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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/16(土)   CATEGORY: 夏のしらべ
夏のしらべ(4) 「告白」
 カフェ「MATATABI」を出てからしばらくの間、2人は一緒に歩いた。えりなは未だに緊張を隠せなかった。大好きな六飛とこうして並んで散歩してるなんて、以前までなら空想どまりのありえないことだった。六飛は近くにあった公園を見て足を止めた。
「少し休んでいこうか」
 六飛の視線の先にベンチがあることに気がついた。えりなは頷き、彼にならってそこに腰掛けた。
「結構歩いたね。疲れた?」
「ううん。大丈夫」
「じゃあもう少し歩く?」
 六飛は立ち上がろうとする仕草を見せた。それを見てあわててえりながとめる。
「ちょっと休んでから。…本当は少し疲れちゃった」
「やっぱり」六飛は笑った。「思ったこと言ってもいいのに。遠慮なんていらないよ」
 自分のことなどお見通しなんだ、そう思うと恥ずかしい。えりなは恥ずかしさを紛らわせるように「うん」と答えた。
 あたり一面に蝉時雨が鳴り響いていた。
「愁の言ったことを真に受けたわけじゃないけどさ」六飛とえりなの目があった。「これじゃまるで本当にデートだね」
 ドクン。一度の鼓動でいつもの倍以上の血液が体中に送られている気がする。ドクン。心臓から体中に熱い血液が送られるのを感じる。ドクン。きっと顔なんて真っ赤だ。そう思ってしまったせいでさらにえりなは赤くなった。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもな――」
 思ったこと言っていいのに。遠慮なんかいらないよ。
 ふいに六飛の言葉が反芻した。
「――きです」
えりなの言葉が空中を舞った。蝉時雨でかき消される。
「え?」
「好き、です」
 六飛はえりなを見つめたままいた。彼女の言葉の意味を必死に理解しようとしているのかもしれない。本当はわかっているのに、思考は巡りに巡っていた。
彼女はもう一度、今度ははっきりした声で言った。
「わたし、陽向君のことが好きです。ずっと好きでした」
「あの――」
「去年一緒のクラスだったときから、ずっと、わたし陽向君が好きだった」
 六飛はなんて言ったらいいかわからなかった。まさかえりなにこうまで好きだと思われていたとは想像もしたことがなかった。もしも好意があっても、それは友達同士が持つ友情に似たものだと思っていた。けれどまさかこんな――。
「陽向君の気持ちも、聞いていいですか」
「――え?」
 おれの…気持ち?
 自分はどう思っているんだろう。えりなのことはもちろん好きだ。でもそれはえりなが自分に寄せている想いと同等のものか。――わからなかった。
「…少し待ってくれないかな」
 たぶん、自分はえりなのことが好きだ。それでも自信が持てないでいる。原因はなにか――それはわからない。それでもあのえりながここまではっきりと自分の気持ちを伝えてきたのだ。こちらも真剣に想いに応えてあげなければいけない。軽はずみな言動は――できなかった。
「深凪さんの気持ちはわかった。きっと深凪さんはすごい悩んで、すごい勇気を振り絞って好きだってこと俺に伝えてくれたんだと思う」
 2人の視線が絡み合う。
「それに対して俺も本気で応えなきゃいけない、って思うんだ。だから少し考えさせてくれないかな。まさか深凪さんがそう思っててくれたなんて全然気付かなくって、嬉しいんだけど、ちょっと混乱してる」
「…わかりました」
 六飛は見た。えりなの蒼い瞳は、切なく潤んでいた。
「待ってます。わたしいつまでも待ってます」
 気付くと蝉時雨はやんでいた。

