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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/13(水)   CATEGORY: 夏のしらべ
夏のしらべ(1) 「夏のはじまり」
  夏のしらべ  (Story by 紅林歩夢 / Write by 玖堂匡介)
 



 彼にとって永遠に忘れられない夏が始まる――。


 ずらりと本が並ぶ棚の前に立ち、深凪 えりなは大好きなミステリー小説に目を向ける。彼女のさらりとした長髪が、入口から入る風でなびいた。特徴的な銀色の髪がふわりと浮かぶ。
 えりなは最近ハマっているシリーズもののミステリー小説の最新刊を手に取り、一瞬のためらいもなくレジへと向かった。しかしレジカウンターには人の気配がなく、彼女はすこし困ってしまった。店員を呼ぶにも、人見知りがちな彼女にはかなり勇気がいる。
「あの…」
 彼女が小さく呟く。
 もちろんそのすぐさま掻き消えるようなか細い声では誰にも届かなかった。
「すみません…」
 彼女はもう一度勇気をふり絞って声を出した。
 しかしそれも彼女の口からこぼれてすぐに、どこかへ消えていってしまった。
 夏の暑さが身に沁みた。初夏だというのにもう外は暑く、レジ横の入口は全開で、わずかな冷房の冷気など掻き消されてしまっていた。
「あ、すみません!」
 大きな、そしてどこか聞き覚えのあるような声がした。
 えりなが声の方へと見やると、そこには短めの髪をした少年が立っていた。彼はえりなを見て急いでレジへと駆け寄る。
「お待たせしました!」
 少年は大きな慌てた声でそう言い、えりなの持つ商品を受け取ろうとした。
「…あれ?」
 深いエメラルドグリーンの瞳を大きくして少年は言った。
「深凪(みなぎ)さん?」
 すると、えりなは赤面した。
 まさか同じクラスの陽向 六飛(ひむかい りくと)に自分のことを覚えてもらっているとは思ってもみなかったからだ。
 そんなえりなを目の前に、六飛は「どうしたの?」と声をかける。
「あの、なんでもないです…」
 その彼女の言葉を聞いて、「ふーん、そっか」とだけ六飛は言い、彼女の手から本を受け取った。
「あ、この本」
 突然の言葉にえりなは動揺した。
 自分の買おうとしている本をまじまじと見られて、内心もう帰りたいほどに彼女は恥ずかしかった。
「このシリーズ、面白いよね。俺も読んでるよ」
 思ってもみなかった彼のセリフにえりなは戸惑ってしまった。
 今まで友達という友達ができたことがなかった彼女にとって、他の誰かと接するときのマニュアルはない。どう応えたらいいのかまったくわからなかったのだ。
 そんな彼女の様子にも気付かないように六飛は続ける。
「その最新刊も読んだよ。ちょうど昨日読み終わったばっかりなんだ」
 そう言って彼は無邪気と呼べるほどの笑顔をつくった。
 えりなはというと、完全に停止をしたままだった。しかしそれも無理はない。今まで他人と接したことがほとんどなく苦手なうえに、相手が実は自分が恋焦がれている六飛となれば当然ともいえる反応だった。
「大丈夫? どうかした?」
 さすがの六飛も完全停止をしたえりなに異変を感じ、声をかけてみた。
「…えっ!? ああっ、その、だ、大丈夫ですっ!」
 明らかな挙動不審ぎみのその反応にも、六飛は「ならいいんだ」とまったくの鈍感ぶりである。
「こういう本、好きなの?」
 スキャナーで本の裏についたバーコードを読み取りながら彼は尋ねた。
「あ、はい」
「『はい』って」彼は笑った。「敬語じゃなくていいのに」
「…うん」
 そのまま彼はレジのディスプレイに表示された数字を声にした。
 彼女は言われた数とぴったりのお金を彼に差し出した。
「他にはどんなの読むの?」
 彼は受け取ったお金をレジに入れる。
「えっ?」
 多少の戸惑いもあったが、彼女はお気に入りの本のタイトルを口にした。
「あ、それ俺も読んだことあるよ!」
「本当?」
「うん、面白いよね! …といっても上巻しか読んだことないんだけどね」
 六飛は「へへへ」と笑った。
「でも、上巻だけでも充分面白いよね」
 彼の様子を見て、思わずえりなも微笑んだ。
 彼女の蒼い瞳が優しく彼を映し出す。
「あの、よかったら下巻貸してあげるよ」
 思い切ってえりなは言った。本当に思い切って発した言葉だ。
 証拠に彼女のその可愛らしい顔は再び赤く染まっている。
「本当? だったら嬉しいな。実は買おうか悩んでたんだ」
「それじゃ、また明日ここに渡しに来ます」
 恥ずかしがりつつも笑顔でそう言った。えりなはいかにも嬉しそうだ。
「いいよ。俺が借りるんだからさ、俺が取りに行くって」
「え…でも…」
「深凪さんの家ってどのへん?」
 早すぎる彼の展開にえりなはついていけていなかった。彼がわたしの家に来る…? そんな馬鹿な。考えただけでも顔から火が出そうだ。
「実はさ、その本のこと考えたら今すぐにでも読みたくなっちゃったんだ。このあとバイトが終わってからでも行っていいかな?」
 えりなは戸惑い、そして黙った。
「あれ? ダメだった? そうだよね。突然すぎるもんね。気分だけが先を急いじゃってさー。ダメだな、俺」
 そう六飛が自分のミスを拭うように笑うと「大丈夫です」という声が小さく、聞こえた。
「え?」思わず聞き返す六飛。
「大丈夫です、今日でも。帰ったら探しておきますから、来てください」
「ほんと? やったね。それで深凪さんの家ってどこにあるの?」
 えりなは頑張って六飛に自分の場所を説明した。
 どうにも土地勘がなく、なかなか理解を示さない六飛だったが、途中「ああ、そこなら知ってる!」といきなり思い出したように言った。
 えりなは「それじゃあ、また」と言い、店を出た。外は相変わらず暑かったが、彼女は気にもしなかった。今にでもスキップでもしそうなほど軽快に歩く彼女はどう見ても嬉しそうだった。
 彼女が一歩、また一歩と進むたびにその銀髪を束ねるピンクのリボンが優しく揺れた。


