夏のしらべ(6) 「恋人(lovers)」
ドキドキして眠れなかった。眠ろうとすればするほど意識が冴えてしまう。
(なんだろう――?)
えりなは思った。
――明日、またあの公園で会えないかな。
(返事――もらえるのかな?)
――そう、えりなさんが俺に好きだって伝えてくれたあの公園。
(六飛君――)
――あのときと同じ時間に。俺、待ってるから。
(――すこしは期待してもいい?)
六飛の答えはどっちなんだろう?
彼女は期待と不安が入り混じった感情に包まれながら、次第にまどろみ、ゆっくりと眠りに就いた。
***
あのときと同じ時間に――。たぶん今行けば六飛よりは早く着くだろう。えりなはそう思っていた。しかし着いてみるとすでに六飛はそこにいた。あのときと同じベンチに腰を降ろして――。
緊張しながらも近付いていく。途中で六飛が気付き、えりなに笑いかけた。
「こんにちは」
なんだろう。いつもの六飛なのに、いつもと何かが違う。
「えりなさんも座ってよ」
言われるままに、えりなはベンチに座った。
今日の六飛は、今までにないくらい落ち着いている。
「あの、話って――」
「好きです」
「――え?」
六飛はもう一度ゆっくりと言った。
「俺もえりなさんのことが好きです」
えりなの思考はごちゃごちゃに混乱していた。
(うそ、ほんと? 六飛君がわたしのことを――好き? まさか、本当にそんなこと言ってもらえるなんて――思ってもみなかった。わたし、本当は六飛君に自分の気持ちを伝えられただけで充分だった。それがまさか――六飛君にも好きって言ってもらえるなんて!)
「だからえりなさん――」
心臓がドクンドクンと高鳴った。
「俺の彼女になってくれませんか?」
思わず、涙がこぼれた。
「はい。陽向君の彼女にしてください」
ついに2人は恋人同士となった。
***
一緒に街を散策した。知っているはずの街が、まるで異国のような気がした。
2人はいろいろなところを見て歩いた。通ったことのない道を通り、行ったことのないところに行った。今までのテリトリーから、ほんの少し出てみただけで、そこは何もかもが新しく、何もかもが新鮮だった。気に入った坂道やゆっくりできる公園、素敵なカフェなどを見つけるたびに、2人は「こんなに近くにあったのに、今まで損してたね」と笑いあった。
カフェ「MATATABI」にも足を運んだ。例の初老のマスターと外国人ウェイターが、2人を迎えてくれた。相変わらずコーヒーは美味しくて、そこでだけは普段は紅茶派のえりなもコーヒーを頼んだ。六飛がいなかったらこのコーヒーの美味しさも、気付けないままだったのだろうと思うとえりなは嬉しくなった。六飛と一緒だとすべてが楽しい。
「2人でもっといろんなところへ行きたいな」
えりながぽつりと呟いた。
「行きたいね」
「こうやって身近なところだけでも十分に楽しいんだけど、2人で遠くにも行ってみたい。一緒に日本のいろんなところ見てまわりたいし、世界だって見てみたい。一緒に行きたいとこ、見たいもの、したいこと。なんか多すぎて、わたしが生きてる間に全部できるかなぁ」
胸が締めつけられるようだった。えりなは自分の命が残りわずかだということを知らない。彼女の母親はそれを知らせたくはないようで、誰も彼女にそのことを伝えてはいなかった。…ただ。えりなは自分が長く生きられる身ではないことは知っている。病気の為に、六飛とずっと一緒にいるなんて幻想に過ぎないことを知っていた。だから彼女は必死に「今」を楽しもうとしていた。六飛と一緒にいられる「今」を大事に生きていた。
「見に行こう。いろいろなとこ。約束するよ…すぐには無理かもしれないけど、絶対にえりなを連れていく」
ふと切ない表情がよぎった気がした。しかしえりなは笑顔で答えた。
「うん。ありがとう」
(なんだろう――?)
えりなは思った。
――明日、またあの公園で会えないかな。
(返事――もらえるのかな?)
――そう、えりなさんが俺に好きだって伝えてくれたあの公園。
(六飛君――)
――あのときと同じ時間に。俺、待ってるから。
(――すこしは期待してもいい?)
六飛の答えはどっちなんだろう?
彼女は期待と不安が入り混じった感情に包まれながら、次第にまどろみ、ゆっくりと眠りに就いた。
***
あのときと同じ時間に――。たぶん今行けば六飛よりは早く着くだろう。えりなはそう思っていた。しかし着いてみるとすでに六飛はそこにいた。あのときと同じベンチに腰を降ろして――。
緊張しながらも近付いていく。途中で六飛が気付き、えりなに笑いかけた。
「こんにちは」
なんだろう。いつもの六飛なのに、いつもと何かが違う。
「えりなさんも座ってよ」
言われるままに、えりなはベンチに座った。
今日の六飛は、今までにないくらい落ち着いている。
「あの、話って――」
「好きです」
「――え?」
六飛はもう一度ゆっくりと言った。
「俺もえりなさんのことが好きです」
えりなの思考はごちゃごちゃに混乱していた。
(うそ、ほんと? 六飛君がわたしのことを――好き? まさか、本当にそんなこと言ってもらえるなんて――思ってもみなかった。わたし、本当は六飛君に自分の気持ちを伝えられただけで充分だった。それがまさか――六飛君にも好きって言ってもらえるなんて!)
