みやび萬紅堂。
いらっしゃいませ。コメントはお気軽に。
DATE: --/--/--(--)   CATEGORY: スポンサー広告
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
page top
DATE: 2017/02/06(月)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇‐21 (魔の狂宴Ⅴ)
 黒い津波のように迫る鼠の群れに無数の銃弾を浴びせたが、焼け石に水だった。すべて呑み込まれていくだけだ。尾見重利は弾切れになった89式小銃を投げ捨て、木製バットで鼠を叩き潰すことにした。やはり意味のある行為とは呼べなかったが、何もしないよりはましだった。体に這いあがってくる鼠を払い落とし、叩き潰す。バットには鼠の血と肉片がこびりついた。
「シゲ、そこどけ!」
 居坂が尾見に呼びかける。見てみれば居坂と益岡が両手にポリタンクを持って走ってきていた。2人は尾見から20メートルほど離れた場所で立ち止まり、ポリタンクの中身を廊下にぶちまけ始めた。尾見は、臭いでそれがガソリンだとわかった。
 尾見がバット片手に走った。何匹もの鼠を踏み潰す感触が足の裏にあった。けれど構わず走る。居坂と益岡もひとつずつポリタンクを持って、ガソリンを撒きながら走り始めた。尾見も残ったポリタンクのうちのひとつを掴み、2人を追う。ガソリンまみれの廊下を一歩進むたびにアディダスがガソリンを吸ったが、気にしている余裕はない。
「急げ! もっと早く!」
 居坂に急かされ、尾見は速度を上げた。鼠の群れはあっという間に尾見を追い抜いて、居坂たちのところにまで迫っている。ふくらはぎに痛みがあった。鼠に噛みつかれているのだろうことは想像がついたが、立ち止まれない。走りにくいため、バットは捨てていた。重かったポリタンクも後方の鼠たちに向かって投げ捨てた。残念ながら鼠の勢いには影響していない。
 前方では益岡がライターに火をつけているのが見えた。やばい、急がねば。2人に追いつくまであと10メートルほど。2人が捨てたポリタンクを飛び越える。あと8メートル。ライターの火が益岡のくわえる煙草に移った。赤い点が薄暗闇に浮かんでいる。あと6メートル。煙草が宙に投げられた。あと5メートル。目の前の床が燃え上がり、炎が一気に押し寄せてきた。こうなってしまえば神に祈るしかない。尾見は全速力で炎の壁にタックルして突っ込んだ。アディダスのスニーカーが熱い。きっと燃えている。頬も焼けている。それでも尾見は足を止めずに走り続けた。数秒後には炎燃え盛る廊下を抜けて、視界が開けた。居坂と益岡の姿が見える。
 助かった……

 尾見は力尽きて床に倒れた。全身が熱かった。居坂と益岡は大急ぎで火消しにかかった。2人は服を脱いで、燃える尾見を必死にはたいた。火は消し止められたが、素人目に見ても、尾見は重度の火傷を負っている。このままでは助かるのか、居坂にはわからなかった。
 炎の海から燃えながら走り続ける鼠が何匹か現れ、居坂は益岡と一緒になって踏み潰した。もがき苦しむような鼠の鳴き声がキイキイと聞こえてくる。いい気味だ、と居坂は思った。
「ぐあッ」
 益岡がうずくまるのを見て、居坂が駆け寄ると、益岡の喉に鼠が一匹喰らいついていた。居坂は鼠を蹴り飛ばし、追いかけて踏み潰したあと、益岡の様子を確かめた。すごい勢いで喉から血が溢れている。頸動脈を噛みちぎられたか……。居坂は絶望的な気持ちになった。医学の知識はないが、頸動脈を切断されては助からないだろう。手当てするにも、きっと間に合わない。益岡のことは諦めるしかなかった。居坂はゆっくりと益岡を床に横たわらせた。
 尾見はどうだ?――そう思ったとき、燃え盛る炎とは反対側の廊下から“何か”の気配を感じ、薄暗闇に目を凝らした。

 全身がひどく痛む。それに呼吸をするのがつらかった。おれは助かるだろうか……。尾見はゆっくりと目を開け、精一杯の力を込めて起き上がった。ぼやける視界に横たわる物体が映り、それが益岡だということに気付くのに、数秒かかった。喉から血を流している。生きているとは思えなかった。
 ――居坂は?
 悲鳴をあげる肉体を少しずつ動かして、尾見はあたりを見回した。数メートルも離れていないところで炎が暴れている。その熱に眼球の水分が奪われ、顔をそむけた。
 炎から離れないと……。
 尾見は這うように進んだ。カタツムリの歩みだった。火傷の痛みで意識が飛びそうになる。居坂……、どこだ……。一歩踏み出すだけで叫び出しそうなほど痛い。しかし叫ぶほどの体力もなかった。声帯が焼けつき、声も出せなくなっているんじゃないかという思いがよぎる。試しに発声してみようとしたが、死にそうな呼吸音がゼエゼエと聞こえるだけだった。
 そのとき、何者かの気配を感じ、尾見は顔をあげた。目の前に、居坂の姿があった。手足がちぎれ、上半身と下半身が分かれていた。
 それは熊ほどの大きさだった。そして闇夜のように黒い。
 それは犬だった。紛れもなく、犬だった。
 巨大な犬。熊ほどの巨体を持つ、黒き犬。
 犬は低く唸り、尾見を睨んでいた。
 尾見は力尽きて、その場に崩れた。もう諦めていた。自分はもう助からない。涙は出なかった。そんな力など残っていなかったからだ。
 巨犬が、尾見に飛びかかった。



<作者のことば>
久しぶりすぎて次にどのキャラクターを動かす予定だったのかわからくなってしまったので、新しい登場人物を投入。
あまりにすぐに死んでいく脇役が多いので、一度使った名前を把握するのが大変です。

「イサカ」って使ったかな?と思ったのですが、確認するのが億劫だったので、漢字を「居」にすることで重複を防いでみました。
たぶん居坂はいないと思います。伊坂とか井坂は出てきたかもしれません。わからん。

今回出てきた犬は煉獄編に出てきたやつです。
登場から時間が経ちすぎているので、ここでフォローしておきます。

ちなみに煉獄編で、犬と戦ってたのは野坂ですね。
とすればイサカは使ってないかもしれない。

[ TB*0 | CO*0 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。