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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2015/09/14(月)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-11 (宴のはじまり)
 暗闇があった。上も下もわからない。真の暗黒だった。
 そこに薄っすらと光が差し込んだ。深い闇の中から、ゆっくりと月が姿を現す。大きな月。
 月の手前に巨大な丘のシルエットが浮かび上がった。遠方には塔がある。天を衝くほど高い塔は、その終わりが見えない。塔の先端は闇に埋もれている。
 月明りで浮かび上がる、塔と丘の輪郭が交わり合うところに何かがあった。――人影だ。
 その数は七つであった。
 七つの人影が丘の上に立っている。
 その風貌は月明りの逆光になっていて、見えない。
 ただ、中央に立つ者の双眸が赤く輝いていた。その赤はひどく禍々しい。
 よく見ると人影の並ぶ丘が蠢いている。それは人の丘だった。人で築かれた丘だった。死屍累々と積まれた人の山。死者と生けるものがない交ぜになって積まれている。屍の間から苦痛にうめく者の腕が伸びていた。両脚のない者は、転がり落ちないように必死に屍を掴んでいる。四肢がなく、身動きができない者もいた。
 丘の麓から真っ赤な河が伸びている。先ほどまでは気付かなかった河だ。
 赤い河は足許まで続いていた。そのとき初めて、河水が血であると理解した。あの丘の、死者と生者から流れ出る血が大河となって続いているのだと。
 そのとき巨大な影が月を覆った。
 それは獣だった。赤き獣。赤き竜――

 ***

 目を覚ますと知らない部屋だった。上半身を起こすと軽い眩暈に襲われた。
 ――そうだった。あたしはきっと倒れたんだ。
 強烈な眩暈に足許が揺らぎ、立っていられなくなったことを思い出す。そしてあの男のことも。もう自分を知っている人間と会うことはないのだと思っていた。もう自分を知る者に会わなくていいのだと思っていた。それは救いであり、ある意味では生きる希望ですらあった。こうなってしまった世界で、そんなことに希望を見出すなんておかしいかもしれないが、それでも美琴にとってそれは希望だった。
 そこに、あの男は現れた。
 男のことはあまり知らない。名前が相楽 幸一(さがら こういち)だということだけ。同じ学校に通っていたが、クラスが同じになったことはなかった。それでも美琴が相楽を知っているのは、相楽が美琴のクラスメイトと一緒になって彼女をいじめていたからだった。相楽が笑いながら美琴の弁当の中身を窓から投げ捨てたのを憶えている。空になった弁当箱が、美琴の机に残った。忘れたくても忘れられない、あの笑い声。
 体育の授業が終わり、制服が男子トイレの便器の中に放り込まれていたこともあった。制服を捜す美琴に、誰かが「男子トイレにでもあるんじゃない?」と言った。おそるおそる男子トイレに入ってみると、そこに相楽たちがいた。「おいおい、男子トイレに入ってくるなよ」の言う声に、どこか楽しそうな響きが含まれていた。スカートが小便器の中に入っていた。「それお前のだったの? ごめん、さっきそこ使っちゃったわ」と言ったのは相楽だった。美琴は涙を浮かべながら、スカートを手に取った。ブラウスはいちばん奥の個室の便器に突っ込まれていた。悔しさがあった。怒りがあった。しかし何も言えない自分がいた。悔しさや怒りを上回る恐怖が心に巣食っていた。美琴は残りの授業を体操着のまま受け、制服はカバンに入れて持ち帰った。それを見た母は何も言わなかった。
 どうしてよりにもよって相楽なのだろう。あのときの悔しさと怒りが込み上げてきた。そしてもちろん恐怖も。涙をこらえて、美琴はポケットの万能ナイフを握りしめる。鉄パイプを化け鼠の喉元に捻じ込んだときのことを思い返した。彼女の後をついてきた名もなき犬のナイフの刃を差し入れたときのことを思い出す。今の自分は以前ほど弱くない。そう言い聞かせた。
 ――それに、ここは学校じゃないんだし、いざとなったら出ていけばいいだけのことじゃん。
 もし、そうなったとき、牧はどうするだろうか。ついてきてくれるかな、と思ったあと、彼がついてきてくれる道理などどこにもないことに気付く。彼は美琴の保護者でもなく、おそらく友人でもない。せめて引き留めてはくれるだろうか?
 なぜ、出会ったばかりの男にこんなことを考えてしまうのか。自分は何を期待しているのだろう? これが恋ではないことだけはわかっていた。じゃあ何なのか? その答えは美琴自身にもわからなかった。

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