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COMMENT

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● (笑)
ミーコ | URL | 2008/08/13(水) 17:53 [EDIT]
何人なんですかっ!?銀髪に青い瞳!?(笑)ピンクのリボン(笑)ツボッた!!
あると思います!(吟じたいわー)

錆浅葱 | URL | 2008/08/13(水) 22:29 [EDIT]
こんばんは~ 浅葱です
まずは コラボ小説完成おめでとですっ
いや お疲れ様ですっ!かな(笑)
好きな人を前にしての「えりな」の様子とかが
思わず微笑んでしまう感じで…
(*^_^*)
つづきが楽しみです♪

匡介 | URL | 2008/08/13(水) 23:12 [EDIT]
>ミーコ
「何人(なんにん)」かと思った(笑)
はいはい「何人(なにじん)」ですね(笑)

そこは紅林君のコダワリらしいので、俺は突っ込まれてもわかりません。まあ、純日本人のはずですが(笑)
そこはマンガやアニメ(もしくはゲーム)のように受け取ってもらえるとありがたいです。彼はそういうものからの影響を大きく受けているので(たぶん)。
(正直、俺は読んだことないのだけれど)ライトノベルのようなノリでお願いします(笑)←もしかして偏見かな?

まあ、個人的なことを言わせてもらうと……俺はリボンをつけた人など見たことがない!!(笑)

匡介 | URL | 2008/08/13(水) 23:17 [EDIT]
>錆浅葱さん
どうも、こんばんは~。
ありがとうございます。ええ、疲れました(笑)

えりなの性格はたぶんベタベタですが、あえてそこを楽しんで頂ければ嬉しいです(笑)
● 初めまして。
瑠璃 | URL | 2008/08/14(木) 12:20 [EDIT]
初めまして、そしてこんにちは。
瑠璃と申すものです。訪問者リストから来ました~。

えっと、小説読ませてもらいました。
えりなの反応や様子が見てて楽しいです。
何かほほえましい様な・・・(笑)
最初に書いてあった「永遠に忘れられない夏」っていうのが気になる!!一体どんな物語なのか・・・続きが楽しみです!

これからもちょくちょく来るかと思われます。その時はまたよろしくお願いします(
更新、頑張ってくださいねー。あと熱中症やら夏バテやらにはお気をつけて・・・


それでは、失礼しました。

匡介 | URL | 2008/08/14(木) 13:16 [EDIT]
>瑠璃さん
どうも初めまして。よくお越しくださいました。
えりなは右も左もわからないような娘ですが(笑)、この物語を通じて大きく成長していくと思います。

「永遠に忘れられない夏」

どれは物語全体における伏線ですが、これを書いてたときは「カッコイイ冒頭にしたい!」くらいにしか思ってませんでした(笑)
そう長くない作品なので、最期までお付き合い願えたら嬉しく思います。

またのお越しをお待ちしていますね。

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