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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/11/12(金)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(28)
 ナイフの刃が頬に押しつけられていた。その冷たい刃はあっさりと未来の皮膚を切り裂き、血を溢れさせてしまいそうだった。
 彼女は恐怖で動けなくなっていた。頬を切られたところで死ぬことはない。そう思っていても、躰が強張って動けない。わずかに震えてもいた。
 あれだけの化け物を相手にして生き延びてきたっていうのに、たったひとりの人間がこんなに怖いなんて。未来は自嘲する。たったひとつの鉄の刃が今は何よりも怖い。
「動くなよ」
 男の低い声が耳に届いた。
 食料の入ったリュックを取り上げられてしまった。未来は一瞬そう思ったが、だがリュックひとつ分の食料が一体なんだというのだろう? 食料なんてまた探せばいいだけのことだ。だけど命は他に代えられない。おとなしくしていよう。おとなしく、食料を渡せばいいだけのことだ。
 未来は男の視線を感じていた。それは躰を見定めるようで、体中を舐めまわすかのようで、気持ちが悪かった。思い出したくもないのに、西田のことが脳裏をよぎった。食料を手放すのは惜しくないが、体まで奪われるのはいやだった。それだけはなんとしても避けたかった。彼女は震える唇を噛み締めた。
「何をしている」
 未来にとって聞き馴染みのある声。それは骸のものだった。彼女は思わず振り向く。男は、見知らぬ人間の不意の登場に驚いている様子で、未来が動いたことなど気付きもしなかった。
「何をしている、と訊いているのだが」
 骸が一歩進み、男に近付いた。骸が躰から発する異様なオーラ。男は恐怖のあまり、一瞬息が止まるかと思った。だが、思いついたように未来を抱き寄せ、彼女の喉元にナイフを当てた。「こっちに来るんじゃねえ!」
 それに対して骸の反応は早かった。目にも止まらぬ速度で一気に距離を詰め、男のナイフを持った腕を掴んだ。そしてあっけないほど簡単に男はナイフを放し、それは地面に落ちた。
「いてぇ! 放してくれ!」
 骸は力を抜いて、男の腕を放した。
正直、男には力というものがまるでなかった。凶器(ナイフ)さえなければ、未来でさえ打ち倒せるかもしれない。男は明らかに空腹で、そのため力で出せていなかった。
「次は、容赦はしない」
 脱力したのか、男はその場に座り込んでしまった。
「あなた、名前は?」と未来が尋ねてみた。
「将平。伊田 将平」
「お腹空いてるんでしょ? なにか食べる?」
 将平は信じられない、といった様子で未来を見つめた。未来が食べ物を差し出すと、それを無我夢中になって食べた。
 彼の話を信じるならば、本当に何日も何も食べていないらしかった。水も飲んでおらず、彼がほとんど汗をかいていないのもそのせいなのだろうと未来は思った。将平はこの街に化け物が現れて以来、ずっと隠れていたらしい。その間は何も食べ物はなく、それでも死にたくない一心で隠れ続けていた。だが、ついに化け物に対しての恐怖心より飢えが勝(まさ)った。そして、食べ物を求めて街を彷徨っていたところに未来が現れたらしかった。
「もうわたしにナイフを向けないでよね」
 そう言って、未来は将平にナイフを渡した。
「……どうして?」
「そのナイフがあれば、気休め程度にはなると思うから。化け物どもに通用するとは思えないけど、それでも活路を開くくらいはできるかもしれないじゃない?」
 ごめんなさい、将平の口からそんな言葉が漏れた気がしたが、それは嗚咽に混じってきちんとした声にはなっていなかった。



<作者のことば>
あれ? 未来のキャラクター変わった?
いや、これはきっと休載のブランクのせいではなく、彼女が成長したからだろう。うん。きっとそうだ。ははは。

それより最終話までカウントダウン始まった気がする。

休載してたからもう少し延ばそうと思ったんだけど、結構キツイと判明した。
その分、地獄篇の続編に力入れるから外伝はそろそろ終わらせてもいいですよね…?

あと相変わらず骸のキャラが掴めてない作者です。ほぼ作者失格です。


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