MUKURO・煉獄篇-39 (魔界胎動/黒き犬Ⅳ)
弾が尽きた。重機関銃の銃身は燃えるように熱されているだろう。野坂は立ち上がり、M9を手に取って走った。腰には9mm拳銃が差してあった。
亮太郎たちはどこへ行ったのだろうか。うまく逃げられたならいいが、向かった方向さえもわからなければ捜しようがなかった。自分がいなくても、彼らは逃げ延びられるだろうか……。
巨犬は相当なダメージを負っているようで、追ってくる様子はなかった。それでも、あれだけの銃弾を浴びて生きているのだから恐ろしいものだった。普通ならば、どんな動物でも死んでいるところだ。
野坂は駆けた。巨犬から距離を稼ぎたいという気持ちと亮太郎たちを早く見つけたいという気持ちがせめぎ合い、綯い交ぜになりながら渦巻いている。激しい運転と銃撃によって心身ともに疲弊していた。それでも気力を振り絞った。ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
そのとき、彼は爆発音を聴いた。
***
亮太郎たちはビルのなかに身を潜めていた。遠くで銃声が聴こえる。野坂が、あの巨(おお)きな黒い犬と闘っている姿が頭に浮かんだ。近くに野坂がいないことの不安が、亮太郎のなかで拡がっていた。きっと救(たす)けに来てくれると信じているが、それと同じくらい野坂のことが心配で堪らない。もし巨犬のあの太い牙にかかっていたら、野坂も一瞬で死んでしまうだろう。それを思うと心臓が止まりそうだった。
千紘は恐怖のあまり小さく震えているのがわかった。雄大もそれに気付いているらしく、そっと千紘の手を握っていた。裕隆は小さく丸まっていた。彼も恐くて恐くて堪らないのだろう。この場の誰もがそうなのだ。誰もが恐くて仕方がなかった。
不意に銃声がやんだ。
野坂が巨犬を斃したのか。それとも……。
心臓が高鳴り、血液を勢いよく全身に送り出していた。そのせいで鼓動が耳元で鳴っているような錯覚があった。
静けさがあたりを支配ていた。誰もが息を呑んで変化を待っていた。あるいは変化しないことを望んでいた。何かが起きて欲しいと願っていたし、何も起きて欲しくないとも思った。このまま何もなければいいのに……。そう千紘は祈った。裕隆も同じことを思った。雄大は変化に備えて身構えていた。
亮太郎は野坂に来て欲しかった。
「見に行ってみよう」
そう言ったのは雄大だった。雄大には人より少し勇気があり、いつも誰かを引っ張る役目を引き受けるのが彼だ。いまもそうだった。雄大の一言を実は誰もが望んでいた。
一同はそっと外の様子を窺った。化け物の姿は見えない。また野坂の姿もなかった。「出てみるか」
外も静かだった。
亮太郎は、銃を片手に歩く野坂を見つけ、声を出して呼ぼうとしたが一瞬ためらった。大声を出しても大丈夫だろうか……?
迷っているうちに、近くで爆発の轟音が鳴り響き、あたり一面が震えた。
亮太郎たちはどこへ行ったのだろうか。うまく逃げられたならいいが、向かった方向さえもわからなければ捜しようがなかった。自分がいなくても、彼らは逃げ延びられるだろうか……。
巨犬は相当なダメージを負っているようで、追ってくる様子はなかった。それでも、あれだけの銃弾を浴びて生きているのだから恐ろしいものだった。普通ならば、どんな動物でも死んでいるところだ。
野坂は駆けた。巨犬から距離を稼ぎたいという気持ちと亮太郎たちを早く見つけたいという気持ちがせめぎ合い、綯い交ぜになりながら渦巻いている。激しい運転と銃撃によって心身ともに疲弊していた。それでも気力を振り絞った。ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
そのとき、彼は爆発音を聴いた。
***
亮太郎たちはビルのなかに身を潜めていた。遠くで銃声が聴こえる。野坂が、あの巨(おお)きな黒い犬と闘っている姿が頭に浮かんだ。近くに野坂がいないことの不安が、亮太郎のなかで拡がっていた。きっと救(たす)けに来てくれると信じているが、それと同じくらい野坂のことが心配で堪らない。もし巨犬のあの太い牙にかかっていたら、野坂も一瞬で死んでしまうだろう。それを思うと心臓が止まりそうだった。
千紘は恐怖のあまり小さく震えているのがわかった。雄大もそれに気付いているらしく、そっと千紘の手を握っていた。裕隆は小さく丸まっていた。彼も恐くて恐くて堪らないのだろう。この場の誰もがそうなのだ。誰もが恐くて仕方がなかった。
不意に銃声がやんだ。
野坂が巨犬を斃したのか。それとも……。
心臓が高鳴り、血液を勢いよく全身に送り出していた。そのせいで鼓動が耳元で鳴っているような錯覚があった。
静けさがあたりを支配ていた。誰もが息を呑んで変化を待っていた。あるいは変化しないことを望んでいた。何かが起きて欲しいと願っていたし、何も起きて欲しくないとも思った。このまま何もなければいいのに……。そう千紘は祈った。裕隆も同じことを思った。雄大は変化に備えて身構えていた。
亮太郎は野坂に来て欲しかった。
「見に行ってみよう」
そう言ったのは雄大だった。雄大には人より少し勇気があり、いつも誰かを引っ張る役目を引き受けるのが彼だ。いまもそうだった。雄大の一言を実は誰もが望んでいた。
一同はそっと外の様子を窺った。化け物の姿は見えない。また野坂の姿もなかった。「出てみるか」
外も静かだった。
亮太郎は、銃を片手に歩く野坂を見つけ、声を出して呼ぼうとしたが一瞬ためらった。大声を出しても大丈夫だろうか……?