「だからえりなさん――」
心臓がドクンドクンと高鳴った。
「俺の彼女になってくれませんか?」
思わず、涙がこぼれた。
「はい。陽向君の彼女にしてください」
ついに2人は恋人同士となった。
***
一緒に街を散策した。知っているはずの街が、まるで異国のような気がした。
2人はいろいろなところを見て歩いた。通ったことのない道を通り、行ったことのないところに行った。今までのテリトリーから、ほんの少し出てみただけで、そこは何もかもが新しく、何もかもが新鮮だった。気に入った坂道やゆっくりできる公園、素敵なカフェなどを見つけるたびに、2人は「こんなに近くにあったのに、今まで損してたね」と笑いあった。
カフェ「MATATABI」にも足を運んだ。例の初老のマスターと外国人ウェイターが、2人を迎えてくれた。相変わらずコーヒーは美味しくて、そこでだけは普段は紅茶派のえりなもコーヒーを頼んだ。六飛がいなかったらこのコーヒーの美味しさも、気付けないままだったのだろうと思うとえりなは嬉しくなった。六飛と一緒だとすべてが楽しい。
「2人でもっといろんなところへ行きたいな」
えりながぽつりと呟いた。
「行きたいね」
「こうやって身近なところだけでも十分に楽しいんだけど、2人で遠くにも行ってみたい。一緒に日本のいろんなところ見てまわりたいし、世界だって見てみたい。一緒に行きたいとこ、見たいもの、したいこと。なんか多すぎて、わたしが生きてる間に全部できるかなぁ」
胸が締めつけられるようだった。えりなは自分の命が残りわずかだということを知らない。彼女の母親はそれを知らせたくはないようで、誰も彼女にそのことを伝えてはいなかった。…ただ。えりなは自分が長く生きられる身ではないことは知っている。病気の為に、六飛とずっと一緒にいるなんて幻想に過ぎないことを知っていた。だから彼女は必死に「今」を楽しもうとしていた。六飛と一緒にいられる「今」を大事に生きていた。
「見に行こう。いろいろなとこ。約束するよ…すぐには無理かもしれないけど、絶対にえりなを連れていく」
ふと切ない表情がよぎった気がした。しかしえりなは笑顔で答えた。
「うん。ありがとう」
COMMENT
●
ミーコ | URL | 2008/08/18(月) 14:35 [EDIT]
ミーコ | URL | 2008/08/18(月) 14:35 [EDIT]
そういえば、四話でえりなが告白したシーンで気持ちを伝えるだけのほうが良かった気がしちゃいました。ただ、好きだと言いたかったってだけのほうが、六話の六飛の「付き合おう」が生きてくる気が…。おとなしいえりかが相手の気持ちまで知りたいって求めた違和感が多少あったかなーと。
二人のデートシーンの優しい感じは好きです。一緒に過ごす幸せが伝わりますね(笑)散歩したくなりました。
二人のデートシーンの優しい感じは好きです。一緒に過ごす幸せが伝わりますね(笑)散歩したくなりました。
>ミーコ
デートシーンは玖堂が勝手に付け加えちゃったやつです(笑) 紅林のストーリーでは省略されちゃってる部分を想像して書き加えました。
告白シーンは紅林のオーダーそのままに書いたのですが、言われてみれば…と思わないこともありません。
が、しかし、
物語全体を見るとそう問題視するほど違和感がないような気がします。
全てが終わったあとにもう一度そのときのえりなの気持ちを想像してみてください。えりなはどういう気持ちで告白したのでしょうか? ただ「好きで好きで仕方なかったから」だけではないように思えます。
まあ、俺も紅林もそんな深く考えずにやってたことだけは確かですが(笑)
デートシーンは玖堂が勝手に付け加えちゃったやつです(笑) 紅林のストーリーでは省略されちゃってる部分を想像して書き加えました。
告白シーンは紅林のオーダーそのままに書いたのですが、言われてみれば…と思わないこともありません。
が、しかし、
物語全体を見るとそう問題視するほど違和感がないような気がします。
全てが終わったあとにもう一度そのときのえりなの気持ちを想像してみてください。えりなはどういう気持ちで告白したのでしょうか? ただ「好きで好きで仕方なかったから」だけではないように思えます。
まあ、俺も紅林もそんな深く考えずにやってたことだけは確かですが(笑)
● こんばんは
lemon8739 | URL | 2008/08/18(月) 17:30 [EDIT]
lemon8739 | URL | 2008/08/18(月) 17:30 [EDIT]
私も2人のデートシーンが好きです
>知っているはずの街が、まるで異国のような気がした
この感覚って分かるような気がします
恋しているって・・・こういう状態ですよね!
>知っているはずの街が、まるで異国のような気がした
この感覚って分かるような気がします
恋しているって・・・こういう状態ですよね!
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