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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/08/03(日)   CATEGORY: 短篇小説
奇怪探偵・有島奇亜人≪参≫
 事務所に戻った有島は「ちょっと出掛けてくる」と言い、そのままどこかへと行ってしまった。彼が帰って来るまでの間、名無は自分がどうするべきか悩んだが、いつものように何もしないことにした。
 彼は有島がいつも寝そべっているソファに腰を下ろす。自分は有島という探偵の助手だが、やっと依頼人が来ても大していつもと変わらない。自分の仕事とは本当にあるのだろうか? 名無は少々の考えに身を浸したが、結局何も解決しないまま眠ってしまった。

「おい、何をしている! さっさと起きろ!」
 そのあまりの大声に、名無は飛び起きた。一体何が起きたというんだと周りを見回すと、自分のすぐ横に有島が立っていることに気付く。いつの間にかに事務所の電球に灯りが点(とも)っていたので窓から外を窺ってみるともう夜だった。名無は自分が随分長い時間を寝てしまっていたことに気付く。
「あっ、すみません。」
 名無は正直に自分の過ちを反省した。
「それより早く出掛ける支度をしないか! さっさとしないと置いていくぞ!」
 それを聞いた名無は寝ぼけ気味に有島と言葉を理解し、慌てて身支度をした。
「あれ? でも出掛けるってどこに?」
 こいつはほとほと困ったやつだと有島は痛感する。
「どこって、依頼人のところに決まってるだろう! あの安藤のところへだよ! お前は昼の話を聞いていなかったのか? これから行くのが張り込みでなきゃア、どこへ行くっていうんだ!」
 ああ、矢張り自分も一緒なのかと名無は思った。
 しかし、やっと仕事らしい仕事だ。それに何時間かの眠りによって、夜の張り込みにも充分耐えることが出来そうだった。
「さあ、もう行くからな!」
 そう行って事務所を出て行く有島に、名無は慌ててついて行った。そうして二人は依頼主のところへと向かった。

 安藤のアパートに着くと有島は煙草に火を点けた。よくよく考えてみると有島というこの男は、起きている間は大概、煙草を吸っている。へヴィスモーカーというやつだろうか? と名無は思う。
「入らないんですか?」
 いつまでもアパートの前にいる有島を見て、ついに名無が発言をした。
「どこにだ?」
「どこにって、もちろん安藤の部屋ですよ。」
「入ってどうする?」
「どうするって、もちろん部屋の中で待つんですよ。その、犯人が来るのを。」
 有島はフンといった感じで名無のことを軽くあしらった。
「あの汚らしい部屋でか? そんなの俺はご免だ。それに張り込みってやつは外って相場が決まってる。他のやつはどうか知らんが、少なくとも俺の中ではそうなんだ。」
 そんなこと言われてもそれを予(あらかじ)め名無が知っているわけもなく、彼は何なんだと心中で独白した。

「いつまで。」

 その声に有島と名無はぴくりと反応を見せた。早速(さっそく)犯人の登場かと名無は思った。そこで安藤の部屋に駆けて行くのかと思いきや、有島は動く気配すら見せていない。
「どうしたんですか? 早く行かないと!」
 名無は叫ぶようにそう訴えたが、それでも有島は動こうとしなかった。彼はただ煙草を吸っているだけだ。
「まあ、待て。まずはこの一本を吸い終わってからだ。」
 その一言に名無は心底呆れ返る。
 犯人が現れたっていうのにこの男の中では自分の吸う煙草の方が優先なのか。名無は一言の言葉も出ない。
「今の時間は?」
 そう尋ねられた名無は腕時計に目を遣った。
 薄暗くて見づらいが、どうにか時間を知ることは出来たようだ。
「えっと、もう二時を少し過ぎたところですね。」
 しかし二時とは。名無は思った。しかしもう二時とは随分と長い時間ここに居たわけだ。一体何時からここで張っていたのかはよくわからないが、少なくとも数時間は経っている。
「丁度だな。よし、行くか。」
 有島は吸っていた煙草をアスファルトの上に落とし、踏みつけた。そして安藤の部屋にへと歩み始めた。名無はそれについて行く。

「いつまで、いつまで。」

 声は安藤の部屋の中から聴こえてきていた。有島はノックもせず、ドアノブに手をかけ回すと無用心にも鍵がかかっていなかったようで、部屋のドアはすんなりと開いた。有島はそのまま中へと入っていく。名無はそれを追いかけた。
 部屋の中は真っ暗でどこにも灯りが点ってはいなかった。安藤はこの声に気付かずに寝ているのだろうか? そんなことを考えていたら名無は何かに躓(つまず)き、体勢を崩した。昼間見た安藤の部屋から察すると、床に何が散らばっていてもおかしくはない。名無は部屋の灯りが点くまで足下に気をつけるように心掛けた。
「見えるか?」
 有島にそう言われて名無は周りを見回した。するとカーテンの閉めていない窓から入ってくる月明りに照らされて、部屋の中に何かの物影があることに気付く。何だろう、あれは? 人か? だとしたら安藤だろう。しかし名無にはそれが何なのかを判別する手段はなかった。
「よおく見ろ。」
 小さい声で、強調しつつ有島が言った。名無は言われた通りにその物影に対して目を凝らした。何だか大型の獣のように見える。いや、それは有り得ない。あそこまで大きな動物を飼うことなど一介の人間では無理だろう。それに安藤が飼っていたのは小動物ばかりだったはずだ。
 窓から入ってくる月明りが強まった。先ほどまでより、部屋の中が明るくなった。そして物影の姿も少しだけわかり易くなる。
「あ、あれは…。」
 名無は絶句した。あんなものいるはずがない。
 彼の頭の中は少々のパニックに陥った。これは逃げるべきなのか? 名無は冷静さを欠いた頭で必死に考える。
「おとなしくしてろ。」
 そう有島に言われると名無はほんの少しだけ冷静さを取り戻したようだ。いつもは自堕落な生活をしているどうしようもない人間だが、名無にとって今だけは彼が頼りに見えた。
 それは実際のところ、一緒にいる人間ならば誰でもよかったのだが、しかし有島があれを見ても何とも動じていない様子だということがますます彼の安心感は強まった。
 あれは何なのだ? 名無は再び思う。あんなものこの世にいるはずがない。それとも自分が知らないだけなのか? いや、そんなはずはないだろう。あれではまるで…。
 名無が恐れおののいているのに対して、有島は平然とした様子で壁にあるスイッチを押した。すると部屋の灯りが点る。そして目の前にいるものの姿が鮮明となった。
「ぎゃあああ!」
 それは醜い人面に、鋸(のこぎり)のような歯をしていて、体は蛇などの爬虫類のよう、そして大きな鳥の翼と鉤爪(かぎつめ)を持っていた。それを見た名無はつい叫んでしまう。あれではまるで…化け物じゃないか! 名無の叫び声で飛び起きた安藤は、目の前にいる異形の生き物を目にして、固まった。その顔には深い恐怖が浮かび上がっている。
 有島が一歩進むと、その生き物は翼を広げ、そして飛んだ。そのまま有島たちの方へと向かっていく。名無は叫びながらその場にしゃがみ込み、有島はその巨大な翼にぶつからないようにと身を屈(かが)めた。そして一体何なのかわからない化け物は玄関から外へ飛び立っていった。


<作者のことば>
ついに姿を見せた声の主。
しかし有島と名無の前に現れたのは人面獣身の化け物だった。

風変わりな探偵、有島はこの事件を解決することができるのか!?

乞うご期待ください。

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