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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/05(火)   CATEGORY: 短篇小説
奇怪探偵・有島奇亜人≪伍≫
 ペットの死骸を全て捨てても、深夜に以津真天が現れなくなるといったことはなかった。
 安藤は頭を悩ませる。あの探偵、言っていたことと違うじゃないか。そうやって心の中で毒づいた。いや、問題はあれなのだということはわかっている。矢張り早めに処分しておくべきだろう。しかしどこへ? くそう、どうすればいいんだ。
 安藤が自分の部屋で苦悩としていると、玄関のドアをノックする音が聴こえてきた。コンコンコン。安藤は誰が来たのだろう?とドアの覗き穴から来客の確認をした。すると見えるのは有島と名無だった。今は午前一時を少し過ぎたところで、何か用があるにしても遅すぎる。安藤はどうしたのかと思い、ドアを開け二人を部屋に入れた。
「すみませんねぇ。実はまだやり残したことがあって。」
 有島のその言葉に安藤は心を躍らせた。もしかすると以津真天を退治出来るのかも知れない。そうなると、まだあれの処分をしなくていいということになる。そう思い、安藤は有島の「やり残し」に期待した。
「安藤さん、ペットの死骸ちゃんと全部捨てました?」
 有島のその質問に安藤は頷く。
「もしかして、それでもまだ以津真天の出現が収まらないんじゃないですか?」
「なんでそれを!?」
 予想もしていなかった有島の言葉に、安藤はつい大声になってしまった。
「たぶん、問題はペットにあるんじゃない。」
 自分が唱えた説を自分で否定するなんて、この男、大丈夫か? 安藤はわけがわからないといった様子だ。
「俺は以津真天が、動物の死体を放っておいて出たなんて話を聞いたことがないんですよ。まぁ、全くないということもないだろうが、俺はその例を知らない。」
 つまり? 安藤の頭に浮かぶのは疑問符だけだった。
「普通、以津真天っていうのは人の死体にあるところに出る妖怪ですから。」
 安藤の鼓動は早くなった。心音も高まったような気がする。ドクドクドク。安藤は思う。この男、あれに気付いているのか?
「安藤さん。今もそうだが、俺らが来たときもこの部屋は足の踏み場もないくらいだった。でも特にある場所の前には高く物が積まれてましたよねぇ?」
 ドクドクドク。安藤の鼓動は早まる。
「ああ、確かあれは浴室のドアの前だった。だとしたら妙だ。もしかして安藤さん風呂に入らない主義の人ですか?」
 ドクドクドク。こいつ、気付いてる。
「ああ、風呂場には、少し危険なペットがいてね。最初は興味本位で飼い始めたんだが、手に負えなくて、ああして浴室に閉じ込めてる。少し大型なんだ。」
 ドクドクドク。こんな嘘、通用するのか?
「もしかして、鰐(わに)かなんかですか?」
「まあ、似たようなもんだ。」
 安藤はそう答えた。有島の顔には不気味な笑みが浮かんでいる。そして名無には二人の会話の意味がわからなかった。

 そして…


「いつまで、いつまで。」


 その低く野太い声に最初に反応したのは名無だった。
「以津真天だ!」
 名無の脳内にはあの禍々しい以津真天の姿が映し出される。
「ああ、安藤さん。今夜もまた来てしまったようだ。」
 安藤の顔は恐怖に引き攣(つ)っていた。
「早く処分した方がいいよ? あの子。」
 あの子? 有島の言葉に名無が疑問を持つ。
「ちょっと待ってくださいよ。有島さん、あの子って何なんですか?」
 そう言ってから名無は気付いた。安藤の顔には先ほどまで以上に恐怖の色がより濃く浮かび上がっていることに。汗も噴き出してきて、尋常ではない。

