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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2011/01/13(木)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇‐6 (静寂の街Ⅰ)
 野坂 大吾が意識を取り戻したのは愛車の運転席だった。作動したエアバッグが野坂の目の前にあった。(何がどうなったんだ……)と野坂は思い、そして徐々に思い出し始めた。そうだ、自分は事故に遭ったんだ。確か前の車が急にブレーキをかけてそれで――
 考えると頭がずきりと痛んだ。触れてみると額から血が出ていて指先を赤く濡らした。
 ドアを開けて赤のエクストレイルを降り、野坂はよろめきつつも事故を起こした前の車に近付いた。運転席を覗くと誰もいない。ドアは開きっ放しだった。
(どういうことだろう?)
 そこで野坂は運転席のドアに何かが付着していることに気付き、近寄ってよく見てみる。ぬるりとした透明な粘液だ。それに生臭い。これは何なのか? その答えは出ぬまま野坂はあたりを見回した。誰の姿もない。街は静寂に包まれ、まるで街そのものが喪に服しているかのようだった。
 どうしようもないので彼はポケットから携帯電話を取り出し、110とプッシュして通話ボタンを押したが、電話が通じない。110が通話中で繋がらないということは普通ならば考えられず、野坂は何かがおかしいと思い始めた。
 仕方がなく愛車のエクストレイルに戻り、破損状況を確認したが、フロント部分が完全に潰れてしまっている。これは直せるだろうか。あるいは直すより新しい車を買った方が安くつくかもしれないな、などと思った。
「これで助かったのは奇跡かもな」
 その言葉は静かに響き、気分はまるで世界で最後の生き残りだ。確かそういう映画があったような気もするな、と野坂は思いながら愛車のシートに腰をおろした。
(さて、これからどうするべきか)
 警察に繋がらなければ、やはり職場に連絡を入れておくべきだろう。野坂は再び携帯電話を取り出して、登録された職場の番号を呼び出す。彼は自衛官だった。父も自衛官で、自然と自分も同じ道を選んで高校を卒業と同時に自衛隊に入隊した。野坂にとって父は憧れだった。厳しいが、優しい父親だった。どんなことも行動で示す人。父を慕う人も多く、家にはよく父の同僚が遊びにきていたことを思い出す。その父も3年前に癌で亡くなった。日頃から健康には気を遣っていた父だが、発覚したときにはもはや手の施しようがないほど癌は体を蝕んでいた。
「人はいずれ死ぬ」そう父は言った。「だが、死んでも残るものもある。たとえば、お前がそうだ。――お前は俺が生きた証だよ。俺がいたからお前がいる。そして、お前もいつか自分の子を持つだろう。そうして人は生きた証を積み重ねていくんだ。誰もが生命(いのち)という歴史を背負って生きているんだ。そしてお前はそれを守れ。国のためではなく、人のために守らなきゃならん。こういう時代だ。いつそういうときがきてもおかしくはない。そのときはお前が体を張るんだぞ。自分の生きた証を残すためにも、な」
 父は自衛官という職業に誇りを持った人間だった。自衛官の誰もがそういうわけではないが、自分は父のような自衛官になりたいと純粋に思った。今はまだ妻も子もいないが、いずれ家庭を持つ日が来るかもしれない。そのときは、父の言葉を我が子に伝えたいと思っていた。自衛官になるかはわからないが、それでも伝えておきたかった。それが、父が生きていた証なのだろうと野坂は思っているからだ。
 呼び出しのコール音が聞こえ始めたときに、野坂は異様な気配を感じた。最初はそれが何なのかわからなかったが、すぐに嗅覚が反応した。あたりが生臭い。野坂は愛車から飛び降りて、あたりを見回した。そして、信じられないものを目にする。
 巨大な塊。
自分の数倍はある大きさのそれは、ブヨブヨとゲル状で出来ていて姿形は巨大で、醜悪なタコのようであった。丸い体に、うねうねとした触手のような脚が幾本も生えている。半透明の紫がかったボディの中心にはぎょろりとした目玉がひとつ、獲物を探すように蠢いていた。
 野坂は戦慄した。今まで見たこともないモノが目の前にいる。咄嗟に、彼の本能が警鐘を鳴らした。
 ―― そして、醜い化け物と野坂の目が不意に合った。




<作者のことば>
正直ところ、今回6話目が一番スムーズに書けたというか今まで全然書けなくて苦しかったのに、この回はサラッと書けました。
たぶん野坂を出したかったから、かな?

最初は野坂ってだけで大吾って名前はなかったんですけど(それで進めるつもりだった)、なんかストーリーの展開上出しておいた方がラクかもって急遽命名。
あと父親のエピソードも書きながら思いつくままに書きました。2代渡っての自衛官って設定自体そもそもなかったのだけれど、自衛官(現在は元)の父を持つ友人のお兄さんが自衛官なのでそういうエピソードが生まれました。
今は付き合いなくなってしまった高校の友達も、やはり父だったか兄だったかが自衛官で、自分もなる!みたいなことを言っていたので、自衛官はそういうイメージあります。ちなみにそのかつての友達はペンキ屋になったとか(笑)

本来、自衛官や自衛隊について少しでも知識入れておくべきなんだろうけど、今のところゼロ。
ほんと何も知りません。知らないまま書くか、それとも少しは調べるべきか。なんか調べるモチベーションが出てこないんですけど、困ったものです。

あとエクストレイルは本当はカタカナ表記よりX-TRAILの方が断然かっこいいと思ってるんですけど、まあカタカナの方が読みやすいかと。僕の大好きな車です(車乗らないけど)。

あと煉獄篇はサブタイトルが浮かばなくて困る。
全然いいのが出てこなくて、サブタイトルって難しいなーと。だから今回もⅠとして次回をラクなようにしてみました(笑) ちなみに「日常の崩壊」は正直ミスネーミングだった。浮かばなくて妥協したんだけど、やっぱ後悔。

そんな煉獄篇ですが、どうか引き続きよろしくお願いします。
コメントなくても、拍手だけでも全然モチベーションが変わりますので、出来たらクリックしてくださいませ。

前回も書きましたが、読者様に支えられてどうにか書けているので。
そして作品でお返しできるよう気合い入れてガンバリマス。

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