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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2015/09/11(金)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-10 (救出)
 男に飛びかかった宗二郎は、そのまま男に馬乗りになり、何度も何度も己の拳を殴りつける。男は反撃しようと試みるも、宗二郎は脇に落ちていた手のひら大のコンクリート片を掴み、男の側頭部に叩き込んだ。どろっと血が溢れる。宗二郎の両の拳は、痛々しく血が滲んでいた。
 男の横で、犯されていた半裸の女が宗二郎を見つめていた。その目に恐怖の色が浮かんでいることはひと目でわかった。コンクリート片が手から離れ、音を立てて地面に転がった。先ほどまで憎悪の黒き炎を宿していた宗二郎の双眸はどこか虚ろで、突然世界に興味を失ったかのようだった。

「おい、大丈夫か」

 それが女と宗二郎どちらに向けての言葉なのか、自分自身でもよくわからないままに舘岡が声をかけた。宗二郎が振り向く。その眼には微塵も光が感じられない。舘岡は言葉に詰まった。
 そんなとき「これを」と飯沼が自分の上着を脱いで、女に手渡した。女の顔は恐怖と混乱でこわばっていた。明らかに動揺しているが、無理もないことだと舘岡は思った。知り合いか見ず知らずか、どちらにせよこの女はひとりの男に無理やり犯され、そして自分を犯していた男が次の瞬間には頭から血を流して倒れている。これだけ変貌を遂げてしまった世界の住人でも、そう簡単には呑み込めない状況だ。それでも女は飯沼の気遣いに、多少ながら安堵の表情を見せていた。「おねえさん、名前は?」
「呉……頼華」
 名前を教えていいものだろうか。――そんな躊躇(ためら)い混じりの声だった。
「頼華サンね。俺は舘岡っす。……その、なんていうか、大丈夫っすか?」
 頼華は小さく頷いた。心の傷はともかく、体に大きなケガはないようだった。とはいえその顔は殴られたのか大きく腫れあがっている。
 舘岡に続いて、飯沼も名乗り、頼華に手を差し伸べた。彼女はおそるおそるといった感じで飯沼の手をとり、ゆっくりと立ち上がる。それを宗二郎は眺めていたが、その姿は心ここにあらずといった様子だった。さっきまで野獣のように男に襲いかかっていたとは思えない。
「さて、どうしますか……」
 困った舘岡は、飯沼に助けを求める。だが、飯沼も困った表情を浮かべるだけだ。
「おねえさんは、どこから?」
 頼華は、自分たちが拠点としているホテルである<キャッスル>のことを教えた。同時に自分を犯した男――井岡との関係も簡単に説明した。関係といっても、同じ建物で避難生活を送っている以外の関係はない。特に親しいわけではなかった。
「うう…」
 かすかな呻き声を耳にして、舘岡は井岡を見遣った。意識があるわけではないが、死んでいるというわけでもないらしい。飯沼が脈を診る。そして「生きてる」と呟いた。正直なところ、舘岡はてっきり死んでいるかと思っていた。なかなかタフなやつらしい。――すぐに手当てしなければ、結局死ぬかもしれないけどな。
「行こうぜ」
 舘岡が飯沼に声をかける。
 彼からは「ああ」と気のない返事が戻ってきただけだった。


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