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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
平成百鬼夜行案内(第三夜)――百々目鬼 覚
 飛騨美濃の深山に玃(くはく)あり。山人呼んで覚(さとり)と名づく。色黒く毛長くして、よく人の言をなし、よく人の意(こころ)を察す。あへて人に害をなさず。人これ殺さんとすれば、先その意をさとりてにげ去と云。

 ***

 僕は警察の取調室にいた。刑事は恐い顔をして僕に尋問を続けている。
 あのあと自分の部屋に戻る気もせず、結局愛染の部屋に泊まらせてもらった。愛染は深夜の来訪に呆れ顔だったが、仕方ないといった様子で受け入れてくれた。その後、僕はどうしてかぐっすり眠ることが出来た。
 次の日になって、昼頃になると大学に刑事が現れた。よくわからぬまま任意の事情聴取ということで連れ出され、現在こうして取調室にいる。どういうことかいまいち理解が出来ていないのだが、昨晩に殺された女性が僕の財布を持っていたらしい。それに学生証が入っていたので刑事が大学までやってきたというわけだ。
 話を聞いているうちに、殺された女性が誰であるかに気付いた。昨夜、ふらふらに酔っていたあの女性だ。刑事に見せられた写真にそんな面影があった。そのことを刑事に告げると、では財布はどういうことなのかと訊かれた。財布がなくなっていることに気付いたのはこの話を聞いてからなのだが、どう説明すればいいかわからずいつの間にかになくなっていたと言った。
「ということはつまり、掏摸(すり)に遭ったということか」
「まあ、そういうことなんでしょうか」
「随分と都合の良い話ですなぁ」
「そう言われましても…」
 人と話すのが苦手な僕は、どうしても刑事の威圧感に負けてしまう。このままでは殺人の罪をなすりつけられ、冤罪にさせられてしまいそうだった。
 しかしあの女性が掏摸だったとすると、納得いくことがひとつある。あの腕にびっしりとあった目。きっと彼女は百目鬼だったのだ。
 百々目鬼とは掏摸を働く女性のなれの果て、と言ったらいいのか。むかしの銭は今の五円玉、五十円玉のように中央に穴があり、それが鳥の目に似ていたことから鳥目と呼ばれていた。銭を盗む女性がその鳥目の精に憑かれたという意味で、躰に無数の目が付いてしまったのが百々目鬼という妖怪である。
 そんなことを考えているうちに刑事には帰っていいと言われた。証拠不十分だったのだろうか。それとも初めから疑われてなどなかったのか。詳しいことはわからなかったが、言われるままに僕はその場を去った。


「まさか君が刑事に取り調べを受ける日がくるとはさすがに思わなかったね」
 事の詳細を愛染に話すと、あの普段はポーカーフェイスの愛染ですら驚きを隠せないようだった。そして僕が連続殺人の犯人として疑われていたわけではないだろうと彼は言った。
「君は犯人の人物像にかすりもしていない。まァ 挙動不審なところは充分に怪しいけだろうけれどね。ここだけの話、犯人は大柄の怪力だそうだよ。どう見たって君の容姿では無理だろう。そもそも殺人を犯す度胸すらないって雰囲気が周りに教えているよ」
 相変わらず余計なことを言いはしたが、大柄で怪力の男が犯人像としてあるとは知らなかった。そんな情報どこから仕入れてきたのかはあえて訊かなかったが、この男のことだからどこと繋がっていても不思議はない。もしかすると「研究所」と呼ばれる怪しげな機関からの情報かもしれない。愛染はその研究所に勤めている田島という太った男と知り合いであるからだ。一体、研究所がどういったところなのかは一切が謎に包まれていて、得体が知れない。
「それより気になるのは君が会ったっていう女性のことだ。百々目鬼と言ったか? それは掏摸の女性が変化した妖怪なんだね?」
「ああ、そうだ。あの人が百々目鬼に視えたなんてすごい偶然だよ」
 愛染は少し考えるようにして「本当に偶然かな?」
「どういうことだ?」
「以前から思っていたことがあるんだ。俺が思うに、君は第六感的感覚の持ち主なんじゃないだろうか」
 突然の話に理解が追いつかない。「――第六感?」
「ああ、第六感だよ。君は人からその性質を感じ取る能力に長けているんじゃないか? それが妖怪というカタチになって君には視えるわけだ」
「急過ぎて、どういうことかわからないな」
「つまり目の前にいる人間の本質的な部分が君には妖怪化して視えるってことさ」
 何となく、言おうとしていることは理解出来た気がした。相手がどんな人間かを見抜いて、妖怪として視覚化(ヴィジュアライズ)するということなのだろう。しかし自分にそんな能力があるとは思えないのだが。相手がどんな人物か見抜くのはむしろ苦手とするところだった。
「自分ではそうだと思えないけど」
「まァ 断言は出来ないが。でも、特に危険を察知したときの君にはそんな能力が垣間見えるよ。――別に超能力だと言っているわけじゃない。そういう能力が人より長けているんじゃないかってことだよ」
 納得はしきれなかったが、思い返してみればそうだと思えなくもなかった。以前にカニバリズム殺人鬼と対峙したときも似たようなことがあった。もしかすると本当に、本能が危険を察知して警報を出しているのかもしれないな、と思った。



<作者のことば>
前回、冒頭の読みを()で表したくないって書いたにも関わらず()入ってます。第3話。
最近書いたのは4話の後半と5話だけなので、これをどういう意図で()入れたのか不明ですが(笑)、たぶん「あまりに読めないだろ、これ」と思ったのかと。
だって玃(くはく)って無理じゃん。しかも画数多過ぎて潰れ気味だし。それに「意」で「こころ」って当て字じゃん。これは漢字だけだと読み方わからないじゃん、ってことで()で読み入れたんでしょうね(笑)

そして今まで妖怪が視えるのはあくまで神宮寺の妄想の産物ということでしたが、ここにきて愛染なりの説明が付きます。これ面白いなぁ、などと読み返しながら思ってたんですが(笑)、これは別に超能力ではないです。どちらかといえば愛染説は共感覚に近いもの。あるいはわかりやすく説明すれば「他人に刃物が刺さる」のを見て「痛い」と思ったり「檸檬から汁が出ている」のを見て「酸っぱい」と思ったり、そういう感覚の延長線上だと愛染は考えていると思ってください。もしくは身なりからその人の性格を予想したりする感覚。
つまり経験や知識から擬似体験しているような状態なんですね。妖怪に傾倒している神宮寺は物事の本質を妖怪というカタチで認識しているのではないか、というのが愛染説。

でも、これはあくまで愛染が勝手に言ってるだけですけど(笑)

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