MUKURO外伝(27)
白い塊。蠕動する蛆虫に似たそれは骨刀によっていとも容易く切り裂かれた。
だがしかし、巨大な蛆虫は2つに切断されてもなお動き続けている。ダメージの有無は窺えず、むしろ数が増えただけという印象も否定できない。
階段から新たな蛆虫が這い上がってきているのが視界に入り、骸はそれを蹴り飛ばした。ぶにぶにとしたそれは階段を転げ落ちたあと、またゆっくりと動き出す。敵の数はどれほどだろうか? とっさにそう思うが、考えるだけ無駄だと判断して骸は再び骨刀を奔らせた。
2つに分かれた蛆虫の片方がさらに2つに分かれ、階段から蹴落とした以外に3匹の白い化け物が骸の前を這っている。
不意にぐにゃりとした感触が足の裏であった。
骸が注意をそちらに向けると手のひら大の小さな――それでも充分に大きいが――蛆虫を踏みつけていることに気が付く。ぼとり。何かが落ちてきた。骸の腕に白い塊が蠕動し、這い進んでいる。
ぞわぞわとした気配に気付いて、骸はとっさに見上げた。天井にはびっしりと大量の蛆虫が張り付いているではないか! それが次々と骸の躰に降り注ぐ。
「未来、逃げろ!」
彼は叫んだ。それを聞いて未来は一気に駆け出した。階段を駆け降りると骸が蹴落とした蛆虫が蠢いているのが見えたが、幸いに敵の動きは鈍い。未来は全速力で走った。
雑居ビルを脱け出ると同時に彼女は何かとぶつかってよろめいた。なんとか体勢を立て直して、目の前を見る。そこにいるのは男だった。見た目はかなり若く、目深(まぶか)にキャップを被っている。無精ひげが伸びていた。
「あんた、だれ?」
男は生気のない声で言った。
未来は男にどう説明したらいいのかわからなかった。とにかく逃げなくてはならない。だが、説明している時間はなかった。
振り返ってみると蛆虫がのっそりと這いながらだが、未来を追ってきているのが見えた。その様子は男にも見えたに違いない。2人は一瞬の暗黙の了解で走り出した。
息を切らしながら2人は路地裏に座り込んだ。周りにどの化け物の姿もない。とりあえずは安全なところまで逃げられたようだった。
「どうにか逃げ切ったようだな」
そう言う男の声は妙に弱々しい。見てみると顔色が悪いようだった。それにあれだけ走ったというのに、ほとんど汗もかいていない。
「大丈夫?」
背負っていたリュックからミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、未来は男に手渡した。
男は手にしたペットボトルのキャップを開けて、ゴクゴクと中の水を飲み干していった。よほど喉が渇いていたのか、その姿はどこか鬼気迫るものがある。
リュックの中には所々で手に入れてきた食料の類いが詰め込まれていた。未来はその中から今すぐ簡単に食べられそうなものを探す。男は憔悴しているようで、もしかしたら何日も食べておらず、飢えているのかもしれないと思ったからだ。
そのとき、未来の頬に冷たいものが当たった。
冷たく、鋭いそれは彼女が少しでも動こうものならすぐさまその頬を切り裂いてしまいそうであった。男は右手に持ったナイフを未来に突きつけたまま、彼女からリュックを取り上げる。
「悪いな」
男は確かに飢えていた。それは理性を失ってしまうほどに。
だがしかし、巨大な蛆虫は2つに切断されてもなお動き続けている。ダメージの有無は窺えず、むしろ数が増えただけという印象も否定できない。
階段から新たな蛆虫が這い上がってきているのが視界に入り、骸はそれを蹴り飛ばした。ぶにぶにとしたそれは階段を転げ落ちたあと、またゆっくりと動き出す。敵の数はどれほどだろうか? とっさにそう思うが、考えるだけ無駄だと判断して骸は再び骨刀を奔らせた。
2つに分かれた蛆虫の片方がさらに2つに分かれ、階段から蹴落とした以外に3匹の白い化け物が骸の前を這っている。
不意にぐにゃりとした感触が足の裏であった。
骸が注意をそちらに向けると手のひら大の小さな――それでも充分に大きいが――蛆虫を踏みつけていることに気が付く。ぼとり。何かが落ちてきた。骸の腕に白い塊が蠕動し、這い進んでいる。
ぞわぞわとした気配に気付いて、骸はとっさに見上げた。天井にはびっしりと大量の蛆虫が張り付いているではないか! それが次々と骸の躰に降り注ぐ。
「未来、逃げろ!」
彼は叫んだ。それを聞いて未来は一気に駆け出した。階段を駆け降りると骸が蹴落とした蛆虫が蠢いているのが見えたが、幸いに敵の動きは鈍い。未来は全速力で走った。
雑居ビルを脱け出ると同時に彼女は何かとぶつかってよろめいた。なんとか体勢を立て直して、目の前を見る。そこにいるのは男だった。見た目はかなり若く、目深(まぶか)にキャップを被っている。無精ひげが伸びていた。
「あんた、だれ?」
男は生気のない声で言った。
未来は男にどう説明したらいいのかわからなかった。とにかく逃げなくてはならない。だが、説明している時間はなかった。
振り返ってみると蛆虫がのっそりと這いながらだが、未来を追ってきているのが見えた。その様子は男にも見えたに違いない。2人は一瞬の暗黙の了解で走り出した。
息を切らしながら2人は路地裏に座り込んだ。周りにどの化け物の姿もない。とりあえずは安全なところまで逃げられたようだった。
「どうにか逃げ切ったようだな」
そう言う男の声は妙に弱々しい。見てみると顔色が悪いようだった。それにあれだけ走ったというのに、ほとんど汗もかいていない。
「大丈夫?」
背負っていたリュックからミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、未来は男に手渡した。
男は手にしたペットボトルのキャップを開けて、ゴクゴクと中の水を飲み干していった。よほど喉が渇いていたのか、その姿はどこか鬼気迫るものがある。
リュックの中には所々で手に入れてきた食料の類いが詰め込まれていた。未来はその中から今すぐ簡単に食べられそうなものを探す。男は憔悴しているようで、もしかしたら何日も食べておらず、飢えているのかもしれないと思ったからだ。
そのとき、未来の頬に冷たいものが当たった。
冷たく、鋭いそれは彼女が少しでも動こうものならすぐさまその頬を切り裂いてしまいそうであった。男は右手に持ったナイフを未来に突きつけたまま、彼女からリュックを取り上げる。
「悪いな」
男は確かに飢えていた。それは理性を失ってしまうほどに。
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