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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/07/21(月)   CATEGORY: 雨の日のうた
雨の日のうた(12)
 電話から1時間もしないうちに哲郎さんの愛車であるカーキ色をしたトヨタ・ランドクルーザーが家の前まで来て、停まった。このすこし古い型のランクルは、哲郎さんが友達にタダ同然で譲り受けた中古車だった。だからこそ哲郎さんは愛車ヨンフォアをこれまたタダで、俺に譲ってくれたわけだ。
 俺は可南子と一緒に玄関まで行った。そして待っていてくれた哲郎さんのランクルに可南子を押し込めてから、俺が乗った。前の持ち主に塗装されたカーキのランクルは走り出して、可南子の住む部屋があるアパートへと向かった。
「ほんと、ありがとうございます」
 自分が送ってもらっていることに可南子が礼を言うと哲郎さんは「気にしなくていいから」と答えた。ついでに「それより龍次をよろしくね」とも言った。
 雨の中を30分くらい走っていると可南子の住むアパートが見えてきた。俺は可南子を見る。同時に可南子もこっちを見たせいでふたりの目が合った。すると可南子は、ふふふ、と笑い「大丈夫だから」と言った。何が大丈夫なのかはわからないけれど、可南子が大丈夫と言うならそうなんだろう。
「つよいな」
 俺がそう言うと可南子は目をまるくした。
「え? そんなことないよ」
「いや、つよいよ」
「だって今日だっていっぱい泣いちゃったし、龍次がいてくれなかったらもうどうしようもなくてもっと大変だったよ」
 俺は微笑んだ。やっぱり可南子はつよい。俺なんかよりも全然。そう思ったとき哲郎さんの声が聞こえてきた。「着いたよ」。車の外を見るともう可南子のアパートの前だった。
「ありがとうございました」
可南子は哲郎さんに礼を言って車を降りた。
「じゃあね。また連絡するから」
 その言葉を聞いて、俺は頷いた。
 可南子は雨に打たれぬように急いでアパートへ駆け寄り、自分の部屋へと向かった。
「これからどうする?」
 哲郎さんの声を聞いても俺は答えなかった。
「俺の部屋に来るか? コーヒーくらいは出すぞ?」
 俺は何も言わずに頷いた。それを見た哲郎さんはアクセルを踏んで車を出した。俺はまたしても窓の外を見たけれど、雨はまだ降りやみそうになかった。

+++

 次の日、可南子の母さんの通夜が行われた。
 通夜のときに見た可南子の母方の祖父母は、可南子とすこしだけ似ていた。そのとき可南子は母さん似だったのかな、なんて考えたりした。
 通夜の参列者はみんな悲しそうだったり泣いたりしていた。まあ、当たり前っていえば当たり前なんだけど。俺は可南子の姿を探した。俺が見つけたときの可南子はまったく涙なんて見せていなかった。それが母親の死を悲しんでいない娘の姿ではないことはわかる。きっと母親を気丈な姿で見送りたいのだろう。泣くならもう充分泣いた。可南子が自分の心にそう言いつけているのが聞こえてくるようだった。
 俺は可南子の母さんの遺影を見つめた。その遺影の人物は可南子によく似ていた。すこし幼さが残っているけれど、とても美人な女性だった。可南子の童顔は母親譲りということか。俺はこんなカタチで可南子の母さんと初めての顔合わせになってしまったことを残念に思った。
 俺はあることに気付いた。気丈に振舞っている可南子の瞳が涙でうるみ始めているのだ。やはり自分の母親の死だ、そう簡単には受け入れられないなんて当たり前じゃないか。

+++

俺は通夜の途中で帰った。来るときはタクシーに乗ってきていたが、俺は歩いて帰ることにした。もう長いこと歩いているけれど、家まではまだまだ距離がある。
なぜ通夜の途中で帰ることにしたかというと、俺はあの場にふさわしくないような気がしたからだ。周りの参列者はひとりの女性も死に、みな悲しんでいたことだろうと思う。でも俺は違った。会ったこともないひとりの人間のために悲しい気持ちにはなれなかった。だから俺はあの場にいるべきではなかったのだと思う。どうせ可南子は通夜の後片付けなどに追われて、俺とゆっくりしていることはできなかっただろう。自分があの場から退いて正解だったと思う。

 俺が歩いているとスクーターが近付いてくる音がした。俺は振り向いて見てみると、そこにはヤマハ・VOXに乗る義之がいた。
「歩いてどこ行くの?」と義之が訊いてきた。
「帰宅途中だよ」
 義之はすこし驚いた表情だ。
「ここから?」信じられずに確認をとる義之。
「そうだよ。歩いて帰れなくもないだろ?」
「まあ、時間を気にしなければ、ね」
 それより俺はひとつ気になることがあった。
「免許、取ったのか?」
「うん。やっとだけどね」
 続けて義之は俺に文句を言ってきた。またか、と俺は思う。実は義之には昔俺が乗っていたスクーター、ディオを譲るという約束をしていたのだ。免許を取ったらという条件付きで。でもなかな免許を取らない義之クンを待ち疲れてしまい、結局はスクーターを欲しがってたケンに安値で売ってしまっていた。それを義之はずーっと根に持ってるようだ。たしか可南子にもこのことを言っていたような気がする。
「でもVOXの方がお前に似合うよ」
 義之はにやっと笑った。
「僕もそう思う」
 だったらもう根に持つのやめろよ! なんて思ったけれど、それとこれとは別問題らしい。本当、わずらわしいやつだ。
「家に帰るんでしょ? 送ろうか?」
 俺はすこしだけ悩んだ。たしかにこのまま歩いて行くとしたら家に着くのは何時頃になるんだろうな。
「ヘルメットはないけど」
 義之はにやりとした。
「それに原付のタンデムは違反だけど」
 ハッ。タンデムなんてカッコつけて言いやがって。つまりは2人乗りのこと。
 俺もにやりとしてホワイトのVOXにまたがった。
「Let’s go!」


<作者のことば>
本当は1話分の量はあまり多くしたくないのだけれど、早く終わらせて、次にいきたいという気持ちもあるので、これからは少し多めでいこうと思います。

だけど、そんなに長くする気もないので。

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