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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/04(月)   CATEGORY: 短篇小説
奇怪探偵・有島奇亜人≪肆≫
 有島は名無を落ち着かせるのに大分苦労をした。それは安藤のときも同じで有島が二人を落ち着かせた頃には朝日が昇ってきていた。
「あれは何なんです?」
 名無は有島に問うた。
 しかしそれの答えが返ってくることがないことを名無はわかっている。あんなもの誰もわかるはずがないのだ。
「あれはな、以津真天だ。」
 有島の、予想外の返答に名無は驚いた。それはその場にいた安藤も同じだった。
「“いつまで”?」
「そう。以上の『以』に、津波の『津』に、真実の『真』に、天国の『天』と書いて以津真天と読む。」
 有島のこの知識にはそれを聞いていた二人とも驚きだった。
 いや、それよりもあれが何なのかを知っていることに驚きだった。
「その以津真天というのは何なんです?」
 名無は一刻も早く、あの化け物の正体を知りたくて仕方ない。
「ありゃ妖怪だよ。死体なんかをそのまま放っておくと現れるんだ。安藤さん、この部屋には動物の死骸が多すぎる。早く処分をした方がいい。」
 有島の言った「死体」という言葉に安藤はどきりとする。
 そして少し挙動不審になった気もした。名無はどうしたのだろうと不審に思った。
「じゃあ、あの『いつまで』って繰り返していたのは何なんですか?」
 そう名無が問うと、有島はにやりとした。
「あれはやつの鳴き声なんだ。それがなんで『いつまで』かっていうと、ありゃ『いつまで』死体を放置しておくんだ? って意味なんだよ。」
 有島は自分の知識を披露出来て少しご機嫌なようだ。そしてそれを聞いた名無は、なるほど、と納得をしている。
 この際、妖怪が現実に存在していることに関してどうこう言うつもりはなかった。実際に自分の目で見てしまったんだし、それは認めるべきだと名無は思っていたのだ。
「あ、あれは、部屋にある死体をすべてなくせば現れなくなるんですか?」
 ここで初めて安藤が口を開いた。
 しかし未だに挙動不審のように見えて、名無は心中で少し気味悪くすら思う。
「そうなるはずだ。」
 あまりにも自信に溢れた表情の有島を見て、二人は本当にそうなのだろうと信用してしまっていた。
 さっき起きたことがどれほど奇怪な出来事かを二人は認識しきれていない。それは有島の当たり前といったような態度が、彼らの感覚をおかしくしていたのだ。
「だからさっさと捨ててしまえ。ついでに部屋の掃除でもするんだな。いくらなんでもこの部屋は汚すぎるぞ!」

***

 異常な出来事に見舞われて、さすがに名無も疲れ果てていた。
 もう一刻も早く眠りに就きたい。名無の頭の中にはその一念しかない。早く、一刻も早く帰って休まなければ。
「名無。」
 不意に自分の名を呼ばれ、名無は有島を見遣った。
「俺はこのまましなければいけないことがあって、あるところに出向くのだが、お前はどうする?」
 そんなどこに何をしに行くのかもわからないのに、そう問われてどう判断すればいいのだと名無は心中で独白した。
「あの、僕は先に事務所に戻ってます。」
「そうか。まあ、初めての仕事で疲れただろうし、それもいいだろう。」
 初めての仕事のせいというか、初めての仕事で起こった奇怪な出来事のせいで疲れ果てているのだが、名無はそれを告げるのさえ億劫になっていて、そのまま何も言わずに探偵事務所へと帰った。

 有島探偵事務所に戻ってから、何時間が経ったろうか。彼、名無は帰ってからずっと眠りこけていた。彼が目を覚ましたのは夜の十時を回ったところだった。ああ、生活が昼夜逆転しまっていると名無は思った。
 それからあたりを見回して見たが、有島がいる様子はない。まだ帰ってきていないのだろうか? いくらなんでも長すぎはしないか? 彼がどこかへ出向いたのは、はっきりとは覚えていないが、少なくとも午前だ。それからずっとその不明な用件のために出ているのだろうか? いや、いくらんでもそれはない。もしかしたら用件は複数あったのかもしれない。いや、一度戻ってきてまた出掛けたということも考えられる。
 名無は、ずっと自分が眠り続けていたことを後悔した。これではどうすればいいのかわからない。とりあえず有島が帰るのを待つのみだった。

 名無が目を覚ましてから一時間もすると、有島は探偵事務所へと帰ってきた。
 あまり疲れたように見えないところから察すると、昼間に一度戻ってきたかどうかはわからないが、どこかで休みはしたのだろうと名無は思った。
「意外と遅かったですね。」
「お前と違って俺は忙しいのだよ。」
 普段の自堕落さを考えると、たまには忙しいく思うくらいが丁度いいとさえ名無は思う。
「何をしてたんですか?」
「調べものだよ。」
「それは一体何を?」
「何をって、安藤についてに決まってるじゃないか!」
 安藤について調べていた? 名無にはわけがわからなかった。なぜ安藤を調べる必要があるのだ? それもこれだけ長い時間を使って。以前に有島一人で出掛けたときも安藤について調べていたのだろうか? だとしたら一体何のために? 名無の頭の中には大量の疑問符が浮かび上がっていた。
「それは、その、どうしてです?」
「どうしてって何がだ?」
 有島はこれ以上まだ質問があるのかと不満いっぱいの声で答えた。
「つまり、どうして安藤を調べる必要があるかってことですよ。」
 はあ、と深い溜め息を吐(つ)いた有島は、面倒そうに名無の問いに答える。
「お前はあの部屋にいて何も気付かなかったっていうのか?」
 名無は気まずそうに、はあ、とだけ答えた。
「あの臭いに気付かなかったと?」
「それって、あの、安藤の飼っていた爬虫類の死骸の?」
「違う違う。そっちじゃない。それに安藤が飼っていたのは爬虫類だけじゃあないよ。他にもいた。鼠(ねずみ)に栗鼠(りす)に小鳥に…いずれにしても小動物ばかりだった。」
 そこまで細かく見ていたのかと、名無は有島の評価を今までより少しだけ上に位置づけをした。普段は自堕落でも矢張り探偵は探偵のようだ。
「しかしあの死臭に気付かないとなるとお前も相当鈍感に出来てるな。」
 有島の嫌味たらしい言い方も放ってはおけないが、あの死臭というのは何を指しているのかが名無には気になった。


ついに次回で最終話ー。

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