FC2ブログ
みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/11/30(火)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(37)
 柩と名乗った男は異形の黒豹のその頭をやさしく撫でつけた。おもむろに露わになった野獣の脳溝に、柩の白い指が這う。
 ぐるるるるる。黒豹が唸った。無い眼で骸を睨めつけているかのようである。全身の筋肉が隆起している。力を漲らせている。今にも爆発しそうだ。「行け」
 その一言が黒豹の全てを解き放った。それと同時に黒き獣は猪突猛進に骸にぶつかっていく。骸は防御の体勢に入ったが、そのまま勢いよく吹き飛ばされた。
 しかし素早く起き上がると今度は骸の方から仕掛けた。骨刀が風を切り裂く。その切っ先が黒豹の牙と交差する。強い衝撃――骨刀に罅(ひび)が入った。
 骸は瞬時の判断で飛び退いて距離をつくる。
 柩が黒豹に歩み寄り、その剥き出しの脳にズブリと指を突っ込んだ。獣の叫び声があたりに響く。黒豹は唸り、躰をくねらせる。するとその体つきに変化が生じ始めた。前脚が太くなる。続いて後ろ脚も。見る見るうちに肉体が発達していくのがわかる。筋肉が恐るべき膨張を遂げていた。その暴走は止(とど)まることを知らず、ついには黒豹の皮膚を切り裂いた。筋繊維が覗き見える。次々の筋肉が皮膚を破り、獣の内から外を目指していく。
 気付けば黒豹の躰は最初の2倍ほどに膨れ上がっていた。
 苦しいのか、もがく獣は目の前にいる骸に怒りの矛先を定めたようだ。力が爆発する。発達しすぎた前脚が高速で骸を薙ぎ払った。一瞬で骸は壁に叩きつけられ、床に落ちる。彼の骨刀はぽっきりと折れていた。
 追撃。
 黒豹の強固な爪が砕くように壁を抉(えぐ)った。急激に増した力をコントロールできていないのか、その一撃は骸を切り裂くことをできていない。
 追撃。
 追撃、追撃追撃追撃。
 黒豹の猛攻が始まった。すでに骸のことは見えてないのかもしれない。攻撃は無差別に行われた。怒りが全てを見失わせているようだ。目の前にあればそれを破壊する。暴走する黒豹の姿は、見る者にそのような印象を受けさせる。
 骸は次々と繰り出される攻撃をかわしていった。正確には、もはや黒豹の目標は骸の定められたものではないので、攻撃を避けることはそれほど難しくはなかった。それでもかなりのスピードで爪が炸裂する。まるで流れ弾のように、攻撃が骸に向かうこともあった。そして強烈な一撃は、かするだけでも脅威だった。その衝撃は爆風を受けるのに似ている。
 骸は両腕から2本の新しい骨刀を生み出した。
 あの破壊力、まともに捉えられたらひとたまりもない。骸のチャンスは一度だけだ。彼の間合いは、つまりはお互いの攻撃圏内である。骸が仕留められなかったときは、黒豹の一撃が彼を粉砕するだろう。文字通りに、勢いだけで粉々になるかもしれない。
 攻撃。破壊。攻撃。粉砕。攻撃。衝撃。爆風。攻撃攻撃攻撃。
 一瞬の間。
 そのわずかな一瞬を骸は見逃さない。
 接近。
 骨刀が奔る。
 黒豹の首を捉えた。
 切っ先が触れる。あと数ミリで肉に食い込む。
 ――反撃。
 あまりにも反応が速かった。黒豹の攻撃が炸裂する。骸の間合いは、お互いの攻撃圏内。黒豹の太い前脚が彼に直撃、そして衝撃。それは爆発。全身がバラバラになって吹き飛ぶような圧力。次の瞬間には、骸の躰は黒豹からだいぶ離れたところに落ちていた。
 速い。強い。
 純粋すぎる、力の差。
 それでも骸は立ち上がる。砕けた骨は彼の超常的な自己治癒能力によっておそるべき速度で修復されていく。骨刀を握り締めた。
 ――まだ闘えるか?
 自分に問いかける。
 ――当然だ。それが自分の役目だ。
 彼は爆発的なスピードで黒豹に接近した。骨刀を投げる。それは矢のように真っ直ぐと飛ぶ。おそろしく速い。迅い。だが、黒豹の反射速度も並大抵ではない。飛んでくる骨刀を叩き落そうとする。
 そして、血が飛沫をあげた。
 骨刀が黒豹の剥き出た脳に突き刺さっている。投げたのとは別の、骨刀だ。つまり投げた骨刀は囮(おとり)だった。彼は素早く行動して、黒豹を間合いに捉えた。そして一撃。
 大地が震えるほどの雄叫び。否、叫び。
それは絶叫だ。痛みによる。絶叫だった。黒豹は痛みに叫んだ。それが大地を震わせた。もちろん大気も震えている。
 そのとき、骸の背後で殺気が漲った。




<作者のことば>
この回はすごく悩んだ。
途中で、納得のいく表現が見つからなかった。それでしばらく放置していた。

明らかな語彙不足。書けたこれがベストなのかはわからない。

スピード感が欲しい場面だったし、黒豹の爆発的な力が炸裂する画(え)が欲しかった。
映像は見えている。場面は把握できている。それを文章に変換する作業だけが難航している。自分の力量が足りないばかりに。とってもフラストレーションなときです。これが、一番。

今までにない速度感、そして圧倒的なパワーを描きたかったのだけど、今までにない語彙で表現することは叶わなかった。それは、ある意味仕方ないけれど。積み上げたものでしか、今まで手に入れてきたものを使ってしか、書くことは出来ない。だからこれまでの表現法で、いかに頭にあるイメージに近づけるか、新しい表現に近づけるか、それが求められた。これってすごくハードル高い。

持ってるものだけでも新しい表現は出来ます。今まで気付かなかった組み合わせをするだけで、それは誕生する。
人間の体を構成する物質は実はそれほど多くはないけれど、その組み合わせ、並べ方がちょっと違うだけで、全然違うものが出来上がる。体毛と爪、どちらも主にタンパク質で構成されているのに、全然違う。そして小説だって同じだと俺は思う。ちょっとした配列の変化が、劇的に違う表現を生み出せると思う。

今回それが出来たかはわからないけれど、MUKURO外伝と完結篇で出来るだけ新しい表現を生み出せれば、と思う。新しい配列を見つけられたらな、と。

地道に語彙を蓄えていくことが重要なのはもちろんだけど(笑)


←応援してくれる人はclick!!
[ TB*0 | CO*0 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