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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2015/03/30(月)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-8 (城砦Ⅱ)
 案内役の酒井真美の頬には、青紫に変色した痣が痛々しく残っていた。まるで誰かに殴られたようでもあるが、あいつら――あの化け物に襲われたときに出来たものかもしれない。
 ホテルの内部は静かだった。ほかに人の気配は感じられない。どこか薄暗く、空気が冷え冷えとしていた。とても大勢の避難者がここで生活しているとは思えない。
「いったい何人くらいの人たちがここに避難しているんですか」
「実はね、今朝までは200人ほどいたの。でも事情があって100人近い人たちがここを出ていったわ」
 牧らに会うまでは、自分が地上で最後のひとりなのだと信じて疑いもしなかった美琴にとって、それは驚くべき人数だった。半数の100人が出ていったとしても、まだ100人もの人々がここで避難生活を送っているというのは、なかなか実感が湧かない。じゃあなんでこんなにも人気(ひとけ)がなくて、こんなにも寒々しい印象を受けるんだろう? そして出ていった人々に、行くあてなどあるのだろうか。美琴は、楽園を求めて旅する信仰者の群れを想像する。
「事情って?」
「うーん、なんていうかね、城田さんのやり方に馴染めなかったってことなのかな」
 城田の端正な顔立ちを思い浮かべた。肌は雪のように白く、瞳は闇のように暗く深い。やはり彼がここの指導者(リーダー)的立場にいるようだ。たしかに、城田の全身から滲み出るようなカリスマ性のオーラは、彼がリーダーであることを納得させるものがある。
「牧さんたちが生存者の捜索に出ていってからは、もっぱら城田さんがここを仕切っている感じ。それまでは安久津ってヤクザまがいの男がボスを気取ってたんだけど、実際には城田さんや結城さんたちが話し合いで物事を決めていたの。――安久津と結城さんは知ってるんでしょ?」
 美琴の脳裡に安久津のいやらしい顔が思い出され、すこし気分が悪くなる。あれはヤクザまがいというよりも、ヤクザにしか見えなかった。欲望に正直で、感情のままに生きてきたのだろう。そんな男の最期は、拳銃を振り回しながら鼠に喰われるといったものだった。喉元を喰いちぎられ、血が噴かせながら死んでいった。クズには似合いの死にざまだ。
 けれど結城は違う。彼は年輩者らしい優しさがあった。物腰は柔らかく、信頼のおけそうな人物だっただけに、結城の死は残念だったと美琴は思う。いまのところ、牧以外には気を許せそうにない。いま目の前にいる酒井真美も、同性という安心感はあるが、信用していいのかわからなかった。おなじ女だからといって助けてくれる、人間とはそういうものではないことは知っていた。クラスメイトの女子が、美琴のことを助けてくれたことはなかった。
「安久津って男は、たしかに嫌な感じのやつだった」
「あいつは威張り散らかしたいだけの、小物って感じだったもの。リーダーぶってはいたけど、誰もあいつのことをリーダーだとは思ってなかったわ」
 それで今は城田がリーダーということか。いや、安久津がいたときからリーダーは城田だったのだろう。それはなんとなくわかる気がする。美琴はふたたび城田のことを思い描いた。でも、彼は本当に信用における人物なのだろうか?
「ここじゃ、みんなが誰かと相部屋になってるの。もし何かあったとき、ひとりよりもほかに誰かいた方が安心でしょ?」
 ここにいる女性の数はどれほどだろう、と美琴は思った。もちろん、相部屋の相手は女性だとは思うけれど。
「相部屋は、べつに誰となってもいいんだけど、もし不安ならわたしと一緒の部屋にしようか? そうなるように調整してもいいよ」
 美琴は、真美の厚意を素直に受け入れた。彼女の話では、男女の相部屋も少なくないらしい。いつ化け物が襲ってくるかわからない中で、男性が近くにいてくれた方が安心するという女性がいるとのことだった。まあ、わからないでもない。それに当然のように男女の仲、というのもあるらしい。
 廊下の向こうに、人影が見えた。男と、女だった。その姿に、美琴は凍りついた。知った顔だ。クラスは違ったが、同じ高校の男子生徒だった。嘲り。侮蔑のまなざし。あの声がフラッシュバックする。頭痛がした。やはり――ここの空気は冷えている。心臓が大きく脈打つ。さむい。眩暈――どこか掴まるところを。視界がぐらっと傾き、そして歪んだ。まるで巨大な怪物の大きく開いた口の前に立っている気分だった。立っていられない――・・・
 美琴は、その場に倒れた。

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