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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/12(火)   CATEGORY: 「怪奇蒐話」
「見えない滝」
2つの寺院に挟まれた小径(こみち)、塀の向こうには沢山の墓が覗けた。

ここは墓場に囲まれている。

夜の闇で、辺りは見えづらい。
生憎(あいにく)この径(みち)に外灯の類いはなく、この暗がりをほとんど勘だけで歩くことになる。
しかし幾度となく歩きなれた僕は、そう不都合なく進むことができた。

――なんだろう?

「ザー、ザー」と水の流れる音がする。まるで滝か何かが近くにあるように。
でも僕には初めて聴く音だった。通り慣れたはずの場所なのに、今までこのような音を聴いたことがない。

――滝、なのか?

音は左側の塀を越えたところから聴こえるようだった。
寺院に滝があるのか? 大きな寺院なら、もしかしたら有り得なくもないが、この小さな寺に?
もし、あるとしても塀のすぐ傍だ。音はすぐそこから聴こえる。そこは墓しかないはずだ。墓場に滝? 滝じゃなくとも、こんな大きな水の音がするものがあるとは思えなかった。

――なんだ…?

何かが、聴こえた。
それは滝のような水の流れる音ではなく、もっと何か別の――

「そ……の…ひ…」

――そう――

「そこの……ひ‥」

――これは――

「そこの…おひと…」

――女性の声だ。

若干高めのその声は、辺りに静かに響き渡った。

僕を…呼んでいる?
意を決して、周囲を見回してみたが、辺りには誰の姿も確認できなかった。

――もしかして彼女なのか?

過去に、同じく夜にこの場所を通ったとき、あるひとつの墓の前に白装束の女性が立っていた。女性は長く、夜闇に溶け込むような漆黒の髪をしていた。
そしてぼーっと目の前の墓を眺めていた。
それが一瞬視界の隅に入り、驚いた僕は再び同じところを見遣ったが、そこには誰の姿もなかった。最初は気のせいだと思っていたのだけれど、それと同じことが2、3度起こり、僕もただの気のせいではないと思うようになった。
それでも不思議と怖いとは思わず、僕は構わずこの径(みち)を通ることにしていた。

――あの女性の声、なのか…?

「そこの…おひと…」

いつものあの墓の前に、彼女はいるような気がした。
でも、あえてそこを見ず、僕はそのまま小径(こみち)を抜けた。

もう水の流れる音も聴こえない。






――という半ば実際のお話。
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