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みやび萬紅堂。
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DATE: 2015/09/12(土)   CATEGORY: 業宿しの剣
業宿しの剣・序章(一)
 蕭条(しょうじょう)と雨が降っていた。杪秋(びょうしゅう)の冷たい雨である。
 その中を一人の男が歩いている。笠で顔は見えない。腰には刀を帯びていて、その姿は雨に溶け込みそうな雰囲気であった。気配を殺し、己と雨とが一体となっていた。
 長い道中の末に村が見えてきたので、男は村で一番安そうな宿に入った。「空きはあるか」
「大丈夫ですよ。今お部屋にご案内します。しかしこの雨の中を歩いてこられて大変だったでしょう」
 宿の主人は少ない稼ぎ相手の客を前に饒舌になっていて、いつまでも一人で喋っていそうであった。
「この部屋か。――あとは構わない。ありがとう」
「そうでございますか。何かご入用になりましたらお気軽にお声をかけてくださいませ」
「ああ、そうさせてもらう」
 男は笠を取って、壁に立て掛けた。同じように刀も置いた。
 男の瞳には愁いがあった。それに加え野性味のある顔立ちのせいで、悲壮感が漂っている。男の頸(くび)には創痕(きず)があった。まるで過去に斬り落とされたかのように、頸を一周して深い創痕がついている。
 雨のせいか、創痕が疼いた。
(――いや、違うな)
 遠くの方で馬の蹄の音が聞こえた。それも複数だ。数にして、十はいる。男は窓の隙間から外の様子を窺った。
 しばらくして、村の入口から荒々しい男たちが馬で侵入(はい)ってくるのが見えた。
「これは面倒なことになりそうだ」
 と男が呟く。
 男たちの数は十より遥かに多い、二十はいた。どれも野蛮そうで、下卑た面構えである。
 雨の中を男たちは馬に跨ったまま、家屋の戸を次々と突き破り中に侵入っていく。――明らかに匪賊だった。
「ゆっくり休むことも出来ねえのか」
 男は立て掛けておいた刀を腰に差して、二階の部屋から出ておりた。。
「どうかしましたか?」
 宿の主人が尋ねる。外の異変に気付いていないらしい。
「――いや、少し外に出てくる」
「この雨の中をですかい?」
「すぐに戻るよ」
 戸を開けて、男が宿の外に出た。
 すでに賊たちの略奪は始まっていた。男の呻き声と女に悲鳴が聞こえてくる。――男は宿の前、道の真ん中に仁王立ちして、待った。
 すぐに賊の一人が男の存在に気付いて、馬に跨ったまま男の目の前まできて大声をあげた。
「なんだテメェは!!」
 馬の上にいるのは、顔の半分が髭で覆われた男で、手には山刀らしきものを握っている。
「馬から降りろ」
「なんだと?」
「馬から降りろ、と云った。馬には何の罪もない」
「何をいってやがるんだ、こいつは。たたっ斬ってやる!」
 髭の男が馬を走らせて、男に突っ込んでいった。
 それを男はスッとかわす。もう少しで馬の蹄に踏まれ、運が悪ければ死に至るところである。
 だが次の瞬間には、上から山刀が降ってくる。
 フッ――
 男の姿が消えた。
 忽然と、まるで霧散したかのように、髭男の視界から消え失せてしまった。
「なんだぁ!?」
 そのとき、グッと腕に重いものを感じた。
「随分と鈍(のろ)い動きで斬りかかってくるものだな」
 その声は、なんと髭男の山刀の上から発せられていた。
 ほんの一瞬で、男は素早く跳び、髭男の山刀の上に着地していたのである。
「―――!?」
 髭男は驚きのあまり声も出せない。
 そこに男の一閃が奔(はし)った。髭男の頭がごろんと地に落ち、首からは血が噴き荒れた。馬は首なしの躰を乗せたまま走り続けている。
 斬ると同時に山刀から跳んでいた男が地面に着地した。
 水溜りの泥水がわずかに跳ねた。
 男は刀を片手に、鋭い双眸で、ほかの賊を捜す。――残る賊は何人か。
 蕭条と雨は降り続いていた。杪秋の冷たい雨であった。



<作者のことば>
ずーっと放っておいていた「業(カルマ)宿しの剣」の再開に当たって過去の分を加筆修正して再掲載。
「蕭条」や「杪秋」といった語彙は、少なくとも今の自分にはないのに、当時はどこで知ったんだろう? 軽く韻を踏んでいるのが気に入ったので、最後にもう一度持ってきました。(「~あった」と「~ある」どちらがいいのかわからない。)

ちなみに過去分はこちら→ 「業宿しの剣(1)」
どのように書き直したかの過程が見えるのも面白いと思うので、ここに残しておきます。


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