爆音デイズ(4)
シンさんが襲われてから4日が経ったけれど特に進展はなし。そして龍次から出るのは溜め息ばかり。
捜査の方は龍次にまかせて、僕はCDショップへと向かった。相変わらずCDがずらりと並ぶその場所の『い行』の前に僕は立っていた。なぜ『い行』の前にいるのかというと、僕もわからない。ただなんとなくでだ。目に入るのはずらりと並ぶ『い行』で始まるアーティストのCDだけ。
僕は視線を感じる気がして後ろを振り向いた。そこには少女が立っている。黒くて長い髪に雪のように白い肌の美少女。無表情のままこっちを見ている。
どうすればいいか困っていると彼女は声をかけてきた。少し高めの透き通った声。
「何を探してるの?」
僕は一瞬とまどったあと、別に何も探していないことを告げた。彼女は、そう、と言いながら『い行』の棚からCDを一枚取り出した。
「井上陽水」
つい声を出して読んでしまった。
「聴くの?」
「いいや。でも知ってる」
「そうでしょうね。有名だもの」
それはそうだ。井上陽水を知らない日本人なんていないと思う。いまどきは音楽の教科書にまで載っている。
「少年時代とか、だよね」
「ありきたりね」
そう言われてしまうと困ってしまう。そうなると僕が知っている曲なんてすべてありきたりな曲だ。僕は井上陽水に詳しくはなかった。
「あなた、Lucyと仲の良い人でしょう」
そういえば、どっかで見たことある顔だ。どこだっただろう。こんな美少女を忘れるなんて僕も馬鹿だ。
「なんで知ってるの?」
「見たことあるから。仲良くしてるとこ」
どこで? と言いかけたとき僕は思い出した。エクスタシーというバンドのベーシスト。たしかあれは彼女だったと思う。黒く長い髪に雪のような白い肌。
「キミ、エクスタシーの」
「あら、知ってたの」
彼女は少しだけ驚いた表情をした。でもその変化は微々たるもので、すぐに元の無表情へと戻った。
「Lucyのギターの人、大変だわね」
「知ってるの?」
なんて馬鹿な質問をしたと思った。地元アマチュアバンド界では、もはや有名な事件だ。
「ええ、知ってるわ。だって見たから」
「見たって、なにを?」
「ギターさんがリンチされてるとこ」
彼女の話では犯人は3人、これはシンさんの証言を一致している。3人とも顔を隠していたらしいけど、ひとりの左耳についたピアスが特徴あるものだったらしい。それは蛇がモチーフのピアス。蛇の眼は赤。
僕はケータイを取り出し、龍次に電話をかけた。3コール目で龍次は電話に出た。そして僕は犯人の特徴を告げた。赤い眼の蛇のことを。
「なんで今まで言わなかったの?」
「だって訊かれてないもの」
「でも、龍次がこのことで訊き回ってたのは知ってたでしょ」
「あの赤い髪の人でしょ。あの人こわいじゃない」
それは同感。燃え盛るような真っ赤の髪に鋭い目つき。見た目だけでも充分に威嚇になる。
「キミ、名前は?」
「レイコよ。エクスタシーのレイコ」
「わかった。ありがとう」
僕はなじみのCDショップを出て、街を駆けた。どこへ行けばいいかなんてわからない。でもおとなしくはしていられなかった。人を襲った赤い眼の蛇がいつまでもこの街を這っているなんて許せなかったからだ。
(...to be continued)
捜査の方は龍次にまかせて、僕はCDショップへと向かった。相変わらずCDがずらりと並ぶその場所の『い行』の前に僕は立っていた。なぜ『い行』の前にいるのかというと、僕もわからない。ただなんとなくでだ。目に入るのはずらりと並ぶ『い行』で始まるアーティストのCDだけ。
僕は視線を感じる気がして後ろを振り向いた。そこには少女が立っている。黒くて長い髪に雪のように白い肌の美少女。無表情のままこっちを見ている。
どうすればいいか困っていると彼女は声をかけてきた。少し高めの透き通った声。
「何を探してるの?」
僕は一瞬とまどったあと、別に何も探していないことを告げた。彼女は、そう、と言いながら『い行』の棚からCDを一枚取り出した。
「井上陽水」
つい声を出して読んでしまった。
「聴くの?」
「いいや。でも知ってる」
「そうでしょうね。有名だもの」
それはそうだ。井上陽水を知らない日本人なんていないと思う。いまどきは音楽の教科書にまで載っている。
「少年時代とか、だよね」
「ありきたりね」
そう言われてしまうと困ってしまう。そうなると僕が知っている曲なんてすべてありきたりな曲だ。僕は井上陽水に詳しくはなかった。
「あなた、Lucyと仲の良い人でしょう」
そういえば、どっかで見たことある顔だ。どこだっただろう。こんな美少女を忘れるなんて僕も馬鹿だ。
「なんで知ってるの?」
「見たことあるから。仲良くしてるとこ」
どこで? と言いかけたとき僕は思い出した。エクスタシーというバンドのベーシスト。たしかあれは彼女だったと思う。黒く長い髪に雪のような白い肌。
「キミ、エクスタシーの」
「あら、知ってたの」
彼女は少しだけ驚いた表情をした。でもその変化は微々たるもので、すぐに元の無表情へと戻った。
「Lucyのギターの人、大変だわね」
「知ってるの?」
なんて馬鹿な質問をしたと思った。地元アマチュアバンド界では、もはや有名な事件だ。
「ええ、知ってるわ。だって見たから」
「見たって、なにを?」
「ギターさんがリンチされてるとこ」
彼女の話では犯人は3人、これはシンさんの証言を一致している。3人とも顔を隠していたらしいけど、ひとりの左耳についたピアスが特徴あるものだったらしい。それは蛇がモチーフのピアス。蛇の眼は赤。
僕はケータイを取り出し、龍次に電話をかけた。3コール目で龍次は電話に出た。そして僕は犯人の特徴を告げた。赤い眼の蛇のことを。
「なんで今まで言わなかったの?」
「だって訊かれてないもの」
「でも、龍次がこのことで訊き回ってたのは知ってたでしょ」
「あの赤い髪の人でしょ。あの人こわいじゃない」
それは同感。燃え盛るような真っ赤の髪に鋭い目つき。見た目だけでも充分に威嚇になる。
「キミ、名前は?」
「レイコよ。エクスタシーのレイコ」
「わかった。ありがとう」
僕はなじみのCDショップを出て、街を駆けた。どこへ行けばいいかなんてわからない。でもおとなしくはしていられなかった。人を襲った赤い眼の蛇がいつまでもこの街を這っているなんて許せなかったからだ。
(...to be continued)
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