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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/15(金)   CATEGORY: 夏のしらべ
夏のしらべ(3) 「デート」
 えりなの家に行ってから数日後、六飛は彼女と会う約束をしていた。もちろん借りた本を返すためにだ。場所は図書館だった。そこはえりなが指定した。
 午後1時に図書館に着いた。約束の時間ちょうどだ。六飛が中に入ると、すでにえりなは来ていたようだ。ひとりで本を読んでいる。
六飛は彼女に近付いた。「こんにちは」
 突然の声に体をビクッとさせ、えりなは六飛を見上げた。一瞬で安堵の表情になる。
「こんにちは。早かったのね」
「約束どおりだよ。深凪さんが早かったんでしょう?」
「わたしは早く来て、読書してようと思ってたから」
 その言葉を聞いて、六飛は彼女の持つ文庫に目を落とした。「なに読んでるの?」
「東野圭吾さんの最新刊」
「へえー、少し前に話題になったやつだね」
「うん。でもなかなか文庫化しなくて。わたしハードカバーはあまり読まないから。かさばるし」
「そうだよね。少し読みにくいよねー」
 六飛が共感の意を伝えた直後、ググーという音が館内に小さくこだました。
「ごめん、まだ昼メシ食べてなくてさ。お腹鳴っちゃった」
 次第と2人の間に、笑いが込み上げる。笑いを抑えようとすればするほど我慢ができなくて、周りの人の視線が集まった。
「…出よっか?」
2人は逃げるようにして図書館を出た。

 お互いにメニューを頼むと、初老のマスターはかしこまりましたと丁寧に下がっていった。
 図書館を出たあと、2人は近くのカフェに入った。実はえりなも午前からずっと図書館にいて、何も食べてはいなかったらしい。そこで六飛は視界に入ったカフェを選んだ。昼は自分がおごると言って。えりなは散々遠慮したが、そこは借りた本のお礼だと言って六飛が押し切った。
 店は「MATATABI」という、少し変わった名前の店だった。小さく、こぢんまりとした店内だったが、雰囲気は悪くなかった。むしろゆったりとした雰囲気で居心地がいい。耳障りにならない程度のヴォリュームで流れるジャズもよかった。
「やっと腹の虫が鳴きやむ」
 六飛がそう言うと、えりなはクスクスと笑った。
 やがて注文したメニューが運ばれ、2人は共通の本の話をしながらランチを楽しんだ。
「ここ美味しいね」えりなが六飛が食べ終わったのを見て言った。「食後になにか飲む?」
「ああ、…じゃあアイスコーヒーを頼もうかな」
「わかった」
 えりなは店員を呼びつけた。今度は先ほどの老人ではなく、外国人と思われるウェイターが寄ってきた。
「なんでしょう?」
 その外国人は流暢な日本語で尋ねてきた。彼はアイスコーヒーとアールグレイを頼んだ。
「かしこまりました」
 マスターと思われる老人同様に、丁寧な言い方で了承し、彼は下がっていった。
「どこ国の人かしら?」
「どうだろうね。ヨーロッパの方だとは思うけど」
 しばらくしてアイスコーヒーとアールグレイが2人の手元にやってきた。六飛がコーヒーにひとくち口をつけると、つい「うまい!」と声をあげた。
「こんなに美味しいコーヒー飲んだの初めてだよ。いつもはインスタントだからかな? 全然違う」
 六飛があまりに絶賛するので、えりなも同じのを頼めばよかったかなと少し後悔した。紅茶好きの彼女は、ついいつもどおりの注文をしてしまっていた。
「わたしコーヒーって飲まないんだけど、ちょっと気になる」
 思ってることを正直に告白した。
「じゃあ、今度また来ようよ」
 その意味を理解してえりなは思わず赤面した。
「…うん」
 恥ずかしくて小さな声でしか返事はできなかった。けれど、またこうやって六飛と会えるなんて嬉しかった。想像しただけで気分が弾む。

「あっれー?」
 突然、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「六飛じゃん。それに深凪‥えりなちゃん! なになに、デート? 六飛ってば、いつのまにこんなかわいい子と仲良くなったの?」
 天草 愁(アマクサ シュウ)だった。愁は六飛の昔ながらの親友だ。
 えりなは「ちゃん」付けで呼ばれることに抵抗があったのか、それともただ単に恥ずかしいのか若干うつむいてしまった。
「おい、愁っ! そんなんじゃねえよ。まったく、深凪さん困ってるだろ」
「ああ、ごめんごめん。えりなちゃんのこと困らせようとしたんじゃないんだ。困らせようと思ったのは六飛だけで…」
「――っておい!」六飛は思わず突っ込んだ。
「ははっ。まあ、おふたりの邪魔をするつもりはないさ。ごゆっくり。俺は行くよ、じゃあまたな、六飛!」
 愁は風のように現れ、風のように去っていった。このときえりなの頭に浮かんだのが「台風一過」の文字だったのも仕方ないかもしれない。
「ごめんね、変なやつが入っちゃって。せっかくゆっくりしてたのに」
「いいえ、いいの。楽しそうな友達ね」
「ガキの頃からの悪友ってやつ? 誰にでもああなんだ。まあ、たしかに楽しいやつでもあるけど」一呼吸おいて六飛は言った。「ハタから見るぶんには」
 それを聞いてえりなは笑った。たしかにそうかもしれない、とつい思ってしまったのだ。
「そろそろ出ようか」
「うん」
 六飛が会計を済ませ店を出ようとしたとき、えりなはレジにいた外国人ウェイターに声をかけた。
「あの、とても美味しかったです」
 それに外国人ウェイターは柔和な笑みで応えた。
「Grazie」


<作者のことば>
第3話は文章担当の俺の遊び心をちょっとだけ加えてます。
一部の方々はご存知だと思われるカフェ「MATATABI」を登場させて頂きました。

もう少し先になりそうですが、いずれCOFEE BREAKシリーズに登場してくるカフェです。

そんな理由もあって、中でも楽しく書いてました♪
店内の雰囲気やマスターやウェイター、それにコーヒーの味。いろいろと絡ませてもらいましたよ(笑)
なので若干COFEE BREAKテイストだったりー。

ちなみに「Grazie(グラーツィエ)」はもちろんイタリア語で「ありがとう」の意です。

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COMMENT

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ミーコ | URL | 2008/08/15(金) 14:24 [EDIT]
あ、カフェ的なサムシングに行きたくなった(笑)

匡介 | URL | 2008/08/15(金) 15:52 [EDIT]
>ミーコ
カフェじゃなく、カフェ的なサムシングでいいんですか?(笑)
● お礼訪問ありがとうございます
lemon8739 | URL | 2008/08/15(金) 20:14 [EDIT]
こんばんは
先ほどはコメントをありがとうございました
お話の中のカフェ!素敵ですね

玖堂 匡介 | URL | 2008/08/15(金) 22:23 [EDIT]
>lemon8739さん
わざわざご足労くださいましてありがとうございます。
個人的に力を入れているところなので、素敵と言って頂けるのは嬉しいです。…小説全体よりも嬉しいかも(笑)

またのお越しをお待ちしていますね。

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