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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/08/24(火)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(22)
 弘之は連れ去られてしまった。あの異形の者によって。巨大な化け物の一部である者によって。かつては人だったであろう者によって。弘之は連れ去られてしまった。
 彼は、笑っていた。満身創痍の躰で立ち上がることすら困難だったはずなのに、渾身の力で自分を守るために立ち上がり、そして代わりに連れて行かれてしまった。あの、かつては人だったであろう亡者に、攫(さら)われてしまった。
 未来は悲しくなかった。辛いとも感じなかった。感情が全て麻痺していて、何も感じることが出来なかった。ただ呆然と立ちすくんでいた。彼女を包むその感情は、絶望と呼ぶにふさわしいのかもしれない。無こそが絶望。何も無い。何も感じることが出来ない。思考は停止して、このときの彼女は意思を持っていなかった。まさに絶望。彼女の姿を、それ以外に形容できそうにない。
 無数の有機的な槍に貫かれていた骸は無理に躰を捩じらせ、巨鯨から逃れた。その際に肉体は引きちぎられ、身体はボロボロだった。槍に貫かれた穴が体中に出来ていて、それから無理に逃れたので、その姿は凄惨たるものであった。
 当然のことながら、普通の人間なら死んでいる。肉体が人の姿を保っているのが不思議なほどに、その躰はズタズタなのである。だが、骸は人ではない。彼はまだ動けた。そして、かなりのエネルギーを消費するものの躰の傷は修復できるはずだった。彼は自分の躰を心配するより先に、とにかくこの場を離れなければならないと思った。
 空中に浮かぶ、巨大な物体。それは空飛ぶ地獄のようであり、魔界の宮殿のようでもあった。巨鯨は、骸が相手をするにはあまりに強大過ぎた。彼は、自分の敵が手に負えないことを理解していた。とにかく、この場を離れなければならない。
 骸は自身の躰を修復するより先に疾駆(はし)った。黒き疾風となり、未来を抱き上げて駆け抜けた。彼女はあっという間の出来事に何の反応も示せず、気付いたときには屋内に戻っていた。骸が彼女を地面に降ろす。
「どうして…」
 やっとのことで未来は口を開いた。
「どうして弘之を助けてくれなかったの!?」
 悲鳴に似た叫びだった。弘之のことが、骸のせいではないとわかっていても彼を責めずにはいられなかった。それにいくら訴えても、弘之は帰ってこない。
「――あの状況では俺に助けることが出来なかった」
「どうして!? あなたの力があれば助けることが出来たでしょ!?」
 骸は何も答えなかった。
「どうして…。どうして弘之があんな化け物に捕まらなきゃならなかったの? なんでわたしなんか助けたのよ、バカ……」巨鯨の一部となりながら苦しみに叫んでいた人々を思い出してから、あの地獄に囚われた弘之の姿を想像する。「これからわたしはどうしたらいいの…?」
 彼女の頬を涙が伝った。
「生きろ」
 ただ一言の、骸の言葉。
「どうやって? こんな地獄みたいな世界で! この魔界じみた世界で! どうやってわたしは生き延びればいいっていうの!? 弘之があんなことになったっていうのに!」
「生きろ」それがお前の義務であり、使命だとでも言うような口振りだった。「お前のことは俺が護る」
「でも、弘之のことは護れなかったじゃない……」
 嗚咽混じりの声だった。
「それでも、俺はお前を護る。俺のこの存在に懸けても」
 しばしの間が空いた。
 少しだけ冷静になった未来は、まっすぐ骸に向き合った。
「どうしてわたしのことを護るの?」
「それが、俺の存在する理由だからだ。俺はお前を護るために存在している」
 未来には、彼の言葉の意味がよくわからなかった。当然のことながら彼女には、骸にとって人類は護るべき存在であり、彼はそのために存在しているということはわかりようがなかった。――そして今の骸にとって、護るべき人間は目の前にいる未来だった。
「行こう」
「どこに?」とは尋ねなかった。明確な行くあてなどないように感じたからだ。
 だが、そっけない言い方ではあったが、ここに長居するのは確かに得策ではないように思えた。未来は思う。弘之が助けてくれたこの命、わたしは必死に護っていこう。そのためにこの男の力を借りなくてはならない。
 行く先がどこであれ、わたしは生きる。
 未来は強く思った。
 弘之、わたしは生きるよ。絶対に生き延びてみせるから。助けてくれたこの命を無駄になんかしないから。
「ええ、行きましょう」
 その声には、どこか力強さが宿っていた。




<作者のことば>
特に人間の成長を描こうという気持ちがあるわけではなのに、未来は強く成長したと思う。
どうも困難を乗り越えるたびに、あるいは困難に立ち向かうために、人は強くなることがあるようだ。

実はこのデパート編のあとに、そろそろ最終戦に移ろうかと思っていたのだけれど、せっかく未来が成長したので、もう少し書いてみようという気になっている。(ただ今後のストーリーが浮かばない…)
そして未だに骸のキャラクターがわかっていないのだけれど(笑)、今回少しだけそれが見えてきたように思う。地獄篇の続編では、今までより骸の立ち位置を把握しながら書けると思う。

ちなみに、お気付きかどうかはわからないが、外伝では「魔界」という言葉が頻繁に登場する。
地獄篇に対して、外伝のイメージは「魔界」なのである(「地獄」って言葉も多用しているが)。

さりげなく作品一覧のMUKURO外伝のところでは、魔界篇と修正してます(笑)

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