爆音デイズ(5)
シンさんが襲われてから1週間。赤い眼の蛇はまだ見つかってはいない。
僕は街を歩く人の左耳をチェックする癖がついた。たぶん犯人は男。だからチェックするのは男だけに限定した。それでもものすごい人数が街を歩く。すべてはチェックが追いつかない。千手観音のように顔がたくさんあればいいと思った。
***
日曜日。僕は駅から徒歩10分のところにあるライヴハウスに足を運んだ。重厚なドアを押し開けて中へと入る。中でスポットライトなど機械の熱で暑かった。ステージの上でライヴをしているのはエクスタシーだ。ヴォーカルは背が高くて、痩せこけた男だった。少し浅黒い肌。左右の焦点がそろってない瞳。なんだかゾンビみたい。そんなゾンビヴォーカルのとなりでレイコはベースを掻き鳴らしていた。ゾンビヴォーカルの低い声が部屋中に響いた。
エクスタシーは出番が終わるとすぐにさがっていく。それから少し待つとレイコの姿が見えた。
「来てくれてたのね」
ほとんどの感情を表に出さない氷のような美少女。
「紹介するわ。彼がうちのヴォーカルのココよ」
ココさんは軽く礼をしてきた。こちらも礼で返す。
「ど、どうもココです」
少しどもりながらの挨拶だったけれど、ゾンビヴォーカルは意外とまともだった。人は見た目で判断してはいけないと改めて思う。
「あ、あの慎之介さんのことは本当にご愁傷様です」
まるでシンさんが死んでしまったみたい。
「蛇はもう見つかった?」
「いや、まだ」
「まあ、普通はそうでしょうね。ピアスだけで見つけるなんて無理だもの。いつも同じのをつけてるとも限らないし」
たしかにそうなのだ。自分でも無謀だということは充分すぎるほどわかっている。それでも見つけなければならない。なぜかはわからないけれど、そう思うのだ。
「他にも憶えてることないかな」
「これでベースのやつはやった、かな」
「え?」
「犯人のせりふ」
これでベースのやつはやった? しかしシンさんはベースではなくギターだ。犯人たちは間違えたのか? だとしたら本当に狙われているのは龍次だった。
急いで龍次に電話した。今度は2コール目で電話に出た。狙われているのは龍次だということを伝えると、俺なら大丈夫だ、と言われ電話は一方的に切られた。
犯人たちの目的はなんだろう。わからない。けどそれにLucyが関わっていることは明らかだった。
***
義之からの電話を切ると龍次は考えた。自分が狙われているとはどういうことだ? よく意味がわからなかった。つまり犯人は龍次の姿を知らない。もし知っていたのなら外見的に目立つ龍次と間違えてシンを襲うのは筋が通らない。予測するに犯人が知っていたのは龍次がLucyというバンドに所属していたこととシンがLucyのメンバーだということだ。そうでなければシンが襲われるという理屈は通らないだろう。
龍次は愛用のスクーターのエンジンをかけた。黒のディオ。相当いじってあって、スピードはかなり出る。龍次はそれのアクセルを思いっきり全開する。この街のどこかに蛇はいる。龍次は街を駆け抜けた。
(...to be continued)
僕は街を歩く人の左耳をチェックする癖がついた。たぶん犯人は男。だからチェックするのは男だけに限定した。それでもものすごい人数が街を歩く。すべてはチェックが追いつかない。千手観音のように顔がたくさんあればいいと思った。
***
日曜日。僕は駅から徒歩10分のところにあるライヴハウスに足を運んだ。重厚なドアを押し開けて中へと入る。中でスポットライトなど機械の熱で暑かった。ステージの上でライヴをしているのはエクスタシーだ。ヴォーカルは背が高くて、痩せこけた男だった。少し浅黒い肌。左右の焦点がそろってない瞳。なんだかゾンビみたい。そんなゾンビヴォーカルのとなりでレイコはベースを掻き鳴らしていた。ゾンビヴォーカルの低い声が部屋中に響いた。
エクスタシーは出番が終わるとすぐにさがっていく。それから少し待つとレイコの姿が見えた。
「来てくれてたのね」
ほとんどの感情を表に出さない氷のような美少女。
「紹介するわ。彼がうちのヴォーカルのココよ」
ココさんは軽く礼をしてきた。こちらも礼で返す。
「ど、どうもココです」
少しどもりながらの挨拶だったけれど、ゾンビヴォーカルは意外とまともだった。人は見た目で判断してはいけないと改めて思う。
「あ、あの慎之介さんのことは本当にご愁傷様です」
まるでシンさんが死んでしまったみたい。
「蛇はもう見つかった?」
「いや、まだ」
「まあ、普通はそうでしょうね。ピアスだけで見つけるなんて無理だもの。いつも同じのをつけてるとも限らないし」
たしかにそうなのだ。自分でも無謀だということは充分すぎるほどわかっている。それでも見つけなければならない。なぜかはわからないけれど、そう思うのだ。
「他にも憶えてることないかな」
「これでベースのやつはやった、かな」
「え?」
「犯人のせりふ」
これでベースのやつはやった? しかしシンさんはベースではなくギターだ。犯人たちは間違えたのか? だとしたら本当に狙われているのは龍次だった。
急いで龍次に電話した。今度は2コール目で電話に出た。狙われているのは龍次だということを伝えると、俺なら大丈夫だ、と言われ電話は一方的に切られた。
犯人たちの目的はなんだろう。わからない。けどそれにLucyが関わっていることは明らかだった。
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義之からの電話を切ると龍次は考えた。自分が狙われているとはどういうことだ? よく意味がわからなかった。つまり犯人は龍次の姿を知らない。もし知っていたのなら外見的に目立つ龍次と間違えてシンを襲うのは筋が通らない。予測するに犯人が知っていたのは龍次がLucyというバンドに所属していたこととシンがLucyのメンバーだということだ。そうでなければシンが襲われるという理屈は通らないだろう。
龍次は愛用のスクーターのエンジンをかけた。黒のディオ。相当いじってあって、スピードはかなり出る。龍次はそれのアクセルを思いっきり全開する。この街のどこかに蛇はいる。龍次は街を駆け抜けた。
(...to be continued)
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