「いつまで、いつまで。」

 鳴き声は止まない。
「本当にこの鳴き声の通りだ。いつまでああしておくつもりなんですか? あれはあなたの娘でしょう?」
 その言葉で安藤の心的ストレスが上限に達した。安藤は脱力し、その場に崩れた。
「おい、名無。その浴室のドア開けてみろ。」
「はあ。」
 一体何なのだと思いながらも名無は言われた通りにした。浴室の前にある物をどかしてドアノブに手をかける。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
 そこで放心していた安藤が突然叫んだ。
 有島が安藤の体を押さえつけた。
「さっさと開けろ!」
 そう言われ、名無は大慌てでドアを開けた。
 中からは濃い腐臭が漂ってきた。これが有島の言っていた死臭なのかと名無は思う。
 浴室にあったのは女の子の死体だった。それも長く放置されてきたようで、半分は肉が腐っている。それを見た名無は嘔吐しそうになった。胃の中の物が込み上げてくる。胃液が喉を焼いた。それでもどうにか耐えた。
「…これは?」
「それは安藤の実の娘さ。」
 そのときの有島の顔は見事に自分の推理が当たっていたことからなのか、笑みが浮かんでいた。
 それにしたって女の子の死体を前にして笑うとは薄気味悪いうえに、神経を疑いたくなる。

「いつまで、いつまで。」

 以津真天の低く野太い鳴き声は、まだ続いていた。

***

「どうしてわかったんです?」
 名無の問いに、有島は興味なさそうに答える。
「だから言ったろ? 死臭がしたって。」
 それにしたって、それが女の子の死体から発せられる臭いだなんて誰が気付くだろう。
「でも、安藤の娘だってことまでわかってたじゃないですか。」
「それは捜査したからだろ。お前は寝てたかもしれないけどな、俺はちゃんと調べてたのさ。」
 有島は続けた。
「安藤には奥さんがいたんだよ。もう死んでるけどな。ペットを飼うことには興味があったのかもしれないが、それを世話することはしなかったんだろう。だからペットの世話はやつの奥さんが代わりにしてた。きっと育児も同じで自分の妻に任せっきりだったんだろうな。奥さんが死んでから娘はちゃんとした生活をさせてもらえなかった。というか安藤のペット同様に放っておかれたんだと俺は思うが。たぶん、お腹が空いたとかって訴えたんだろうね、安藤に。でも安藤はそんな娘が鬱陶しくて浴室に閉じ込めたってところか。」
 こいつ、意外と名探偵か? 名無は思う。
「それと安藤は娘の捜索願いを出してたよ。そうやって勝手にいなくなったことにしたかったんだろ。」
 当初とは違い、名無はこの探偵の助手としてやっていくことが楽しみに思えた。
 意外と、この男についていくのも面白いんじゃないかと思い始めていたのだ。
「それにしても、妖怪の存在にはびっくりしました。」
 有島はにやりとした。
「なに、俺だって化け猫だよ。」
 これは本気で言っていることなのか? 名無にはわからない。
 でもどっちでもいいことだとさえ思えた。彼はこの男についていくことを決めたのだ。
 今後、どんな奇怪な事件に巡り合えるのか今から楽しみにすら思ってしまっている自分がいることには、もう気付いていた。


<作者のことば>
完結。

変テコな探偵に、自分のことがわからぬ助手に、事件の先には妖怪。

自身としては上出来な部類だと自負しています(笑)
面白いものが出来る! と思いながら書きました。←もちろん自分が自作にしては、って意味です。

ちなみに「以津真天」は実際の文献に残っている妖怪です。
気が向いたら調べてみてください。

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COMMENT

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錆浅葱 | URL | 2008/08/05(火) 22:53 [EDIT]
こんばんは~ 浅葱です
活字眠いとか言ってたのに「奇怪探偵・有島奇亜人」
実は 読んでました(笑)
おもしろかったです(^◇^)♪
ただ やっぱり「名無し」の正体も もちろん気になるけど
最後の有島のセリフ… 気になる

楽しませてもらいました~m(__)m

匡介 | URL | 2008/08/05(火) 23:27 [EDIT]
>錆浅葱さん
ありがとうございます!
なんつーか、すげえ嬉しいです。活字苦手な方にも楽しんで頂きたいっていうのが本当にあって、普段本などを読まない人にも読みやすいように…を心掛けてるんですよね。
ちょっとでも活字に興味を持ってもらいたい、活字に触れてその面白さをわかって欲しいっていうのが俺のささやかな願いで、自身のテーマなんです。

仮にこの場に限ったことだったにしても、浅葱さんにそう思って頂けてそう言ってもらえたことは今後の励みになります。
全部ではなくていいので、これからも面白そうとか気になる作品は読んで頂けると嬉しい限りです。

長くなりましたが(笑)、これからもどうかよろしくお願いしますね。

ちなみに最後のセリフ、有島の名前と関連づけてみてください。
作者のしょうもない仕掛けがあります(笑)

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