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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2012/03/19(月)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇-40 (魔界胎動/黒き犬Ⅴ)
 爆発音が耳に響いた直後、野坂は亮太郎たちの姿を見つけた。
 そして、彼らのいるすぐそばのビルが大きく崩れようとしていることも、また目にした。
 建物が轟音をあげて崩れようとしている。
 野坂は叫んだ。それが亮太郎たちに届いたかはわからない。彼は走った。持てる全ての力を解き放って疾走した。見えるもの全てがスローモーションになり、荒い緩やかに流れる時のなかを彼は駆け抜けた。亮太郎たちもまたビルの崩壊には気付いたようだ。亮太郎たちは逃げようと走り出していた。
 手に持つ銃がやけに重く感じられ、それを捨ててしまいたい衝動に駆られたが、野坂はそれを抑え込んだ。銃を片手に走った。突き抜ける疾風を思わせる走りだ。身裡に火が点いたように熱かった。全身が燃える。沸騰しそうな血液が炎のように躰を駆け巡り、野坂を灼いた。灼かれながらも、彼は走った。走るしかなかった。がむしゃらに走り続けた。ビルの破片が地面を震わせた。すごい轟音だ。砂埃が舞い、視界が遮られる。また轟音がした。次々と降ってくる瓦礫が地面を叩いた。
 強い衝撃が躰を襲った。
 一瞬、何が起きたのかわからなかった。気付いたときには、野坂は地面に倒れていた。腕が、ない。野坂は呆然としながらそれを見つめた。左の肩から先が、何もなかった。左腕があるはずの場所は虚空と化していた。
 夥(おびただ)しい血がその場に溢れた。視線を上げると、黒い犬が目の前に立っていた。岩かと思うほど、巨きい。闇のように漆黒(くろ)く、どんな猛獣よりも巨大で、雄々しかった。隆々とした筋肉が大気を震わせている。一咆えするだけで、大地は揺さぶられそうだった。
 漆黒き巨犬が呼吸をするたびに、熱い息が野坂の顔にかかった。
 喰われた。左腕は、こいつに喰われたのだ。――それを理解した瞬間に、強い憤りを感じた。なぜこの化け物に、俺の腕を只で喰わせなきゃならんのだ!
 烈しい憎悪が炎をとなって野坂の身裡で渦巻いた。――只ではやらん!
 野坂はM9を拾い上げ、乱射した。反動で腕が震わしながら、狂ったように撃ちまくった。怒りに目を血走らせ、雄叫びをあげつつ引き鉄を引き続けた。弾が尽きると、腰の拳銃を抜いて撃った。
 銃弾は巨犬の皮膚を貫き、肉にめり込んでいた。巨犬は咆哮をあげ、野坂から離れた。憤怒に刻まれた深い皺の奥で、黄色い双眸が光っている。巨犬もまた怒りに狂っていた。
 残された銃弾は二発。野坂はありったけの集中力を使って照準を定めた。巨犬が咆えながら野坂に迫る。野坂は立て続けに引き鉄を引いた。銃口から銃弾が放たれ、空を切って真っ直ぐに進んだ。弾は巨犬の左眼を貫いた。
 ぎゃおおおおおおおおん。
 巨犬が啼いた。痛みに身を捩じらせた。
 銃弾は尽きていた。野坂には、もう打つ手がなかった。片眼を潰された巨犬が彼に襲いかかろうとしたとき、彼には全てを受け入れる覚悟を決めていた。
 巨犬の太い牙が野坂の躰をぼろ雑巾のように喰い千切った。




<作者のことば>
黒い犬編はここまで。本当は亮太郎や雄大たちのパートも書く予定だったけど、それは次に持ち越した方がいい気がした。ここは野坂は締めたい。

西村寿行の作品では、案外主人公が死ぬことが多い。最近読んだものも最後には全滅だった。
それでも敵(人間、動物、あるいは自然そのもの)に最期まで向かっていく姿がどうにもかっこよかったりする。殺されるとしても、只じゃ殺されねえ。そんなキャラが多い。