迷っているうちに、近くで爆発の轟音が鳴り響き、あたり一面が震えた。
COMMENT
「キャラクター」と、「キャラクター設定」は違うと思いますね。
「キャラクター設定」に縛られて、そこでそのキャラクターがどう行動するのか作者がわからなくなってしまったら、それは「キャラクター」とは呼びたくないであります。
「キャラクター設定」に縛られて、そこでそのキャラクターがどう行動するのか作者がわからなくなってしまったら、それは「キャラクター」とは呼びたくないであります。
●
匡介 | URL | 2012/03/19(月) 05:59 [EDIT]
匡介 | URL | 2012/03/19(月) 05:59 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
そうですね、確かに設定とキャラクターそのものは違いますよね。
自分の場合「キャラ設定」ってつくり込まないので、それに縛られるとかはないです。
そもそも設定表みたいなのもほとんど名前一覧になってしまっているくらいなので、書いてて「設定」を意識することってわりと少ないですね。
小説書き始めた頃は設定づくりにこだわってた気がするんですが、いつからかそこまで力を入れてキャラクターをつくり込むってことはしなくなりました(それが良いか悪いかはわからないです。もう少しこだわった方がいいと思うときもあります)。
基本的にはプロットなども書かないタイプで、脳内にあるイメージだけを頼りに書いてしまうせいもあり、思えば「設定」という概念が希薄なのかもしれません。
小説の書き方としては主流じゃないかもしれませんね。
「キャラクター」ってなんだろう? というのは抽象的な疑問で言葉にしにくいんですが、もっと根本的なところについて、です。
キャラクターの掘り下げとかそういうことかもしれないですが、今後いかにキャラクターをつくるか、キャラクター造形について考えてしまうときがあるといえばいいでしょうか。
今のやりかたでいいのか? と自分への問いかけをすることが多い、ということです。
ま、自分自身との対話を重ねて試行錯誤していくしかないだろうと思っているので、今後も考え続けながら書いていくつもりです。
あまり拡げるとキャラクター論とかにまで発展しそうで、そこまで書くと重い重い!と思ったのでそこらは割愛して、近況として「キャラクター」ってなんだろう?と考えることが多いとだけ書きました。ちょっとした呟きだと思ってください(笑)
キャラクターに厚みが足りない、とは以前から思っていたので、改めて課題として意識しようと思ったってことですね。簡単にいえば。(長々とすみません。。)
そうですね、確かに設定とキャラクターそのものは違いますよね。
自分の場合「キャラ設定」ってつくり込まないので、それに縛られるとかはないです。
そもそも設定表みたいなのもほとんど名前一覧になってしまっているくらいなので、書いてて「設定」を意識することってわりと少ないですね。
小説書き始めた頃は設定づくりにこだわってた気がするんですが、いつからかそこまで力を入れてキャラクターをつくり込むってことはしなくなりました(それが良いか悪いかはわからないです。もう少しこだわった方がいいと思うときもあります)。
基本的にはプロットなども書かないタイプで、脳内にあるイメージだけを頼りに書いてしまうせいもあり、思えば「設定」という概念が希薄なのかもしれません。
小説の書き方としては主流じゃないかもしれませんね。
「キャラクター」ってなんだろう? というのは抽象的な疑問で言葉にしにくいんですが、もっと根本的なところについて、です。
キャラクターの掘り下げとかそういうことかもしれないですが、今後いかにキャラクターをつくるか、キャラクター造形について考えてしまうときがあるといえばいいでしょうか。
今のやりかたでいいのか? と自分への問いかけをすることが多い、ということです。
ま、自分自身との対話を重ねて試行錯誤していくしかないだろうと思っているので、今後も考え続けながら書いていくつもりです。
あまり拡げるとキャラクター論とかにまで発展しそうで、そこまで書くと重い重い!と思ったのでそこらは割愛して、近況として「キャラクター」ってなんだろう?と考えることが多いとだけ書きました。ちょっとした呟きだと思ってください(笑)
キャラクターに厚みが足りない、とは以前から思っていたので、改めて課題として意識しようと思ったってことですね。簡単にいえば。(長々とすみません。。)
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