MUKURO・煉獄篇‐15 (Si vis pacem,para bellumⅡ)
意識が朦朧としていた。先ほどまであった激痛は遠退いている。躰のどこかを怪我しているはずだが、今は何より寒かった。
視界がぼやける。自分の手が見えた。指の本数が合わない。それは欠損(うしな)ってしまったからなのか、視界がぼやけているのせいなのかわからない。――いや、多い。5本以上はある。きっと、視界がぼやけているせいなのだろう。
それから赤が見えた。手が赤に染まっていた。これは……血だ。血で手が汚れ、て、どこかから、血が、溢、れ、てい、る……確か、俺は……あの、ばけ、ものに………さむい。しぬ、のか……お、れは、しぬのか………?
そのとき何かが聴こえた。
そう、おれに、もっと、ちから、があれば……。なか、まを、たすけられ、たのに……
――………か?
お、れが、もっと、つよ、ければ………
――汝は何を欲する?
な、んだ……?
――汝、力を欲するか?
ち、から……?
――汝、力を欲するか?
ちか、ら、ほし、い……
――汝、生を望み、力を欲するか?
いき、たい……
――汝、生を渇望し、力を欲するのだな?
おれは、いきたい。そ、して、ちから、が、ほしい………
――その願望(のぞ)み、我が叶えてやろう。
視界がぼやける。自分の手が見えた。指の本数が合わない。それは欠損(うしな)ってしまったからなのか、視界がぼやけているのせいなのかわからない。――いや、多い。5本以上はある。きっと、視界がぼやけているせいなのだろう。
それから赤が見えた。手が赤に染まっていた。これは……血だ。血で手が汚れ、て、どこかから、血が、溢、れ、てい、る……確か、俺は……あの、ばけ、ものに………さむい。しぬ、のか……お、れは、しぬのか………?
そのとき何かが聴こえた。
そう、おれに、もっと、ちから、があれば……。なか、まを、たすけられ、たのに……
――………か?
お、れが、もっと、つよ、ければ………
――汝は何を欲する?
な、んだ……?
――汝、力を欲するか?
ち、から……?
――汝、力を欲するか?
ちか、ら、ほし、い……
――汝、生を望み、力を欲するか?
いき、たい……
――汝、生を渇望し、力を欲するのだな?
おれは、いきたい。そ、して、ちから、が、ほしい………
――その願望(のぞ)み、我が叶えてやろう。
***
銃を構えた野坂が建物の中をゆっくりと進んでいた。今のところ何かの気配は感じられない。そこにあるのは屍とその死臭だけだった。
ちなみに亮太郎は車両(くるま)の中に置いてきている。
野坂はさらに歩を進めた。何事にも対応できるように、常に緊張の糸を切らさずに、そっと足を滑らせる。
「いき……た、い………」
今、確かに声が聴こえた。知った声だ。野坂はつい小走りになった。
「伊藤!」
野坂には確信があった。さっき聴こえてきたのは同期の伊藤の声だという確信だ。
「伊藤、いるのか?!」
声がした方へと野坂は駆けた。知っている人間がいる。知っている人間が生きている。頭の中にはそれしかない。気付けば、全力で駆けていた。
「の、さか……」
――いた。確かに伊藤だった。
伊藤は片腕を喪失い、両脚を喪失い、血まみれの状態で床に這いつくばっていた。
「伊藤!! 大丈夫か!!」
野坂が駆け寄る。これでは助からないだろうことは野坂も理解していた。それでも助けてやりたい。助かって欲しい。そう願ってしまう。
「………ら………い…」
息絶え絶えに伊藤が何かを口にした。「え? なんだ?」
「おれ、は、ちか、ら、が、ほし、い………」
――では汝に我が力を貸そう。
どこからともなく声が聴こえた。まるで頭の中に直接響いているようだ。
ミシッ――
突如として、天井に罅(ひび)が入り、それが野坂の目の前に落下してきた。その下には、伊藤がいる。
「――伊藤!!」
眼前にあるのはただ瓦礫の山。伊藤の姿は見えない。
そのとき、
瓦礫の中で何かが動く気配があった。
「……伊藤?」
さすがの野坂も半信半疑に問いかける。
返事は、ない。
だが、確実に瓦礫は隆起して、内部(なか)で何かが立ち上がろうとしている。
煙をあげて瓦礫が崩れ落ちた。
シルエットが浮かびあがる。
両の脚はついている。伊藤ではない。
では……?
野坂がM9を構えた。
砂埃の中から現れたのは、予想外にも鎧武者の姿だった。
銃を構えた野坂が建物の中をゆっくりと進んでいた。今のところ何かの気配は感じられない。そこにあるのは屍とその死臭だけだった。
ちなみに亮太郎は車両(くるま)の中に置いてきている。
野坂はさらに歩を進めた。何事にも対応できるように、常に緊張の糸を切らさずに、そっと足を滑らせる。
「いき……た、い………」
今、確かに声が聴こえた。知った声だ。野坂はつい小走りになった。
「伊藤!」
野坂には確信があった。さっき聴こえてきたのは同期の伊藤の声だという確信だ。
「伊藤、いるのか?!」
声がした方へと野坂は駆けた。知っている人間がいる。知っている人間が生きている。頭の中にはそれしかない。気付けば、全力で駆けていた。
「の、さか……」
――いた。確かに伊藤だった。
伊藤は片腕を喪失い、両脚を喪失い、血まみれの状態で床に這いつくばっていた。
「伊藤!! 大丈夫か!!」
野坂が駆け寄る。これでは助からないだろうことは野坂も理解していた。それでも助けてやりたい。助かって欲しい。そう願ってしまう。
「………ら………い…」
息絶え絶えに伊藤が何かを口にした。「え? なんだ?」
「おれ、は、ちか、ら、が、ほし、い………」
――では汝に我が力を貸そう。
どこからともなく声が聴こえた。まるで頭の中に直接響いているようだ。
ミシッ――
突如として、天井に罅(ひび)が入り、それが野坂の目の前に落下してきた。その下には、伊藤がいる。
「――伊藤!!」
眼前にあるのはただ瓦礫の山。伊藤の姿は見えない。
そのとき、
瓦礫の中で何かが動く気配があった。
「……伊藤?」
さすがの野坂も半信半疑に問いかける。
返事は、ない。
だが、確実に瓦礫は隆起して、内部(なか)で何かが立ち上がろうとしている。
煙をあげて瓦礫が崩れ落ちた。
シルエットが浮かびあがる。
両の脚はついている。伊藤ではない。
では……?
野坂がM9を構えた。
砂埃の中から現れたのは、予想外にも鎧武者の姿だった。
COMMENT
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匡介 | URL | 2011/06/11(土) 23:20 [EDIT]
匡介 | URL | 2011/06/11(土) 23:20 [EDIT]
>ポール・ブリッツさん
反応しにくいです。。(苦笑)
ここらへんから地獄篇との違いが出てくればいいかなーって思ってます。
今までは地獄篇を踏襲したような内容で、導入部だったので。
上手くいくかわかりませんが、頑張ります。
反応しにくいです。。(苦笑)
ここらへんから地獄篇との違いが出てくればいいかなーって思ってます。
今までは地獄篇を踏襲したような内容で、導入部だったので。
上手くいくかわかりませんが、頑張ります。
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