爆音デイズ(3)
ライヴ当日。僕は開演から1時間も早く着いてしまったので、ライヴハウスの近くにあるコンビニで時間を潰すことにした。コンビニの雑誌コーナーにある雑誌を一冊手にとって読む。30分もすると健吾から電話がきた。僕は自分がライヴハウス近くのコンビニにいることを告げる。少しするとコンビニのドアが開き、店内に健吾が入ってきた。女の店員に目を遣ると、健吾に見惚(みと)れているのがわかる。ほんと罪なやつ。
「早いな」
「ひまだったからね」
健吾も雑誌コーナーにある雑誌を一冊手にとって読み始めた。手にとったのはファッション誌。今でも充分におしゃれだと思うのは僕だけだろうか。
***
先に言っておくとこの日のLucyのライヴは中止となった。理由は簡単。時間になってもシンさんが来なかったからだ。次にシンさんが来なかった理由だけど、これは少し言葉にしづらい。この日、シンさんは病院へ運ばれたのだ。数ヵ所の骨折と数え切れない打撲によって。
***
シンさんが正体不明のやつらにリンチされた次の日から龍次は街中を走り回っていた。知り合い中に情報を集めさせた。龍次の顔は広い。このせまい田舎の街では犯人たちが見つかるのは時間の問題のようにも思える。
龍次があちこちで情報を集めているとき、僕は病院に向かっていた。シンさんが入院している病院。やはり一度はお見舞いに行くべきだろうと思ったので、赤く美味しそうなりんごを片手にシンさんの入院する病院へと足を踏み入れた。
龍次に聞いた番号の病室を探す。4階の角の部屋。意外とすぐに見つかり、ノックしてからドアを開けた。
「いらっしゃい」
包帯でぐるぐる巻きにされたシンさんが出迎えてくれた。顔も腫れあがっている。
「あの、大丈夫ですか?」
「うん。心配かけてごめんね。でも、大したことないから」
大したことないはずがない。シンさんは喋るのもつらそうだった。
「あれー?」
今、僕が入ってきたドアの方から声がした。声の主を確認するとそこにはケンが立っている。
「義之さん、来てたんだ」
「うん。ケンも来てたんだね」
「うちのリーダーがこんなことになっちゃメンバーのひとりとして心配だもん。しかものどが渇いたっていうから今ジュース買ってきたとこ」
そう言ってケンはシンさんにオレンジジュースを渡した。シンさんはありがとうと言い、痛々しい動きで紙パックにストローを挿した。
「龍次はどうしてる?」
「その、犯人捜しを」
窓の外からはバイクのエンジン音と排気音が聴こえてくる。
「そっか。少し心配だなぁ」
「だよねぇ。龍次ったらやり過ぎちゃうとこあるもんね」
僕は持ってきたりんごをシンさんが横になっているベッドのとなりにあるテーブルに置いた。
しばらくすると病室のドアをノックする音が聴こえた。ケンがドアを開けると病室に木村佑太が入ってきた。佑太さんはLucyのヴォーカリストだ。何度か会ったことはあるんだけれど、メンバーの中でも一匹狼的な存在で、あまり親しく話したことはなかった。
「やあ。佑太も来てくれたのか」
「シン、お前大丈夫なのか?」
金髪につりあがった細目のヴォーカリストは独特のハスキーな声でそう言った。
「うん、なんとか」
「ギター、弾けるのか?」
「いや、それはちょっと無理かな」
シンさんを心配なのかどうなのかよくはわからない発言。あくまで心配なのはギタリストとしてなのだろうかと疑ってしまいたくなる。
「手、ケガしてるのか」
「うん。大きいケガは小指の骨折だけど、左手じゃないしコードは押さえれるからすぐに弾けるようになるよ」
「そうか。よかった」
これは少しムッときた。ギターが弾ければそれでいいのか。
「佑太、少しひどくない?」
「何がだ」
「もっとシンのこと心配してあげてもいいじゃん」
金髪のヴォーカリストの表情は変わらない。
「してるよ」
「でもギター弾ければいいってわけじゃないでしょ」
「そうだな」
クールというかポーカーフェイスというか佑太さんは始終表情を変えなかった。そしてすぐに帰っていった。さっきも聴こえたエンジン音と排気音。たしか佑太さんはシルバーのハーレーダビッドソンに乗っているはずだ。
