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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2014/05/03(土)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-6 (滅びゆく街Ⅴ)
 天嶺美琴は、コーヒーの香りによって目覚めた。ベッドから起きてみると、ダイニングで牧 健吾がコーヒーを啜りながらトーストを食べているのが見えた。テーブルには皿に載ったおにぎりが置いてある。おにぎりはラップで覆われていた。
「起きたのか」牧がマグカップを置いた。そして視線でテーブルに載っているおにぎりを指した。「食べるか?」
「うん」
 美琴はテーブルに着いて、皿のラップを剥がした。それを見て牧が「お茶は?」と聞いたので、「いる」とだけ答えた。牧が冷蔵庫から緑茶のペットボトルを取り出し、緑茶をコップに注いだ。美琴は黙ってそれを受け取った。
「コーヒーの方がよかったか?」
「べつに。お茶でいいよ」
「パンは賞味期限が切れてたんだ。俺はそれでも構わなかったからパンにしたんだが」
「だいじょうぶ」
 何が「だいじょうぶ」なのか自分でもわからなかったが、美琴はそう答えていた。牧の言い訳は、自分のことを気遣ってなのだと思った。美琴は、無理に気遣わなくても大丈夫だと言いたかった。――けれど、伝わっただろうか?
 この男(ひと)は何歳くらいなのだろう? 風貌からは20代とも30代ともとれる。大柄なせいもあって、より大人に見えるのかもしれないし、年相応なのかもしれなかった。あるはもっと若い? (――でも)と美琴は思う。なんだか若い女の子に慣れてないといった雰囲気からは、それなりの年齢という気もする。そもそも女性そのものに不慣れといった印象があるのだけれども。
 真面目で、不器用。鍛えられた大きな躰は、力強くて、とてもタフ。もしかして格闘家だったりとか、する? 職業は何だろう。このゴツゴツとした、大きな手で、朝早くからひとりでおにぎりを握っていたのかと思うとなんだかおかしかった。
「食べて少し休んだら、ここを出よう。半日も歩けば着くはずだ」
 巨大な古代鳥に襲われたあと、美琴たちは1時間ほど歩いた先で“空き家”を見つけた。誰もが疲労困憊で、疲れに疲れきっていたし、日も暮れ始めていた。そして当然のように、その家で休むことにした。
 空き家といっても、いまは無人というだけで、もちろん誰かが住んでいたのだろう。この家の住人は死んだか、それともどこかに避難したか、とにかくこの家には戻ってきていない。――そういうことで、美琴たちは一晩だけ家を“借りる”ことにした。
 なにより今は緊急時だし、勝手に借りても許されるだろうと美琴は思った。それに髪も肌も衣服も、血と汗と砂埃にまみれていた。家を借りて、美琴は真っ先にシャワーを浴びた。他人(ひと)の家のシャワーを勝手に使うことに多少の罪悪感はあったが、やはり全身の汚れを落とせるのは有難かった。シャワーを浴びてさっぱりすると、心なしか気力が湧いてきた。生きる気力だ。
 牧の話によれば、生存者たちの“避難所”は、ここから歩いて半日の距離だという。
 無事に辿り着けるだろうか――、という思いは当然の如くある。道中で何に出くわすかわからない。醜悪な、畸形の化け物どもは、地上のあらゆるところにいて、美琴たち人間を狙ってるように思われた。
(それでも――)と美琴は思う。
 わたしは生き延びて、わたしを嗤った人間たちに復讐する。生きることで、復讐する。ざまあみろ、あんたらは死んで、あたしが生き残るんだ――ざまあみろ。絶対に生き残って、そして今度はわたしが嗤うんだ。結局のところ、生き残ったのはわたしなのだ――、と。
 わたしは絶対に生き残る。
 たとえ地上が地獄に変わろうとも。絶対に生き残ってやる。

 それがわたしの、復讐だ。


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