FC2ブログ
みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2011/11/11(金)   CATEGORY: 短篇小説
ペンは剣の如く(下)
「おい、他になにかクラスのやつらのことでわかることはないのか?」
 自室に籠もり、戌彦はペンに問いかけていた。
 今まで意思疎通を図ったことがなかったので、これでペンに伝わっているのかわからないが、他に方法もない。そもそもペンに人間のような意思があるかどうかもわからなかった。
『鮎川美咲は、真山戌彦のことが好き』
「……えっ?」突然のことで戌彦は驚いたが、よく考えてみれば鮎川美咲はクラスの中でもかわいい部類に入る女子だ。「本当かよ! やべー、どうしよう。意味もなく緊張してきた」
『鮎川美咲は、たまに真山戌彦のことを想ってオナニーをすることがある』
「ええっ!? あの鮎川が、おっオナニー!? ……本当に、女子でもオナニーするんだ。どこか信じがたいけど、マジかよ。鮎川がおれのことを考えながら……」
 その様子を想像して、戌彦は勃起した。
「おれも今夜は鮎川でヌこう」
 戌彦は、自分が鮎川美咲に告白するところを想像した。もし書かれたことが真実なら、きっと鮎川美咲はオーケーしてくれるはずだ。
(そうするとおれと鮎川は恋人同士か)
俄然興奮した。


 翌日、戌彦は鮎川に告白した。返事は、オーケーだった。「実はまえから真山くんのことが好きだったの」戌彦は有頂天だった。そして、このペンがあればこの先なんて素敵な人生が送れることだろう!と幸せいっぱいに考えていた。
『雨宮裕未の今日のパンツの色はヒョウ柄』
『担任教師の西田大輔は、奥さんに浮気されている』
『明日の天気は晴れ』
 ペンの書き出す、知っている人間のくだらない情報が、戌彦の毎日の楽しみになっていた。ペンが自由に書くこともあれば、知りたいことを訊ねれば教えてくれた。ペンには未来の天気もわかったので、使い方しだいでどこまでも便利だった。
『松井稔幸は、酉島翠のことが好きでストーカー行為をしている。何度か下着を盗んだことがある。毎朝、酉島翠のことを考えてオナニーをしてから家を出る』
(うげぇ、マジかよ……)
『沢田綾子は、売春をしている』
(噂は本当だったんだ。沢田のやつ、オヤジ相手に好き放題させてるのかな。一体いくらで相手するんだろ)
 戌彦は、そのことをノートに書いてペンに訊ねた。書いた質問に対しても、ペンが答えてくれることは実証済みだ。
『1万5千円』
(噂じゃ5万だったのに。そんなに安いのかよ)
 戌彦は、頼めば沢田綾子はタダでヤラせてくれそうか訊ねてみた。
『無理』
(5千円じゃどうだ)
『無理』
(なんだよ。普段はオヤジ相手にしてるから、若い相手だと喜んでヤラせてくれるかと想ったのにさ……)
「ねえ、いつもニヤニヤしながらなに書いてるの?」
 不意に声をかけられて、戌彦は心臓が止まる思いをした。いつの間にか授業はもう終わっていた。(まずい。早く隠さないと!)。さりげなく書かれている内容を腕で隠しながら、振り返るとそこにいるのは雨宮裕未だった。
(やっべ! これにコイツのこと書いてあるぞ。もしバレたら大変なことになる!)
「今、なんか隠したでしょ。ねえ、ちょっと見せてよー」
「なっ、なんにも隠してねえよ」
「嘘だー。今絶対に何か隠した! あたし、いつも真山が授業中に楽しそうに何か書いてるなーって気になってたんだよね。ねえ、授業と関係ないことでしょ? もしかして漫画とか小説とか書いてるの?」
「なんだそれ。んなわけねーじゃん」
「えー、じゃあなにー? いいからちょっと見せてよ。ちょっとだけ! ね? 絶対に誰にも見せないからさ」
「何も書いてない」
「いいじゃん」
「書いてないってば!」
 つい強気に言ってしまった。
 気分を害した裕未は、強引に戌彦からノートを奪うという強硬手段に出た。
「あっ、おい! ちょっと……!!」
 戌彦は慌てて取り戻そうとしたが、遅かった。裕未がノートに書かれている内容を見て顔色をがらっと変えた。戌彦の背中に、冷たいものが伝った。
「ねえ! これなに? あたしのスカートの中、覗いたの?」
(どうしよう……、なんて言ったらいいんだ……)
「いいから返せ!」
 戌彦は裕未からノートを奪い取った。だが、事態はもうどうすることもできない。裕未は戌彦のノートの内容を言いふらしはじめた。
「馬鹿、やめろ! 嘘だ! そんなの嘘だって!」
 弁明まじりにやめさせようと叫んだ。クラスのほとんどが戌彦に注目していた。
「それどういうことだよ」
 静かな怒気を含んだ声だった。
 その声の主は、沢田綾子である。戌彦のノートに書かれた、売春をしているクラスメイトだ。
「いや。違うんだ。その……」
 自分でも何が違うのかわからない。でも、とにかく何か言わないと――。戌彦はパニックに陥った。もはや背水の陣だが、勝てる戦でもなく、ただ退路がないだけの戦場に放り出された気分だった。
『真山戌彦は、知り合いの秘密を知ってひそかに楽しむのが趣味』
 右手が勝手に動いて、そう書き走らせた。
(なぜペンを握っているんだおれはあああああああああ!!)
「ふざけてんのかよ!」
「ふざけてません! ふざけてないですうううう!! だから許してください。ごめんなさい、謝ります! ほんとごめんなさい!」
『謝って済むなら何度でも謝ってやる』
「――え?」
 心に思っただけのはずなのに、その思いをペンがそのまま文章にしていた。
「なにしてんだよ、馬鹿!!」怒鳴ってから周りの様子に気付いた。「――いや、馬鹿っていうのは、その……」
『真山戌彦は、――』
「わ、わ、わわわ、わあああああああああ!!!!」
 放そうとしてもペンが放せない。右手が言うことを聞かなかった。
 もう壊すしかない。――そう直感した戌彦はペンを持つ右手を思いっきり床に叩きつける。
「死ねええええええええ!!!!」
 そもそもペンに生死があるのかも不明だが、戌彦はそう叫んでいた。