***

 バイト帰りにどこかで見たことのある女性と出会った。一瞬だけ誰だろうと思ったが、それはすぐに思い出された。えりなの母親だ。お互いに挨拶をすると、えりなの母親がちょっといいかしらと六飛を誘う。彼はそれを了承して、彼女についていった。
 着いた先はあのときの公園だった。えりなが六飛に告白をした、あの公園だ。
「ここに座りましょう」
 そう言ってえりなの母親が腰をおろしたのは、あのとき2人で座った公園のベンチだった。
「あのね、」
 六飛がベンチに腰掛けると、えりなの母親は話し始めた。
「実はね、えりなは――病気なの」
 一瞬自分の耳を疑った。「え?」
「あの子は、決して治らない病気にかかっているの」
 不治の病。まさか身近にその存在があるなんて、誰が想像するだろう。えりなはその不治の病にかかっていた。そう、彼女が生まれたそのときから。
「本当はね、小学校も卒業できないって病気がわかったときにお医者さまに言われたわ」
 一見平気そうにしているが、この母親の苦労な並のものではなかっただろう。それは容易に想像できた。自分が苦しんでるところを娘に見せたくない一心で、気丈に振舞っているのかもしれない。そう思うと、六飛の心が締めつけられるようだった。
「もう小学校を卒業できたときは嬉しくてね、卒業式では大泣きしちゃった。卒業式に出席してた父兄の中でもいちばんの大泣き。でもそれくらい嬉しかった。よく生きててくれたねって、そう思ったの。よくここまで育ってくれたねって」
 母親は涙ぐんでいるようだった。当時の記憶が鮮明によみがえってきているのかもしれない。
「小学校も卒業できないって言われてた子が中学校も卒業してくれて、まさか高校に入るまで立派に成長してくれるなんて思ってもみなかった。もう本当にそれだけで親孝行な娘だと思うわ。もう充分なくらい」
 彼女は目元に溜まった涙を拭った。
「実はね、去年の冬にはとうとうお医者さまにもう先は長くないって言われたの。半年もつかどうか、そう言われた」
「じゃあ…」六飛が何かを言いかけた。
「もうあの子の命はなくなっちゃうかもしれない。今までは運よくここまで生きてこられた。もう奇跡だわ。でも次こそ本当にダメかもしれない。…もしかしたらまた奇跡が起こらないとも限らないわ。それでも私はもうダメかもって思ってる。母親の予感かな。こんな言う親もどうかとは思うけどね」
 六飛は何も言えなかった。何も言えずにいた。
 この母親は、自分に何を伝えたいのだろう?
「あの子には――えりなにはもう充分親孝行はしてもらった。だから今度は、これまで頑張ったえりな自身にご褒美をあげたいの」
 心臓の高鳴りを感じた。徐々に、しかし確実に心拍数は上がってきている。
「えりなはあなたのことが好きみたい。だから付き合ってあげて、なんて言うつもりはないけど、それでもあの子とは仲良くしてあげてほしい。今までどおりでいいから、どうかあの子のことをよろしく頼みます――」
 母親は頭を下げていた。そんなことやめてください。六飛はそう言いたかったが、声にならずに虚空へ消えた。母親の気持ちが痛いほどわかってしまったからだった。
「わかりました」
 精一杯の力を振り絞って六飛は言った。
「俺も――えりなさんのことは好きです」
 声は震えていた。
「だから…俺の方からもお願いします。えりなさんの残りの時間を俺にください。俺、できる限りの時間を彼女といたいです」
 一条の涙がこぼれた。気付かぬうちに六飛は泣いていた。
 自分はえりなのことを好きだと知った。どうしようもなく、好きだとわかった。彼女にあとどれだけの時間が残されているのだろう? その時間をできるだけ一緒に過ごしたい。限られた中でできるだけ多くのものを一緒に見て、聞いて、感じたかった。


「えりなさんが大好きなんです」




<作者のことば>
書いたあとに第4話「告白」はえりなとえりなの母のダブル告白の意味になってました。
マジでこれ以上にないタイトルだと自画自賛(笑)

読者にタイトルを見て「ついに告白しちゃうんだー」と思わせといて、
実は告白は1つだけじゃなかった!! みたいな感じに出来るんじゃアねえかと思っただけで楽しかったです(笑)

ちなみにここらへんから文章がうまく進まなくて苦労し始めたり。

あー、納得できねえ! と思いつつもストーリー原案の紅林歩夢に「いいじゃん!」と言われ、
「あー、これでいいんだ」みたいな(笑)

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COMMENT

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ミーコ | URL | 2008/08/16(土) 16:48 [EDIT]
うわー。急展開!ビックリ。

玖堂 匡介 | URL | 2008/08/16(土) 18:56 [EDIT]
>ミーコ
そう思ってもらえたのなら成功かな(笑)
前半と後半は雰囲気が変わります。←たぶん

lolina | URL | 2008/08/16(土) 19:02 [EDIT]
感动><
good story~

玖堂 匡介 | URL | 2008/08/16(土) 19:15 [EDIT]
>lolinaさん
ありがとうございます。
ストーリー自体は友人が考えたものですが(笑)、きっと彼も喜んでると思います。

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