FC2ブログ
みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/09(土)   CATEGORY: 夕方シリーズ
夕方、今あなたのもとへ。
 窓の外を眺めると、そこには雲があった。わたしは雲の上にいた。なんだか不思議な気分だ。
 私はいま、空の上を時速数百㎞で移動しているのだ。

 ユウと出会ったのはあるバンドのライヴでだった。
 結構大きな会場、ファンは大いに沸き、そこはこれ以上ないくらい盛り上がっていた。その中のひとりに、私もいた。
 途中までは周りと同じく、私も盛り上がることができていた。大好きなバンドだったし、テンションも上がっていた。だけど、ふと冷めた自分の存在に気付く。理由はわかっていた。当時付き合っていた男と別れたのだ。本当は一緒にライヴに行くはずだった。私の隣に、彼がいるはずだった。けど、その男はひそかに浮気をしていて、それを知った私は激怒。それを許せず別れた。いま考え返してみると、どうして許してやれなかったのだろうと思う。浮気くらい許してやるべきだった気もする。まあ頻繁に行なわれるようでは困るが、それが初めての浮気発覚だったし、私ももう少し原因を自分に向けてみるという努力もしてみるべきだったのだろう。
 自分から「別れる」と言ったのに、あんなに寂しかったのはなぜだろう。
 ふいに涙が流れた。
 幸い、あの場に限り、それが不自然な行動ではなかった。以前から感動で泣いている子の姿も見えていたし、誰も私の涙に疑問など抱かないはずなのだ。
 そう思っていたのに――ユウは違った。
 ライヴが終わりひとり帰ろうとしたら、ユウが声をかけてきた。
「あの、よかったら、これから一緒に飯食いに行きませんか?」
 ユウはわたしより全然若く、最初はなんでこんなオバサンなんかにナンパ? などと思っていた。
「実は俺ひとりで来てて、どっちにしろこのあと食べに行くつもりなんです。でもこのままだとひとりで食べることになっちゃうんで。あの、気付いてるかわからないですけど、となりだったんですよ、ライヴ。なんか同じでひとりみたいだったし、声かけてみたんですけど――どうですか?」
 どうせ私もひとりで食べることになるところだったから、ユウの誘いを受けることにした。まあ、少しは浮気をしたあの男へのあてつけ的な気持ちがあったことも否めない。
 近くのファミレスに私たちは入り、ユウはハンバーグとライス。ドリンクにはクリームソーダを頼んだ。少し子供っぽいその注文に、少し笑えた。するとユウは「なにか面白いことでもありました?」と尋ねてきたので適当にごまかした。それが余計に笑いを誘いもしたけれど。
 お互いの食事が終わる頃、私たちは少しだけ親しくなっていた。お互いの趣味が似ていることを知り、一気に打ち解けたのだ。
 音楽の嗜好も一致していることから、そのあと私たちはカラオケに向かった。そこでもユウはクリームソーダを頼んだので思わず「好きなの?」と訊くと「かなり」という答えが返ってきておかしかった。「どうせ子供みたいだとか思ってるんでしょ?」ユウは私の思考を見事に読み、「そこがいいんですよ。懐かしい感じが好きなんです」と言った。
 そして私が何曲か歌い、彼のクリームソーダのバニラアイスが溶けて形を失った頃、ユウは突然、口を開いた。
「なんか悩みとかあるんですか?」
 ドキっとした。私は何の反応も示せず、停止した。
「あの、なんていうか、何かあったんですか? 悩みとかじゃなくても、なんでも」
「――どうして?」
 やっと言えたひとことだった。
「なんか、ライヴ中のミカさん、元気なかったから。――悲しそうっていうか、寂しそうだったっていうか。それに泣いてたし」
 彼は――気付いていたのだ。あの大観衆の中で、唯一。
「もし何かあったなら、話くらいは聞いてあげれるかなって。もちろん話したければでいいんですけど。まあ、こんな若造がなんだって感じかもしれないけど…」
 ユウの優しさが胸にしみた。ただ単純に嬉しかった。
 私は誰かに気付いて欲しかったのかもしれない。――いや、そうだったのだ。ひとりで抱え込むのは苦しくて、誰かに聞いて欲しかった。優しくして欲しかった。同情でもなんでもいい、味方が欲しかったんだ。悪いのは男の方だって、私じゃないって言ってくれる人が。甘えだったってことはわかってた。けど、やはり誰かに甘えたかったのだ。
 それから2時間、私は別れた男の話をした。それに他にも過去に付き合った悲惨な男のこととか、つらい思い出、自分の嫌なところ。普段は人になど絶対に聞かせないような話、誰にも見せないような自分をすべて曝け出した。
 不思議だった。長年の友人にすら話したことのない話まで、私は話していた。お互いに色々と趣味が一致していて、互いのことを知っている気になれていたのがよかったのかもしれない。友人でも赤の他人でもない微妙な距離感が、私を安心させていたように思える。
 その夜、私たちはセックスをした。お互いがびっくりするくらい、気持ちいいセックスだった。
 次の日にユウは地元へと帰っていった。彼の住んでいるところは田舎で、普段はめったにライヴなど行なわれないので、わざわざこんな遠くまで出向いてきたとのことだった。こちらにはいとこが住んでいて、本当はそっちに泊まる予定だったようだ。
 でも、それからも私たちは連絡を取り合った。頻繁にメールをしたし、たまには電話もした。そしていつの間にかに付き合うことになって、いま一年振りに彼に会う。

 飛行機は着陸態勢に入っていた。
 窓から覗くと地上があり、小さく空港が見えた。
 彼は空港まで迎えに来てくれているらしい。
 もうしばらくすると、私はユウと一緒にいる。
 そう考えると、自然に笑顔が浮かぶ自分に気付いていた。


<作者のことば>
前2作を書いたときに、もう「夕方シリーズ」として書いちゃおう! とのことで書いたやつ。

結構、無理やり書いた。

←Click me!!
[ TB*0 | CO*2 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する
● 絵にしたいけど、して欲しくはない
ペリット | URL | 2008/08/09(土) 21:28 [EDIT]
飛行機が浮いたと同時に、主人公の笑顔も浮いたのかな~て考えてしまいます。想像したらかなり絵になりました。そんな所が小説の解釈だと勝手に思っています。

後、今まで言いだせなかったのですが、リンクしても良いですか?ファンになりました。

匡介 | URL | 2008/08/10(日) 23:21 [EDIT]
>ペリットさん
気に入って頂き、どうもありがとうございます。同じ書き手してペリットさんならわかると思いますが、そう言ってもらえると最高です。
リンク大歓迎ですので是非是非お願いします! こちらからもリンクさせて頂きますねっ。

改めてよろしくお願いします。
どうか仲良くさせて頂けると嬉しいです。

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