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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/11/20(土)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(32)
 その白い建物は不意に彼らの視界に入ってきた。未来は思わず声をあげる。目的の病院がもう目の前だったからだ。
 将平も未来に調子を合わせて笑顔を見せたが、本心は複雑だった。外見から判断した病院の様子では、人の気配は一切感じられないのだ。ここに医者がいるかもしれないというのは、あくまで幻想に過ぎない可能性を、彼は覚悟した。怪我をした腕は相変わらずひどく痛む。止血はしているが、衣類は赤く染まっていた。
 骸は人より先に化け物の気配を探っていた。今のところ不穏な動きは感じられない。後ろを付いてくる灰色猿を除いて、何もいないように思えた。それと同時に彼も将平と同様に近くに人の気配を感じることは出来なかった。病院内には誰もいない可能性が濃厚そうだ。
 そんな2人の気持ちを知らない未来は急いで病院の玄関に駆けて行った。電気が通じていないのか、エントランスは薄暗い。あるいは誰もいないのかもしれないが、その可能性を認めたくなかった。彼女はゆっくりと中に入る。それに骸と将平が続いた。
「誰か」未来は声をあげた。「誰かいませんか?」
 彼女を迎えるのは、沈黙。どこからも応答はない。
「すみません! 誰かいないんですか!」
 必死さを滲ませた未来の声が虚しく院内を響き渡り、やがてもとの沈黙(しじま)に吸い込まれる。この病院は無人のようだった。
「誰もいないようだな」
 骸の言葉に、未来は素直に肯(うなず)くことが出来ず、彼女はさらに建物の奥の方へと駆け出した。これだけ大きい病院だ。声が届いていないだけかもしれない。街は化け物がうろつく魔界なのだから、どこかに隠れている可能性だってある。まだ諦められない。――きっと、きっと!
「アンタの言うとおり、誰もいないみたいだ」
 覚悟していただけあって、将平は諦めの混じった声で言った。未来のように必死になれるだけの元気もなかった。怪我は確実に彼の心身を蝕んでいた。諦観ゆえの冷静さだった。
「これからどうする?」
 骸の問いに、将平はすぐに答えることが出来なかった。出血が続けば、自分はいずれ動けなくなるだろう。そして、そうなれば2人の足手まといになる。「さて、どうしたものかな」
 そこで将平は、2人のもとに戻ってきた未来の姿に気付いた。彼女は1人で、やはり誰もいなかったようだ。
「それは嬢ちゃんに決めてもらおうか」
 骸に異論はない。静かに肯く。

 そのとき、彼女の背後にある影が現れた。




<作者のことば>
今まで使ってこなかったような単語(ワード)や言い回しを地味に使っているのだけど、それに気付けるのは自分くらい。それくらいのさりげなさでいい。地味に表現の幅を拡げていければそれでいい。

次回ついにアレがアレしてコレがコレで。スリル満載の展開になるかもしれないっす。
あくまで仮定の話だけど。


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