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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/05/31(土)   CATEGORY: 爆音デイズ
爆音デイズ(2)
 生まれて初めて行ったライヴはLucyのライヴだった。
 その頃のはまだ龍次とはそんなに仲が良かったわけでもないんだけれど、龍次が僕に声をかけてきたのだ。
「俺、バンドやってんだけどさ。今度ライヴあるからそれに来いよ」
 僕は返事を言わなかったけれど、僕が行くことは彼の中では決定していた。それで半ば無理やりにライヴハウスへと連れて行かれたのだ。
ぶ厚いドアを越えると大音量で流れるサウンド。あまりのヴォリュームに耳鳴りがした。
 そのときLucyがやったのはたった4曲で、だけどどれもカッコよくて、僕は1曲目の時点ですでに魅入っていたりしていた。そのあとに他のバンドもいくつか現れてきたから僕はそれも観たのだけれど、やっぱりLucyが一番カッコよかった。だって他のバンドとは全然違っていたから。「断然」なんて言葉はこんなときに使うんだろう。Lucyは他のバンドより断然、カッコよくてイカしていた。
 Lucyはカリスマ性のカタマリのようなバンドだった。

***

 朝から雨が降り続く日の授業はなんてつまらないんだろう。いつもに増して。雨がどこかから憂鬱を運んでくるんだろうか。
 とうとう白髪が混じり始めたといった数学教師は魔法のコトバを言っていた。数字といくつかのアルファベットで織りなされる魔法のコトバを。僕はそれを聞き流すようにして聞いていた。僕は魔法使いじゃないから、魔法のコトバなんて理解しようもない。なんて思いながら。
 マカフシギな羅列を黒板へ書き込んでいる数学教師の言葉をさえぎるように、教室のドアが開いた。クラス中の視線がドアの方へと注がれる。入ってきたのはミステリアスな雰囲気が漂うクールなイケメン・斉藤 健吾だった。
「すみません。遅れました」
 わかった、座れ。と数学教師が言うのが聞こえた。
 綺麗な黒髪、端整な顔立ちの美少年は少し雨で濡れていて、どこか色っぽかった。このときばかりは世の女性の気持ちが理解できてしまった気がする。不覚にも今、彼に口説かれたら落ちる自信が充分にある。

 授業が終わり、僕は健吾に声をかけた。
 周りからは女子の視線を感じる。なんでお前なんかが健吾様と親しくしているの? 誰も口には出しはしないけれど、そう聞こえてきた。
「濡れてるけど、大丈夫?」
「ああ。近くまで送ってもらったんだけど、結局濡れるのは変わらなかったな」
 そう言って健吾は濡れた前髪を掻き上げた。つややかな黒髪。
「それって例の?」
「ああ」
  実は彼には秘密のアルバイトをしている。
 お姉さま方や奥さま方と寝てお金を頂戴するというシークレット・アルバイト。きっと彼には天職だろう。彼のためならお金を出すって人はいくらでもいると思う。だって男の僕でさえ、抱かれたい! と思ってしまいそうになるのだから。なんて恐ろしい魅力だろう。
「再来週、龍次たちのライヴがあるんだって」
「来週のいつ?」
「えっと‥木曜かな」
「わかった。考えとく」
 雨で濡れた健吾はやっぱり色っぽかった。
 彼独特のミステリアスなオーラがさらにそれを助長させている。もしこのとき健吾に耳元で愛の言葉を囁かれでもしたら、抱いて! って思っちゃうんじゃないかと不安になる。危険な男。

***

 龍次に誘われてバンド練習を見に行く。龍次たちは駅前にある小さなスタジオで2時間ほど練習をした。
 帰りにみんなでゴハンを食べに行くことになった。しかもLucyのリーダーであるシンさんにおごってもらうことに。人の良いリーダーだ。
 僕らは駅前にあるラーメン店「やがみ」に入った。小さくてボロい店だけれども味は保証できる。店主も気さくで良い人だ。
 僕は醤油ラーメンを頼んだ。龍次も同じく醤油。だけどさらにコーンをトッピング。シンさんは塩。ドラマーのケンくんはとんこつをそれぞれ頼む。
 シンさんの名前は高橋慎之介。さっきもいったようにバンドLucyのリーダーであり、ギタリストだ。アッシュ系に染めた短髪に、いつもにこにこした笑顔のシンさんはLucyの曲のほとんどを作曲している。とにかくLucyはシンさんがいないと始まらない。
「ごめんね。おごるって言ってもラーメンなんかで」
「いや、全然構わないですよ。いいじゃないですかラーメンだって」
 僕らの会話を聞いて「やがみ」の主人は咳払いをした。どうやらラーメンを軽視しているような発言が気に入らないらしい。
「この前のライヴ、来てくれてたんだって?」
 そんなラーメン屋の主人なんか気にする様子はなく、シンさんは会話を進めた。
「はい。相変わらずカッコよかったですよ」
「ごめんねぇ。来てるの知ってたら挨拶くらいしてたんだけどさ」
「僕こそ挨拶もなしに帰ってしまってすみません」
「いいんだよ。義之君はお客さんなんだから。だいたい、そういうことを教えてこない龍次が悪いんだからさ」
 僕は龍次に目をやる。不機嫌な表情。
「俺のせいかよ」と龍次。
「うん」とシンさん。
 僕はもうひとりの方にも目をやった。さっきからとんこつラーメンを黙々と食べているドラマーに。彼の名前は大崎賢一。16歳。つまり僕らよりひとつ年下。僕の知る限りではケンはバンド内でのムードメーカー。彼はいつも明るい。
「ごちそうさまー」
 そう言ってケンが器に割り箸を置いた。
「食うの早えよ」龍次が言う。ケンは笑った。
「みんなが遅いんだよ」
「ちゃんと噛んで食べなきゃだめだよ」とシンさん。
 僕も笑った。まるでホームドラマのようだな、と思った。


(...to be continued)


<作者のことば>
健吾はお気に入りのキャラです。
「爆音」では龍次に次ぐお気に入りキャラかもしれません。

実は彼にはモデルとなるキャラクターがいます。

でも、「パクリだー!」とか言われるのがこわいのでお教えしません(笑)
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