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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/06(水)   CATEGORY: 夕方シリーズ
夕方、帰宅後の風景。
 アパートに戻りドアを開けると、5歳年下の彼が文庫本を片手に私を見上げた。
「おかえり」
 彼がそう言ってきたので、私は「ただいま」と返した。
「疲れたよー」
 私がそう言うと、彼は「お疲れさま」と返してくれた。しかしもうその目線は、再び手元の文庫本へと戻っていた。
 本を読むときの彼の集中力は並大抵のものではない。それが他のことでも発揮されないのが残念だが、私は彼のそんなところも嫌いではなかった。なんか、彼らしいと思う。それに読書に勤しむ彼の横顔は真剣そのもので、それを眺めるのが好きだ。
 …なんて思っているうちに「読み終わった」と言い、彼はパタンと本を閉じた。
「もう読んだの?」
 私が驚いてみせると、「うん。だって今日ずっと読んでたし」と彼は言った。しかしたとえ一日中読んでいたとしても、その聖書のようなおそるべきヴォリュームの本を、もう読みきってしまうなんて、私には到底できそうにない。
「お腹空いたー」と彼が嘆いた。
 自称・アメ車の彼は燃費が悪い。ものすごい量をひとりで食べる。さらに驚くべきは、その脅威としかいえない空腹までのペースだ。食べたと思えば次に出てくるのが「お腹空いた」なのだから、もはや困ってしまうというかあきれる。
「本を読んだあとは、おそろしく空腹だよ」
「はいはい、いま作るから」
 今日は彼の好きなパスタにするつもりなのだが、彼には2人分の量を出してやろうか。しかしそれでも「足りない」と言われそうで、想像だけで少し笑ってしまう。
「…でもその前に!」
 私は思いっきり両手を広げ彼を見た。
「ん?」
 彼は私を見ると、軽く笑顔を作り、それまで掛けていた眼鏡を外してテーブルの上に置いた。
「仕方ないなぁ」というのは彼の些細な照れ隠しなのは知っている。でも望みどおり私をギュッと抱きしめてくれた。
 この瞬間、私はとても幸せになる。言いようのない幸せ。あー、好き! 叫びたくなる。
「大好きだよ」
 私より先に彼が口に出した。
「もう! 私も大好きっ!」

 ぐるるるるるー。

 部屋中に響きわたるほど豪快に、彼の腹の虫が鳴った。
「わかった、ごめんごめん。いま作る」
 私は名残惜しい気もしながら、彼から離れ、キッチンに向かった。
「何か手伝おうか?」
「ううん、大丈夫」
 それを聞くやいなや、彼は新たな文庫を取り出し、ページをめくった。
 もう、腹の虫に本の虫。ほんと仕方ないやつだ。
 ひとり笑顔で口元をほころばせながら、私は晩ご飯作りを始めた。


<作者のことば>
テキトーに書いたやつ。

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COMMENT

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ペリット | URL | 2008/08/06(水) 20:53 [EDIT]
2人の幸せそうな感じがこちらまで伝わってきそうです。料理と幸せでお腹一杯になれば良いなとご両人を応援してしまいました。

玖堂 匡介 | URL | 2008/08/07(木) 00:38 [EDIT]
>ぺリットさん
ありがとうございます。
想いっきりシンプルに、幸せなひとときを書いたつもりです。
個人的には「彼」のキャラクターは気に入っていて、そのうち他のキャラクターに「彼」の一部を引き継がせて書きたいな、と思ってます。

コメントありがとうございますね。

錆浅葱 | URL | 2008/08/07(木) 09:58 [EDIT]
おはようございます~浅葱ですm(__)m
朝から なんともまったりさせてもらいました(笑)
朝から活字読むとか ありえないんですけど(マジで!)
匡介殿の小説は なんだか読んじゃいます

アメ車に例えるところ 好きです
燃費の悪さもさることながら 一筋縄じゃいかない感じとか。

つい映画「60セカンズ」に出てくる「エレノア」を思い出しました(笑)
これ 自分の中でかなり上位にくる映画です

匡介 | URL | 2008/08/07(木) 15:56 [EDIT]
>錆浅葱さん
朝からありがとうございます! なんか感激ダナァ。
今後も活字苦手な浅葱さんにも読んで頂けるような小説を目指して書いていきたいですね(笑)←そしていつかは活字好きに!! までなれば最高なんですが(笑)

「60セカンズ」、たしかアンジェリーナ・ジョリー出てますよね?
かなり以前に一度観た(しかも途中から)記憶があるんですが、思い出せません。。
映画大好きなので今度観てみようかと思います。どいつが「エレノア」だぁ~? みたいな感じで(笑)


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