FC2ブログ
みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2015/03/29(日)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-7 (城砦Ⅰ)
 美琴は制服を着ていたが、それは以前の制服と同じではなかった。寝泊まりした家から拝借したものだ。勝手に使わせてもらった部屋の主が、自分と似た年頃だろうということは美琴にも察しがついたけれど、部屋の主と美琴の服の趣味はあまりにも違っていた。いくら緊急時といえど、ここまで趣味じゃない服は着たくないな、と思い、美琴は目についた学校の制服を着ることにしたのだ。サイズはちょうどよかった。
 隣を歩く村尾は、ジーンズとシャツというシンプルな出で立ちになっていたが、それが本人の趣味なのか、趣味じゃないと思いつつ仕方なく着たものなのかはわからなかった。美琴は、村尾に良い印象は抱いておらず、ほとんど会話らしい会話はしていなかった。
 牧も、ジーンズに黒のTシャツというシンプルな格好で、見合うサイズがなかったのだろう、Tシャツは小さく、牧の体格の良い躰にぴっちりと張りつくかたちになっている。それでも伸縮性の高い素材のようで、それを着て動くことには支障はない様子だ。
「あれだ」と牧が言った。
 それはホテルだった。正面を見ると「CASTLE」という文字が見える。おそらくホテルの名前だろう。まさしく今は、生き残った者たちの城砦(キャッスル)になっているのだ――と美琴は思った。それが人類最後の砦かどうかまではわからないが。
 ホテルのロビーは広かった。高級感があり、きっとこのあたりでもそれなりのホテルだったに違いない、と美琴は思った。ロビーラウンジに数人の男たちがいた。男たちが、それぞれに銃を持っていることにはすぐ気が付いた。見張り役なのだと美琴は判断した。
 その男たちの中からひとり、細身の若者がこちらに近付いてくる。
 男は美青年と言っていいかもしれない。鼻が高く、整った顔立ちで、肌の色は妙に白かった。そして肌の色とは対照的に真っ黒い瞳は、その奥に闇が広がっていると思えないほど濃く深い。独特の雰囲気をまとっていた。男が笑みを浮かべて、牧に声をかけた。
「おかえり。お疲れさまです」
 男の視線は、美琴を向いていた。
「その子は?」
「生存者だ」と牧は言った。
「そうか、大変だったね」男は握手を求めて手を差し出した。「僕は城田です」
「天嶺美琴です」
 仕方なく、美琴は差し出された手を握ったが、その手は血が通っていないのかと疑うほど冷たい。 
「よく生き延びたね。ずっと、ひとりだけで?」
「そうです」
「そうか。ここには大勢の生存者がいる。みんなで力を合わせればこの危機もなんとか越えられると僕は信じている。あとできみにも何か仕事を頼むかもしれないけど、そのときはよろしく頼むよ。とにかく、今はゆっくり休むといい。誰かにホテルの中を案内させるから、空いてる客室(へや)を使うといい」
 たしかに、心身に疲労が蓄積していた。ずっと歩き通しだったし、早く腰をおろしたいという欲求が強かった。いまは城田の言うようにゆっくり休みたい、そして何か手伝えることがあるなら、あとで手伝おうと思った。このような状況になったいま、何もせずにいることは出来ないだろう。
「牧、他の同行者は?」
「全員死んだ。――申し訳ない」
「そうか……まあ、そうなってしまったことは仕方ない」
 美琴には城田の方がだいぶ若く見えたが、立場は牧よりも上といった感じのことに内心驚いていた。そもそもこの<城>では、上下関係というものがあるだろうか? 誰かがリーダーとなって、全体をまとめ上げている? あるいは、それがこの城田という男なのかもしれなかった。確かに頭の回転は早そうだし、美琴は城田に、どこかカリスマ性のようなものを感じていた。
「君も疲れたろう。牧、例の部屋を使うかい?」
「いや――自室で休ませてもらう」
「俺の方は使わせてもらう」と村尾が言い、返事も待たずにこの場を去った。
 美琴は“例の部屋”とはなんだろうと思ったが、ホテル内を案内してくれるという女性が現れて訊くタイミングを逸した。まあ、訊こうと思えばあとでも訊ける。美琴は案内役の女性のあとを追った。

[ TB*0 | CO*0 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