野坂もそういう人間のひとりになれたのではないだろうか。

煉獄篇で一番成長したキャラクターがいるとすれば、おそらくこの野坂大吾で、しかも一番書きやすく、また書いていて楽しかった。それでも煉獄篇を書き始める前から野坂の死は決定していたので、今回の死は不可避だったということになる。だが、野坂は最期まで見事に足掻き抜いた。危うく生き残らせてしまいそうになるほどに。
そして気付けば当初の予想を裏切って、一番好きなキャラクターになっていた。気に入っているキャラクターの退場は悲しい。野坂が命懸けで護ったのだから、亮太郎たちにはどうにか生き延びて欲しいものだが、さて……。

次回から新章突入予定ですが、ちょっと間が空くかと思います。
どうか気長にお待ちください。
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COMMENT

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ポール・ブリッツ | URL | 2012/03/20(火) 17:08 [EDIT]
やはり銃では化け物にかないませんか。

アクションホラーでは王道ですが(^^)

化け物をウィルディでガンガンぶち殺せるのは八頭大くんくらいのものですよね。(いきなり懐かしい名前を(笑))

匡介 | URL | 2012/03/20(火) 18:55 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
残念ながら片眼を潰すのが限界でした(回復するのかもしれないけれど)。
八頭大って菊地秀行のキャラクターですよね? 名前は知ってるんですが、菊地秀行は数冊読んだことあるだけでほとんど通ってないので、どういうキャラなのかまでは知らないです。。
ただずっと八頭犬だと思ってて(笑)、八の頭を持つ犬が出てくるのか、八頭犬って呼ばれる人間 or 集団がいるのかなぁ~と長らく思ってたんですよね!

野坂の退場で今後火器を出せる場面があるかわからなくなったのは残念です。
機会があったら出してやろうとは思ってますけど。

のぜ | URL | 2012/03/31(土) 16:58 [EDIT]
せっかくコメントいただいてたのに気付かなくてすいません!
先週から今週に掛けて新生活へ向けての準備とかなんとかいろいろ忙しくて既にヘトヘトです(笑)
ただでさえ朝弱いのに下手したら5時起きで電車に乗らないといけないかもしれません…泣きたいです。田舎なのでラッシュ時も2本しか電車がないので座って寝るのも難しいだろうし・・・寝たら起きられないでしょうけど(笑)

高校はまだいいとしても、大学から出たらもう社会に出るしかないので、就職先を決めるときはビシッと行きたいですね。元々やりたかった学科もあるので4年間頑張ります!
応援してくださってありがとうございました~(^^*)

p.s. 匡介さんの書くお話って読むとき気合いれないと読めないんですよね

匡介 | URL | 2012/03/31(土) 17:34 [EDIT]
>のぜさん
お疲れさまです!
玖堂は7時半くらいに家出るために5時起きしてた時期があります。なんていうか、朝弱すぎて起きてから2時間くらいないと全然活動できなくて(笑) 最初の一時間はニュース流しながらボーっとしたりして、その後スローで準備するみたいな感じでした。なので朝弱い人の気持ちわかりますよー、がんばってください~。
ちなみに電車では寝てましたね。案外自然と着く頃に目が覚めるんですよ(笑) それに立ちながら寝るスキルも習得しました(笑)

そういうの含めて、最初のうちは大変かもしれないですけど、すぐ慣れると思うので大丈夫ですよ!


>p.s. 匡介さんの書くお話って読むとき気合いれないと読めないんですよね

自分はウェブ上のもの読むときは大体気合い入れないと無理です(笑) 根本的にPCで小説読むの慣れないんですよね~。非常に疲れます。
大したもの書いてないので、気合い入れてまで読まれることないですよー。読まれてないからといって気にしたりしないです。

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