『殺す』

 叩きつけたと思った場所に、荒っぽい字でそう書かれていた。
(ペンの野郎! 裏切ったのは自分のくせに!)
 だが、すでに戌彦の右手はペンのものだ。いくら抵抗しようとしても、右手が勝手に動く。(これは――ッッ!!)。ペン先が自分の方に向いていた。(ま、まさかァアア――!!)
 戌彦は自分で自分の首をペンで貫いた。少なくとも周りにはそう見えていただろう。
 より正確に表現するなら、ペンが戌彦の首を貫いた。
 ペンは深々と刺さっている。
 戌彦の首からドクドクと血が溢れた。あたりは騒然となった。戌彦は薄れゆく意識の中で右手のペンを見た。
 ペンが動いている。
 床にはこう記されていた。
『ペンは剣ほどに強く、また剣よりも強し』
(意味がわかんねえよ……)
 そして、戌彦の意識は大きく深い闇に呑み込まれた。



<作者のことば>
久し振りに書いたということもあるけれど、だいぶさっぱりした文章になったと思う。
必要最低限の言葉でしか綴ってないし、言葉で飾ることもほとんどしてない。(「言葉で飾る」って言葉は玖堂と他者の間で共通の意味を持って理解されるのか、今ふと疑問に思った。)

「ペンは剣よりも強し(また、人を殺せる)」

というタイトルにしようかとも思ったんだけど、死をちらつく不穏な展開になるのか?という認識を以って読まれるとなんか違うなーと思ってやめた。
……あ、これって「怪奇蒐話」向けじゃないか? でも、ホラーとして書いたつもりもなく(結果としてホラーを含んでいるかもしれない)、それに「怪奇蒐話」のカテゴリに入れちゃうとやはり不穏な展開を期待されてしまいそうで、それはちょっとネタバレではないけど、テイストバレというか展開バレというか……。もしかしたら、あとで「怪奇蒐話」に変更するかもしれない。(ただ、これがホラーならSFを意識して書いた「添付メール」「コピー人間」も「怪奇蒐話」っぽいが。)

これをきっかけにまた書いていきたいですが、まぁ 気分次第です。


[ TB*0 | CO*2 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する

ポール・ブリッツ | URL | 2011/11/12(土) 11:29 [EDIT]
いや、十分ホラーというか、ブラック・ユーモア小説です(^^)

楽しめました。次から次へとペンが言葉を書きだしたときはぞくぞくしました(^^)

またなにか浮かんだら新作お願いします~♪

匡介 | URL | 2011/11/12(土) 19:50 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
ありがとうございます!
終盤、もっとじっくり書けばなおよかったんでしょうけどね(笑)

実は『喉にペンが刺さる』というシーンが先にあって、じゃあペン自身が刺さっていったことにしよう~~という流れでラストから遡るようにして考えていきました。なので、書きたいなぁってシーンがあれば書くかも?

そういえば、モノがキャラクターを持っているというのは書くの初めてかもしれないです。新鮮でした。

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