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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/08/20(金)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(20)
 何の前触れもなく、大きな影が彼らを包んだ。陽の光は遮られ、辺りは薄暗くなっている。何かが聴こえた――
 ふと空を見上げるとそこには巨大なものが浮いている。あまりに巨大で、それが何なのかすらわからない。
 オオオオオオオオオオウウウウウウ――
 低い、呻き声のようなもの。それが複数辺りにこだましている。
「――なに?」
 続いて、人の悲鳴が聴こえた。苦しみ悶える叫びが響き渡った。男女どちらのものもある。それらは宙に浮かぶ巨大なものから発せられているようだった。よく見ると、その巨大な物体の表面で何かが蠢いている。――それは人だった。未来は、地獄を覗いたような気がした。
 そして巨大なそれは途方もないほど大きな鯨だと彼女は理解した。宙を自在に泳ぐ魚がいたのだから鯨もいておかしくはないのだが、おぞましいのはその外観だ。鯨の頭にはいくつもの大きな眼がついていて、常にギョロギョロとあたりを見回している。その数は数え切れそうもない。さらに恐ろしいのは、その外皮に溶け込むようにくっついた、人の躰である。腕、脚、顔。それらが鯨の躰から生えるようにくっついている。上半身だけの者もいればその逆も、あるいは右半身だけ見えている者もいる。先ほどからの悲鳴、叫びは彼らのものだった。
 それは、地獄が宙を彷徨っているかのような光景だった。
 どうしてそうなったのかはわからない。だが、巨鯨に取り込まれてしまっている人間たちは誰もがそこから逃れようともがいていた。彼らにどのような苦しみがあるのか、未来にはわからない。果たして彼らは痛いのだろうか、一体化した四肢に感覚はあるのだろうか。何もかもが想像するには、超越していた。想像を遥かに超えている。あるのは恐怖だけ。圧倒的な恐怖しか感じられない。未来は呼吸をするのを忘れていた。否、あまりの恐ろしさ、おぞましさにうまく息が出来ないでいる。
 ギョロリと、巨鯨についた目玉のひとつのその焦点が未来たちに合うのがわかった。巨鯨の野太い鳴き声が大気を震動させる。その外皮で蠢いていたいくつかの腕が動きを止めた。そして――
 その腕がぐわっと勢いよく伸び出した!
 腕はどんどんと伸び続け、地上を目指している。それは明らかに未来たちに向けられたものだった。未来は頭の中が一瞬で真っ白になり、どうしたらいいかわからないでいる。逃げなければ――という思い、そして、弘之を連れ出さなければ――という思い。しかし、向かってくる腕の速度は尋常ではない。とてもじゃないが弘之を連れて逃げるなどと悠長なことは言ってられそうになかった。だからといって置いて逃げる気にもなれない。
 腕は矢の如く、まさに飛ぶ勢いで一直線に進んでいる。
 それに反応したのは放心状態だった西田である。彼は急に正気に戻ったのか、奇声をあげながら走り出した。一目散に逃げ出した。
 それを見てあっけに取られた未来は、逃げる西田を見送るしか出来なかった。
 そんな彼女の横を腕が勢いよく通り過ぎていく――
 西田が伸びる腕に捕まった。まずは腕を掴まれ、続く腕には脚を掴まれた。彼はもがき、抵抗するもその腕が離れる様子はない。それどころが強烈な力でズルズルと引きずられている。――西田が、泣き叫んだ。
 だがしかし、化け物は容赦ない。巨鯨の躰から放たれた幾本もの腕が、圧倒的な力で彼を押さえつけ攫っていく。
 宙に引っ張られていく西田と目が合った。助けを求めるかのような眼差し。耐えられず未来は彼から目を背けた。




<作者のことば>
長くて10話くらいかな、と思っていたら20話超えた。
まさか30話はいかないだろうな…と怖々している。いや、悪くはないのだが。

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