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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2011/12/12(月)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇-23 (魔界胎動/淫獣の館Ⅲ)
 あの化け物はなんなんだ。妻は喰われた。見てはいないが、おそらく息子も。
 あの禍々しい外観。およそ地上のものとは思えなかった。そして、あの残虐さ。あれは、人を虫けら扱いしていた。人間にとっての蟻と変わらない。非力で、時に己が嗜虐性を充たすための虫けら。人間が蟻の巣を穿(ほじく)り返し、飛蝗(ばった)の脚をもぎ、蜻蛉(とんぼ)の翅を毟るのとなんら変わりない。やつらにとっては人間とはそういうものなのだ。そうに違いなかった。
 そして、食欲を充たす“モノ”なのだろう。
 だから妻は喰われた。泣き、抵抗し、命乞いした妻は、あの触手で嬲られ、鋭い爪で肌を裂かれ、ぬめぬめと光った舌で撫で回されながら貪り喰われた。
 思い出すだけで発狂しそうになる。
 梅崎はたどたどしい足取りで、歩いた。目的地があるわけではない。ただ歩いた。どこかへ向かわねばならなかった。どこかはわからない。だが、それはここではなかった。家でもなかった。数年前に購(か)った念願のマイホーム。それはもう自分のいる場所ではなかった。
 化け物に奪(と)られた。
 すべて奪われた。
 妻も、息子も、家も。
 絶望で澱んだ梅崎の視界に大きな建物が見えてきた。ショッピングモールだ。
 何の意思があったわけではない。
 気付いたときには、足はそちらに向かっていた。


 梅崎博という男を見つけたのは佐俣努だった。
 佐俣は放心状態でもう動いていないエスカレーターを歩いている梅崎を見つけ、彼に近付いた。もう何時間もそうして歩いてきたかのような放心ぶりだった。
 佐俣は梅崎を連れて、多田たちに会わせるとまず水と食べ物を与えた。最初は反応を見せなかったが、どうにか口に運ばせると生き返ったように口を動かし始めた。次々と喉に通していく様は何日を一口も食べずに砂漠を越えた人間を思わせた。
 差し出されたものをあらかた食べ終えると梅崎はそこで初めて自己紹介をした。
 梅崎は少し眠りたいというので、佐俣は余っていた毛布を梅崎に差し出した。それを受け取り、梅崎はその場で眠り込んだ。梅崎は現実から遠退こうとするように深く眠った。
 梅崎が目を覚ましたのは、それから二日後の夜だった。梅崎の隣で、山男のような佐俣が眠っていた。近くでは他にも眠っている人間がいたが、名前は思い出せない。梅崎は誰も起こさないようにそっと立ち上がり、その部屋を出た。
 モールは暗く、静まり返っている。
 その静けさは、神聖な教会を思わせた。梅崎は行ったことはなかったが、大聖堂というものはこういう感じなのかもしれないと心の隅で思いながらモールを歩いた。
 自分の呼吸しか聞こえない。
 そこにあるのは闇だけだ。
 それから自分自身。
 しかし、自分自身とはなんだろう?
 この闇の中にいる自分という存在。
 闇と自分の境界はなんだろうか。
 そんなものは、
 ないのかもしれない。
 そもそも自分とは何か。
 動物だ。
 動物は、食べて、寝て、そうして種を繁栄させる。
 なんだ、
 あの化け物とおなじじゃないか。
 化け物が寝るのかはわからないが、人を啖うのだから、寝ることもあるのかもしれない。
 自然の摂理。
 食物連鎖。
 自然淘汰。
 そういうことなのか。
 人間(ヒト)も動物だ。
 淘汰されることもあるのだろう。
 動物とは、結局のところは肉なのだ。
 喰うか、喰われるか、
 それしかない。
 長いこと喰われる立場になかった人間(ヒト)は忘れてしまっていただけだ。
 当たり前のことじゃないか。
 弱いか、強いか、
 弱肉強食。
 俺もただの肉の塊だ。
 妻も息子も肉の塊だった。
 それだけだ。
 でも、今は肉も何もないような気がしていた。すべては溶け出して、闇と一体化しているような気分だった。梅崎の肉体は、意識は、闇との境界を喪失っていた。
 闇は圧倒的だった。
 それは、妻を喰らったあの化け物に似ていた。
 圧倒的な存在に、俺もなりたい。
 気付けば、男は目蓋を閉じていた。
 そして再び目を開けたとき、
 目の前には女の姿があった。



<作者のことば>
想像もしていなかった展開(文章)の連なり。
書きながら湧いて出た言葉の奔流をそのまま吐き出してみた。

関係ないけど、昨日観た「片腕カンフー対空とぶギロチン」が忘れられない。

今回、そんな深い意味ないです。たぶん。
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COMMENT

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ポール・ブリッツ | URL | 2011/12/12(月) 07:07 [EDIT]
人類とは魔獣である、という結論になるのかなあ。

やっぱりこの男は女に食われるのですか?

匡介 | URL | 2011/12/12(月) 07:27 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
生存競争、というか生存闘争というものは意識してる気がします。
これはあくまで梅崎の内面のものという前提がありますが、そういう意識の片鱗が文章に出たかも?

「人類は魔獣である」かはわかりませんが、そういう一面もあるといえるかもしれないですね。

今言えるのは、この女をきっかけにモールが一転、淫獣の館に……。
淫獣の館編は一定ペース保てそうなので、次回を楽しみに待っていただければ幸いです。

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