しばらくして僕も帰ることにした。ケンはもう少しいるらしい。意外と甲斐性のあるやつ。
(...to be continued)
「早いな」
「ひまだったからね」
健吾も雑誌コーナーにある雑誌を一冊手にとって読み始めた。手にとったのはファッション誌。今でも充分におしゃれだと思うのは僕だけだろうか。
***
先に言っておくとこの日のLucyのライヴは中止となった。理由は簡単。時間になってもシンさんが来なかったからだ。次にシンさんが来なかった理由だけど、これは少し言葉にしづらい。この日、シンさんは病院へ運ばれたのだ。数ヵ所の骨折と数え切れない打撲によって。
***
シンさんが正体不明のやつらにリンチされた次の日から龍次は街中を走り回っていた。知り合い中に情報を集めさせた。龍次の顔は広い。このせまい田舎の街では犯人たちが見つかるのは時間の問題のようにも思える。
龍次があちこちで情報を集めているとき、僕は病院に向かっていた。シンさんが入院している病院。やはり一度はお見舞いに行くべきだろうと思ったので、赤く美味しそうなりんごを片手にシンさんの入院する病院へと足を踏み入れた。
龍次に聞いた番号の病室を探す。4階の角の部屋。意外とすぐに見つかり、ノックしてからドアを開けた。
「いらっしゃい」
包帯でぐるぐる巻きにされたシンさんが出迎えてくれた。顔も腫れあがっている。
「あの、大丈夫ですか?」
「うん。心配かけてごめんね。でも、大したことないから」
大したことないはずがない。シンさんは喋るのもつらそうだった。
「あれー?」
今、僕が入ってきたドアの方から声がした。声の主を確認するとそこにはケンが立っている。
「義之さん、来てたんだ」
「うん。ケンも来てたんだね」
「うちのリーダーがこんなことになっちゃメンバーのひとりとして心配だもん。しかものどが渇いたっていうから今ジュース買ってきたとこ」
そう言ってケンはシンさんにオレンジジュースを渡した。シンさんはありがとうと言い、痛々しい動きで紙パックにストローを挿した。
「龍次はどうしてる?」
「その、犯人捜しを」
窓の外からはバイクのエンジン音と排気音が聴こえてくる。
「そっか。少し心配だなぁ」
「だよねぇ。龍次ったらやり過ぎちゃうとこあるもんね」
僕は持ってきたりんごをシンさんが横になっているベッドのとなりにあるテーブルに置いた。
しばらくすると病室のドアをノックする音が聴こえた。ケンがドアを開けると病室に木村佑太が入ってきた。佑太さんはLucyのヴォーカリストだ。何度か会ったことはあるんだけれど、メンバーの中でも一匹狼的な存在で、あまり親しく話したことはなかった。
「やあ。佑太も来てくれたのか」
「シン、お前大丈夫なのか?」
金髪につりあがった細目のヴォーカリストは独特のハスキーな声でそう言った。
「うん、なんとか」
「ギター、弾けるのか?」
「いや、それはちょっと無理かな」
シンさんを心配なのかどうなのかよくはわからない発言。あくまで心配なのはギタリストとしてなのだろうかと疑ってしまいたくなる。
「手、ケガしてるのか」
「うん。大きいケガは小指の骨折だけど、左手じゃないしコードは押さえれるからすぐに弾けるようになるよ」
「そうか。よかった」
これは少しムッときた。ギターが弾ければそれでいいのか。
「佑太、少しひどくない?」
「何がだ」
「もっとシンのこと心配してあげてもいいじゃん」
金髪のヴォーカリストの表情は変わらない。
「してるよ」
「でもギター弾ければいいってわけじゃないでしょ」
「そうだな」
クールというかポーカーフェイスというか佑太さんは始終表情を変えなかった。そしてすぐに帰っていった。さっきも聴こえたエンジン音と排気音。たしか佑太さんはシルバーのハーレーダビッドソンに乗っているはずだ。
しばらくして僕も帰ることにした。ケンはもう少しいるらしい。意外と甲斐性のあるやつ。
(...to be continued)
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