息でその間合いと詰めてくる。
 鬼童丸の野太刀から斬撃が放たれる。男は受けずにさらに後退して、それをかわした。
 そのとき、鬼童丸の袖の下から何かが飛び出した。――縄鏢(じょうびょう)だ。手投げに刃に縄を繋げたものである。それが一直線に男に飛んだ。
「破ッッ!!」
 轟くような気合いの一声を発したあと、男は電光石火の動きで大地を蹴った。鏢が男の躰に食い込む。――が、それでも男の勢いは衰えない。
 刀が一直線に飛んだ。
 鬼童丸がそれを野太刀で叩き落しにかかった。――同時に男が鬼童丸の懐(ふところ)に潜り込み、突き上げるように掌底を放った。掌底は鬼童丸の顎を捉える。強い衝撃が鬼童丸を襲った。意思に関係なく力が抜けていく。
 それでも崩れ落ちるのだけは堪えた。両脚が震えている。
 力の入らない脚で後方に跳んで距離をつくった。
「やるじゃねえか。俺をここまで追い詰めるとは、予想以上だぜ」
 鬼童丸の眼(まなこ)は血走っている。怒り心頭といった具合だ。
「お前、人ではないな」と男が云った。
「なぜだ」
「お前の背後に人とは違う気が渦巻いている」
「ほう――その頸(くび)の創痕(きず)。お前さん、もしや咎背負いか」
 男は何も云わない。
「せめて名前でも教えてくれよ。この鬼童丸、相手の名も知らぬまま引き下がれはしねえ」
「――新三(しんぞう)」
 ニヤリと笑ったあと、鬼童丸はふわりと浮かぶように跳躍して馬に乗った。
「新三か、覚えておく。また改めてお目にかかるのを楽しみにしてるぜ」
 鬼童丸は号令をかけて馬を走らせた。仲間の賊も引き上げていく。
 血にまみれた新三はそんな鬼童丸たちの姿を見詰めていた。
 気付けば、雨は上がっていた。

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DATE: 2011/06/15(水)   CATEGORY: 業宿しの剣
業宿しの剣(1)
 蕭条(しょうじょう)と雨が降っていた。杪秋(びょうしゅう)の冷たい雨である。
 その中を一人の男が歩いている。笠で顔は見えない。腰には刀を帯びていて、その姿は雨に溶け込みそうな雰囲気であった。つまり気配を殺して、己を雨と一体とさせていた。
 長い道中の末に村が見えてきたので、男は村で一番安そうな宿に入った。「空きはあるか」
「大丈夫ですよ。今お部屋にご案内します。しかしこの雨の中を歩いてこられて大変だったでしょう」
 宿の主人は少ない稼ぎ相手の客を前に饒舌になっていて、いつまでも一人で喋っていそうであった。
「この部屋か。――あとは構わない。ありがとう」
「そうでございますか。何かご入用になりましたらお気軽にお声をかけてくださいませ」
「ああ、そうさせてもらう」
 男は笠を取って、壁に立て掛けた。同じように刀も置いた。
 男の瞳には愁いがあった。それに加え野性味のある顔立ちのせいで、悲壮感が漂っている。男の頸(くび)には創痕があった。まるで過去に斬り落とされたことでもあるかのように、一周して深い創(きず)がついている。
 雨のせいか、創が疼いた。
(――いや、違うな)
 遠くの方から馬の蹄の音が聞こえてきた。それも複数だ。数にして、十はいる。男は窓の隙間から外の様子を窺った。
 村の入口から荒々しい男たちが馬で侵入(はい)ってくるのが見えた。
「これは面倒なことになりそうだ」
 と男が呟く。
 男たちの数は十より遥かに多い、二十はいた。どれも野蛮そうで下卑た面構えである。
 雨の中を男たちは馬に跨ったまま、家屋の戸を次々と突き破り中に侵入っていく。――明らかに匪賊だった。
「ゆっくり休むことも出来ねえのか」
 男は立て掛けておいた刀を腰に差して、宿をおりていった。
「どうかしましたか?」
 外の異変に気付いていないらしい主人が云った。
「――いや、少し外に出てくる」
「この雨の中をですかい?」
「すぐに戻るよ」
 戸を開けて、男が宿の外に出た。
 すでに賊たちの略奪は始まっていた。男の呻き声と女に悲鳴が聞こえてくる。――男は宿の前にある道の真ん中に仁王立ちして、待った。
 すぐに賊の一人が男の存在に気付いて、馬に跨ったまま男の目の前まできて大声をあげた。
「なんだテメェは!!」
 馬の上にいるのは、顔の半分が髭で覆われた男で、手には山刀らしきものを握っている。
「馬から降りろ」
「なんだと?」
「馬から降りろ、と云った。馬には何の罪もない」
「何をいってやがるんだ、こいつは。たたっ斬ってやる!」
 髭の男が馬を走らせて、男に突っ込んでいった。
 それを男はスッとかわす。もう少しで馬の蹄に踏まれ、運が悪ければ死に至るところである。
 だが次の瞬間には、上から山刀が降ってくる。
 フッ――
 男の姿が消えた。
 忽然と、まるで霧散したかのように、髭男の視界から消え失せてしまった。
「なんだぁ!?」
 そのとき、グッと腕に重いものを感じた。
「随分と鈍(のろ)い動きで斬りかかってくるものだな」
 その声は、なんと髭男の山刀の上から発せられていた。
 ほんの一瞬で、男は素早く跳び、髭男の山刀の上に着地していたのである。
「―――!?」
 髭男は驚きのあまり声も出せない。
 そこに男の一閃が奔った。髭男の頭がごろんと地に落ち、首からは血が噴き荒れた。馬は首なしの躰を乗せたまま走り続けている。
 斬ると同時に跳んでいた男が地面に着地した。
 水溜りの泥水がわずかに跳ねた。
 男は刀を片手に鋭い双眸を前に向け、賊を捜す。――残る賊は何人か。
 蕭条と雨は降り続いていた。

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