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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/08/18(水)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(19)
 デパートの屋上で、高儀 未来は意識を失って倒れた佐々木 弘之を揺さぶっていた。だが、いくら揺すっても目は覚めない。このまま死んでしまうのではないだろうか――そんな思いが心をかすめた。
 弘之の腹には穴が穿たれており、そこから血がとめどなく流れている。その傷はイノシシの化け物にやられたものだった。巨大な角のような牙が彼の腹をえぐったのだ。
 これほどの血が流れていれば、いつ失血死していてもおかしくはない。
 未来は弘之の鼓動がまだ動いているのを確かめて、「死なないで」と何度も叫んだ。涙がとまらない。彼の呼吸は浅かった。未来にはどうすることも出来ず、ただ腹の傷を両手で押さえるくらいだ。
 無我夢中で逃げていた結果、辿り着いたのがここである。何もない屋上。これ以上どこに逃げることも出来ず、だからといって戻ることも出来ない。建物の中はもはや化け物の巣窟と化しているからだ。
 彼女は、途方に暮れた。
 あの骸という男、ここまで助けに来てくれるだろうか。あの男、どういった人間かはわからないが只者ではないことは感じていた。なんともいえない異様な雰囲気が男を包み込んでいた。しかし、邪悪な感じはしない。およそ感情というものが認められない雰囲気はあったが、なのにどこか優しさを感じた気がする。実に不思議だった。肌は蝋細工のように白かった。髪は闇に紛れるような黒さだった。妖しげなオーラを纏い、骨のような剣を操っていた。――そもそも人間なのだろうか? だが、あの化け物の仲間とも思えない。
 弘之の血はまだ流れ出続けている。
 早く手当をしなければならなかった。そのためには、どうにかここから離れなければならない。でもどうやって? 来るなら早く来て欲しい。お願い助けて。――未来は、気付けば見ず知らずの男を頼っていた。
 誰かが屋上にあがってきた気配がして、未来は躰を硬直させた。あの男だろうか? それとも――化け物なのか? 彼女は恐るおそる、ゆっくりと振り向いた。そして、そこに居るのが一人の男だと知った。
 ――それは西田だった。
 先ほど未来を襲い、辱めようとした西田はなぜか全裸だった。確かに下半身は脱いでいたかもしれないが、どうして上半身まで脱いでいるのかわからない。だが、全裸なのだ。
 彼は呆けた表情で、ただ立っていた。その視線はどこに向いているのかわからない。何かを見つめているようにも、何も見ていないようにも見える。その状態で、よくぞ化け物に捕まらずここまで来たと思う。彼は廃人と化してしまっていた。
 意味もなく口をぱくつかせながら呆然と立っているだけの西田に、未来はどうしたらいいのかわからずにいた。正直、近付くのは怖い。だけれど、このまま放っておいてもいいものなのだろうか。
 ――出来れば、勝手にどこかへいなくなって欲しい。
 未来がそう願っても、西田は依然としてそこに立っているままだった。ここまでは自分で歩いて来られたというのに、どうしてそこで立ち止まっているのだろうか。わけがわからない。
 そのとき、弘之がわずかに呻いた。
「弘之っ!?」
「うぅ……ぁ………」
 少しの間を空けて、弘之はゆっくりとまぶたをあげた。
「……み、らい………」
「しっかりしてよ!」
「ん、あぁ、大丈夫だよ……」
 大丈夫なはずなかった。彼の傷口からはまだ血が溢れている。
「未来、お前に怪我はないか?」
「うん、大丈夫」
「そうか」弘之がわずかに微笑んだ。「よかった」
 もっと何か言ってあげたい。でも何を言えばいいのかわからず、未来は何も言えない。弘之は着実に死に向かっているのがわかる。そんな彼を前にして、自分は何を言えばいいのか……。
「あああうううううう」
 突然の声に二人はびっくりする。それは西田のものだった。
 急にどうしたというのだろう。先ほどまでは何にも反応せず、興味を示さずといった様相だったのに、今は何かに声をあげている。
 そのときだった――
 突然、大きな影が彼らを包み込んだ。




<作者のことば>
そろそろ次回の展開に悩み始めてきました。


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