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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2012/03/13(火)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇-38 (魔界胎動/黒き犬Ⅲ)
 LAVは限界に近い速度で車道を駆け抜けていた。エンジンが唸りをあげている。タイヤのゴムが熱でわずかに溶けた。
 野坂は額に流れる汗も気にしている余裕はなかった。集中力の全てを注いでハンドルを握っていた。少しのミスが死に繋がる。
 二匹の黒き巨犬は車体に喰いつくように速度を保って疾走(はし)っていた。恐るべきスピードとスタミナだが、巨犬もこのあたりが速度の限界らしい。それがせめてもの救いといえば救いだった。ただスタミナの方はどれほどなのか想像もつかない。野坂の背後から焦りの触手がじわりと全身を這い、彼の精神を蝕んでいた。
 ――もう限界だ。
 LAVの速度が落ちた。野坂はこのままでは逃げ切れないと思い、スピードで振り切るのは諦めていた。カーウィンドーを下ろし、右手に握るM9の引き鉄を引いた。銃弾の雨が巨犬を襲う。ハンドルを回し、車の向きを変えた。もう一匹の巨犬と対峙する。アクセルを踏み込んだ。
 黒き犬の巨体が車輛にまともにぶつかり撥ね飛ばされた。
 野坂はM9を連射しながら、再びLAVを走らせた。ぐんぐんと速度をあげていく。今度は距離を稼げたはずだ。野坂はM9を助手席に放り、運転に集中した。
 気がつけば塔が近くに迫っていた。近くで見るとさらに大きく見える。石造りだろうか。圧倒されるほどの巨塔であった。すでに丘に差し掛かっていて、緩やかな傾斜を走っていた。
 これほどまで近付いてもいいのだろうか。
 嫌でも不安を感じさせる雰囲気が、塔にはあった。
 車内の誰もが轟く咆哮を耳にした。犬だ。犬の遠吠えに似ている。あの巨犬だろうか。野坂は小さく身震いをした。
 前方に何かが見えた。迫ってきている。それは近付くにつれ輪郭をはっきりさせていった。――犬だ。巨犬だ。
 さっきの二匹とは別の巨犬かもしれない。しかし、一匹でも脅威だった。その力は計り知れない。
 野坂が叫ぶ。
「全員しっかり掴まっていろ!!」
 車輛が横転した。強い衝撃が野坂を襲った。衝撃が収まったあとも軽く眩暈がした。
 横転したのは、巨犬が正面からぶつかってきたせいだった。体当たりひとつで数トンもある車輛を軽くひっくり返す馬鹿力は恐るべきものである。まともに対峙したら数秒でぼろ切れになってしまうことは間違いない。人間が闘える相手ではなかった。
「みんな、大丈夫か……」
 野坂の声かけに応答があった。どうやら全員無事のようだった。「急いで車を出て、逃げろ」
 もう他の言葉は出なかった。逃げろ。それだけである。それしか、言うべきことはなかった。圧倒的な力を持つ犬の化け物がすぐそばにいるのだ。なす術(すべ)があるのかもわからない。
 それでも野坂は銃を手に車を這い出た。89R――89式5.56mm小銃――を構えた。愛称はバディーであるが、野坂たちはハチキュウと呼んでいる小銃だ。89Rを構えながらあたりを見回した。巨犬の姿はない。
 ぐるるるるる。
 獰猛な唸り声はすぐ近くで聴こえた。巨犬は横転したLAVの上に乗っていた。素早く銃口を向け、野坂は引き鉄を引いた。89R の連射を受けて、巨犬が跳んだ。迅(はや)い。野坂がそれを目で追った。銃弾の雨を降らせているうちに、89Rの弾が切れた。
 野坂は手榴弾を投げた。野坂の手元にある二種類の手榴弾のうち、衝撃波によるダメージを目的としたMK32A2手榴弾だ。もうひとつのM26手榴弾より飛び散る破片が少なく、より近距離向けの手榴弾だった。野坂は耳を塞いだ。それでも劈(つんざ)くような轟音があたりに響いた。ダメージがあったかわからないが、巨犬が距離をとった。つかさずM26手榴弾も投げた。爆発とともに金属片が四散し、そのうちのいくつかが巨犬の肉体にめり込んだ。有名な「パイナップル」に対して「レモン」と呼ばれることもあるM26手榴弾は爆発の際に飛び散る破片、その金属片によるダメージを目的としている。その効果が、巨犬にもあった。巨犬が怯んだのを野坂は見逃さなかった。
 野坂たちの乗っていたLAVは小さな武器庫のようなものだった。載せれる限りの火器を積ませてある。野坂は重機関銃を取り出し、三脚を拡げた。伏せるように構え、巨犬目掛けて掃射した。連続して放たれる銃弾が巨犬の皮膚を突き破る。どうやら一定の効果はあるようだ。
 野坂の隣に何かが転がった。LAM――110mm個人携帯対戦車弾だった。傍には亮太郎と雄大の姿があった。「馬鹿野郎! さっさと逃げろ!」
 重機関銃を扱っている傍に寄るなんてどうかしている! それにすでにどこかに逃げているものだと思っていた。この子らはなにを考えているのか!
 重機関銃の掃射をやめて、野坂は叫んだ。
「危ないから離れてろ。早くどこか遠くに逃げるんだ!」
 野坂はLAMを拾い、巨犬を狙った。相手の動きは迅い。当たるかどうか。
 ロケット弾が勢いよく発射され、巨犬に向かって宙を奔った。巨犬はそれを躱(かわ)したが、それでも弾頭は巨犬の近くに弾着して爆発した。全くダメージがなかったわけではないだろう。
 野坂は再び重機関銃の銃把を握り締めた。
  


<作者のことば>
火器たっぷりの回でした。でもガンマニアでもミリタリーマニアでもないので、全然詳しくないです。
しかし銃弾が飛び交う描写はもちろん好きなので、書くのは楽しかったです。まぁ 詳しい人が見れば違和感のあるところもあるかもしれませんが、そこが間違っていたところで、物語に何の影響がありましょうか! 物語の根幹が揺るぐほどのものでしょうか! 否、全くそんなことはない! と押し切ってしまいたいと思います。実際、そこまで揺るぎませんし。これがスティーヴン・ハンターの小説ならともかく、銃をメインとしたものではないですし。

それでも一応は気を遣いつつ書いたつもりです。
野坂がせっかくの自衛官なので、全力で銃火器で闘うシーンを一箇所くらいは欲しいな、と思って書いた回になりました。ま、書いてる分には楽しかったです。

そういえばLAVをついLIVと書いてしまってること多くて、全部直したはずだけど、漏れがないことを祈るばかりです。
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ポール・ブリッツ | URL | 2012/03/14(水) 16:22 [EDIT]
もしこれがファンタジーRPGに出てくるヘルハウンドやケルベロスだったら、銀の武器でないと通用しそうもないですな(^^)

それにしても重火器が派手にぶっ放されるのはスカッとしますねえ……相手は倒しても倒しても出てくるんでしょうけれど(^^;)

匡介 | URL | 2012/03/16(金) 03:25 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
RPGって、一瞬ロケットランチャーのことかと思ってしまいました。
ヘルハウンドやケルベロス・・いいとこ突いてきますね~。これ以上言えないですけれども(笑)

あらゆる武器(火器)を使って闘うっていうのは、今までなかったはずなので新鮮でした。
銃の知識を学ぶところから始めたので、付け焼刃ではありますが、それでも書いてて面白かったです。
次に銃弾飛び交うシーンを書くときは、もっと自分のモノにしておきたいですね。プチ目標です。

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