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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2011/12/22(木)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇-28 (魔界胎動/淫獣の館Ⅷ)
 佐俣努は激しい揺れのあと、熊のような巨体を起こした。周りには誰もいない。
 ――皆はどこへ行ったのだろう?
 彼は人を捜してモールの中を彷徨った。
 手元にあったはずの懐中電灯がなくなっていたので、暗がりの中を探り探り進むしかない。
 どこからか人の気配は感じられる。だが、それは近いものではない。遠くの足音が反響して伝わってきているような感じだった。
 しばらく歩いていると、闇の中からぬっと梅崎の姿が現れた。それも佐俣が見つけた頃の意思のない人形のような梅崎ではない、目の前にいるのは、全身から精気を発した一人の男であった。ただし会った頃と人相がまるで違っている。その双眸は血走り、狂気に吊り上がっていた。攻撃的なオーラが漂い、触れるものがあれば噛み殺さんといった雰囲気である。
 梅崎のあまりの変わりように、佐俣はただただ驚くばかりであった。
 梅崎はぎょろりぎょろりと血走らせた眼(まなこ)を左右に動かし、何を探している様子があり、それに合わせて佐俣もあたりを見回してみたが目立ったものは何もない。
「あの女……どこに行きやがった………」
 梅崎の怒気を含ませたその声に、佐俣はまたも驚かされた。
 しかし、あの女とは? ――ふと女といえば今村冴子という女しかいないことを思い出す。では、女とは今村冴子のことなのだろうか。
 佐俣は状況が掴めず、どうしたらいいかわからなかった。
 とにかく梅崎のことをなんとか宥めようと思った。
「おい、ちょっと――」
「うるせえ!」
 梅崎は怒涛の勢いで走り去ってしまった。
 残された佐俣は呆然とするしかできなかった。


 時同じくして、廣石裕行もまたモールの闇を彷徨っていた。目当ても梅崎と同じく冴子であった。
 どうせ死ぬなら女の躰を抱いて死にたい。いずれ化け物どもが押し寄せてきて、腸を引きずり出され、四肢を裂かれ、グロテスクな口に放り込まれて喰われてしまうならば、最後に好きなことをしてしまいたかった。法というものはもはや機能していなく、機能していない法を遵守する意味などまるでない。人間(ヒト)は再び野に放たれた獣になり、男と女は牡と牝になり、弱肉強食がものを言わせる世界になったのだ。
 今までは社会に上手く適応できず、弱者と見做されてきた廣石だが、ここが無法地帯というならば女のひとりくらい犯すのもわけないはずだ。所詮は女。多少痛めつけて、無理やり股を開かせればあとはなんとかなるだろう。存外向こうも死ぬ運命だと悟れば一緒に快楽を享受しようとするかもしれない。
 これまで押し込められてきた廣石の陰鬱な面が、無秩序の世界の到来によって解放されようとしていた。
 まずは女を捜さなくては……。
 脅しのために、ナイフのひとつでも準備した方がいいかもしれない。
 廣石が幽鬼の歩みで、闇に溶けていった。



<作者のことば>
淫獣どもが蠢くモールで、唯一の女性である冴子は狙われる。
果たして冴子はどうなってしまうのか? 淫獣たちの供物となって骨の髄までしゃぶられてしまうのか?

3・11の大震災によって、震災地域は一瞬にして膨大なダメージを受けました。
それまであった様々なものが失われ、あるいは機能しなくなりもしたと思います。

それでも日本人は、世界に褒められるまでに冷静さを失わず、人としての秩序を維持しました。
ごく少数の人間による犯罪はあったものの、映画で観るようなパニックに乗じて集団が犯罪にはしる――ということがなかったことは素晴らしいことだと思います。

――が、しかし、世界が終焉を迎えるという意識がなくてのこと。
絶望的な状況ではあるけれど、一部が一時的に機能しなくなっただけで、全体としての社会は依然として存在し、機能しており、いずれまた時間をかけて――全く同じとはいかないまでも――元のような生活に戻れるだろうという意識があってのことでしょう。

希望があるうちは、人は理性を保つことができるんだと思います。
(映画「ミスト」でも、異常な状況だというのに、助かる見込みがあると信じて一種の社会性を維持していたように思う。)

けれど、このMUKUROの世界のように圧倒的な――そして絶対的な――存在が地上に突如地上に溢れ、目の前で人が無惨にも殺されてゆく様を見せつけられ、いつまで経っても国――あるいはそれに準ずるもの――の救援がない状況で、今にも化け物たちが姿を現すかもしれない恐怖の中で、果たして人は理性を失わずにいられるのでしょうか?
時間が経つにつれ、精神は消耗されてゆき、遂には箍(たが)が外れてしまう。極限も極限の状態。何に希望を持てばいいのかわからない状況。そこに長時間晒されて、人間の精神は平常を保っていられるのか?

そのようなことを考えながら、特にこの「淫獣の館」編を書いています。

(次回に続く)
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ポール・ブリッツ | URL | 2011/12/23(金) 13:28 [EDIT]
女を犯して子供をたくさんこしらえよう、とするのも、ある程度は、「世界」がそのまま存続する、という空気があってのことだと思います。

実際にこういう状態になったら、人間、食い物探しと逃走だけで疲れ果て、女を犯すどころの話ではないような。

この場所では、なにか違う「力」が働いて男と女を一時的に興奮状態に陥れているのでは、と思って読んでおりましたが……。

匡介 | URL | 2011/12/24(土) 09:35 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
それについていえば、まずこの場所に関しては当面の食糧が確保されているという背景があります。
次に集団でいることで、小さなコミュニティーが生まれ、異常事態の中でも緊張感が緩んでいる場面であるいえます。つまり日常と非日常がせめぎあっている空間と見ることもできるんですよね。

そういう事情もあって、「極限」と呼べるほどの精神状態でもなく、しかし異常な状況という圧力がじわりじわりと精神を消耗させているのがこの場所だと考えています。

それに加えて、本能としては「種の保存」をしたい。個人(男)としては快楽を得たい。異常な状況下でこそ、現実逃避に似た衝動が突き動かすんじゃないかな、と。
あるいは「最後に好きなことをしたい」という気持ちもあるかもしれません。

何もない雪山の極限状態とは違って、ある程度は生活できるという中途半端さがある場所が<舞台>というイメージで書いています。

もう一つ重要なのは、煉獄篇の世界では異変が起こってから実はあまり時間が経っていないということでしょうか。
それだけ見て煉獄篇を最初から追うと、現在(最新話)の時点でも2日目か3日目という感じのはずじゃないかと(細かい時間の経過まで意識して書いてはいないのですが)。
複数視点から展開するせいで感じにくいかもしれないですが、今のところ煉獄篇の大部分は<異変後>1日目の出来事です。

そういうことを含めて考えてみると、それほど違和感ないんじゃないかな~って思って書いているのですが、どうでしょう?(笑)
各キャラクターたちにとっては、まだ事態を呑み込めず、「世界」がどうなるかというまで意識がまわらないんじゃないかと思います。「世界」は終わるのか?という空気感とまだ存続していくだろうという希望とが綯い交ぜになった感じではないかなぁ、と個人的には想像していますね。

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