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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2012/03/11(日)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇-37 (魔界胎動/黒き犬Ⅱ)
 それは犬のようであった。色は漆黒(くろ)い。
 何より強大な体躯だった。筋肉が隆々としていた。わずかに動くだけでも、筋肉が盛り上がり、その力強さを讃えた。闘牛のように引き締まった筋肉だ。見ているだけで迫力があった。見た目は犬であったが、イヌ科のどの動物よりも巨(おお)きい。イヌ科最大の動物はハイイロオオカミだが、それなど足元にも及ばない。虎や獅子といった大型の肉食獣よりもさらに巨きかった。まさしく熊のようなサイズであり、ヴォリューム感が野坂の目に迫った。
 深く刻まれた皺が歪み、口元から太く鋭い犬歯が覗いた。
 黄色い双眸が野坂を睨む。
 野坂は力いっぱいアクセルを踏み込み、車を発進させた。
 LAVが轟音をあげて駆け抜ける。
 巨犬があとを追った。恐るべき速度だった。
 全速力で走行しているはずのLAVのサイドウインドウから黒い巨体が並走しているのが見えた。オオカミは時速70キロで走ることができるが、目の前にいるのはそれよりも遥かに巨大な生物だ。常識的に考えれば、巨きいだけ遅い。しかしヒグマにも60キロ以上の速度で走るものがいる。そして相手はオオカミでもなければヒグマでもなかった。常識の通じない化け物なのだ。この化け物は、それ以上の迅(はや)さらしい。
 スピードメーターは100キロ近くを指していた。LAVの4.5トンの車輛がそれだけの速度で走行しているだけで正気の沙汰ではない。だが、このままでは巨犬の餌食になってしまう。危険を承知で走るしかなかった。陸上最速を誇るチーターは100キロを超える速度で走ることができるが、巨犬もそれだけのパフォーマンスを発揮できるらしい。
 問題は、その体力がどこまで保(も)つかだった。
 速度で追いつかれても、それを維持できなければいずれ追い抜ける。生き残れるか否かは巨犬のスタミナがどれだけあるかにかかっていた。
 相手は化け物だ。常識の範疇で考えることはできない。その体力は底なしかもしれない。――だが、野坂は化け物が不死ではないことを知っている。化け物は殺すことができる。やつらもまた生命体であり、ひとつの生物なのは明らかだった。であれば体力にも限界があるはずだった。そうであることを、願った。
 野坂は速度を落として、車道を曲がった。横転しないかとヒヤヒヤしたが大丈夫だった。そして再び速度をあげた。
 黒い影が視界の隅にちらつき、野坂は気が気ではなかった。まるで死そのものが迫ってきているように感じた。あるいは本当に地獄の猟犬が魂を狩りに現世に来たのかもしれない――と思った。
 メーターは100キロを超えていた。LAVの性能ではこのあたりが限界だ。当たり前だが、これは速度に特化した車輛ではない。あくまで装甲車なのだ。装甲車が100キロを超える速度で車道を疾走する日が来るとは誰が予想しただろうか。少しでも気を抜けば車輛は簡単に横転するだろうことを考えると寒気がした。
 車輛の右に犬の影が見えていたが、左側にも何かがちらついていることに気付いた。
 ――そんな馬鹿な!
 野坂は心のなかで神を罵倒した。左にも巨犬が疾走(はし)っている。二匹の黒き犬が野坂たちを追っていた。
 俺は、
 俺たちは、
 生き延びれるのか……?




<作者のことば>
知識がないのでわからないのですが、たぶん軽装甲機動車が100キロで走行したら恐ろしいだろうな、と思います。だってLAVの最高速度が100キロってあるんだもの。さらに人などの重量がプラスしたときに、実際のところいったい何キロ出るのかわからないです。100キロ、出ないかもしれない(いやでも無理すれば出るのでは……)。

そのようなことを考えつつ、まぁ フィクションですから多少のことは目を瞑らないとやっていけないよ、と言い訳がましく自分に弁解してみたり。ま、フィクションですから。

ちなみに今回は何度も速度○○キロといった表記が見られますが、最初は漢数字で書いてました。
途中で、横書きで載せるから漢数字じゃなくていいか、と思いアップするときに修正しましたが、たぶん修正漏れはないはず。今後も速度表示は普通の数字でいこうと思いますが、もしかしたらうっかり漢数字にしているところもあるかもしれません。自分がそういう不統一が気になるタイプなので、あらかじめアナウンスしておきます。

載せる前にチェックする人間がいるわけでもないので、どうしてもミスしちゃうこともあるのは勘弁してほしいところです。

しかし、野坂が猛スピードで車を走らせているときに、後ろで子供たちも大変だろうな。すごい揺れてるんだろうな。そこのとこの描写を入れたいと思いつつ、なんとなくいいスペースなかった。野坂の視点だけでやった方がスマートかなって。……やっぱ入れた方がよかったかもなぁ(毎度なにかで悩んでます)。

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ポール・ブリッツ | URL | 2012/03/11(日) 15:11 [EDIT]
むしろ燃料のほうが気になるであります。軍用車両って、戦闘能力のためには燃費など考えないものですから……。

匡介 | URL | 2012/03/11(日) 21:53 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
燃料の問題もありますね。
どっちが先に力尽きるかって争いに突入したかもしれないですね。燃料か、体力か。

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