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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/08/14(土)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(17)
 黒い触手がいくつも連なって出来たイノシシの首の内部から、ぼこんと白いものが現れた。――なんと人の顔である!
 青白いそれは生気をまとっておらず、まるで死人のものだった。表情はわずかに哀しんでいるようにも見える。だが、角度を変えれば怒っているようにも見えたし、笑っているようにも見えた。基本的には無表情に近い。
 ぼこん。
 また顔が生まれた。今度は泣いているような顔だ。
 ぼこん。
 また生まれた。
 ぼこん、ぼこん。
 イノシシの首から次々と死者の顔が現れる。
 それは、まるでその体内が冥界へと繋がっているように思わせた。
 ぼこん。
 青白い、顔、顔顔、顔。
 異様な姿だった。それまでも充分に異様であったが、それにも増して異様だ。まさに異形。冥界の化け物。醜い獣の姿がそこにはあった。
 一気に間合いを詰めて、骸の骨刀がイノシシの後ろ足を両断する。
 脚が飛んだ。
 血飛沫が上がるかと思えば、血の代わりに流れ出たのは黒き触手である。それが束になって、失われた脚の代わりの役目を果たした。
 突如、悲鳴が轟いた。
 見てみるとイノシシの首から現れた死者の面が甲高(かんだか)い声で叫んでいる。
 血の涙を流していた。
 おおーーん。
 今度は野太い嘆き声である。
 おおーーん。
 両眼から血を流して、泣いている。
 長い首の先についたイノシシの頭が骸に向いた。何もない双眸が、彼を睨めつける。
 口からは無数の白き腕が吐き出されている。
 その手は彼を呼んでいるかのようだった。
 ――こっちに来い。
 骸を冥界へと誘っている。そんな雰囲気だ。
 だが、骸は自分が立っている世界が死後の世界であることを知っていた。本能的に、悟っていた。ここは肉体を喪失(うしな)った魂と精神が訪れる世界。いずれ与えられる次なる肉体を待つ間に過ごす場所。ある意味では、ここが冥界なのである。
 では、あのイノシシの体内が孕んでいる空間とは何なのか――?
 それはおそらく、化け物の世界なのだろうと思う。
 少なくとも骸はそう理解した。
 確かに自分は、人間よりは化け物に近い存在である。魂を持たない、人間でいえば精神エネルギーだけで創られた存在。様々な念が凝り固まって生まれたのが化け物たちであり、骸と同じ、いわばエネルギーの集合体なのである。
 あの泣いている死者もまた何らかの思念がカタチを成したものなのであろうか?
 あるいは、化け物に捕らえられてしまった人間の魂なのかもしれない。
 化け物は魂を欲している。
 自分たちが持っていない、魂という生物にとってのコアを、常に欲している。
 無いものを手に入れたいのだ。
 だから化け物は人間を喰らう。
 そして悲鳴を聴きたいのであった。
 化け物どもは恐怖を欲していた。悲しみを欲していた。怒りを欲していた。それらは自分たちの糧となる。様々な念が化け物を生み出したのであれば、様々な念が化け物たちの糧となる。念とは、感情のことだ。強い感情。
 恐怖がそれだ。悲哀がそれだ。憤怒がそれだ。快楽がそれだ。そして欲望がそれだった。
 人間よ、怖れ、慄き、泣き叫び、理不尽な境遇に怒れ。最期を悟って快楽に、己の欲望に溺れ好き放題すればいい。――それごと喰らってやろう。それごと喰らってやる。
 それが化け物どもの本能だった。
 青白い腕がこっちに来いと手招きしている。
 だが、しかし、自分の本能は化け物たちのそれとは違う。それだけは明瞭(はっきり)と理解していた。欲望が凝り固まった存在では、ない。ならば何なのかと問われてしまえば困るのだが、それでも自分はもっと別次元の存在なのだろうと思う。
 もし神がいるのならば、その遣いなのかもしれない。化け物どもから人間を守るために、神が遣わしたのが自分なのだろうか。
 あるいは神の気紛れか。一方的に人間が狩られていくのではつまらないと、ゲーム感覚で一石を投じたのが自分なのかもしれない。
 ただ、そんなことはどうでもいい。
 自分がすべきことはわかっている。
 それだけがわかっていれば他はいらない。
 どのような経緯から己が誕生したのかは知らないが、自分はただ化け物どもを狩るのみである。人間たちを守るだけである。
 骨刀の切っ先が鋭く空気を切り裂いて奔った。
 いくつかの死者の面ごと、イノシシの首が両断される。
 イノシシの頭が再び地に落ちた。




<作者のことば>
短い文章で改行する。自分がその方法を多用しているのは読んでもらえばわかると思う。
以前、僕がとても大好きなWEB作家仲間(残念ながら今は書かれていないようだ)にブログの場合は「改行」を多用した方が読みやすいとの指摘を受けた。

確かに、普段小説を読む人にとって横書きの小説というものは不慣れで、改行した方が読みやすい。

だが、現在辿り着いたスタイルはそのアドバイスと関係はない。
あまりに短い文章、あるいは1つか2つの単語での改行は、その人のアドバイスとはまた違った手法である。

これは、夢枕獏の小説の影響だ。

夢枕獏(本来なら先生と呼ぶべきなのかもしれないが、僕は作家を先生と呼ぶのがどうも苦手だ。しかし敬意は持っている。それだけで充分ではないか? 大事なのは気持ちだ。本人が目の前にいるわけでもないし…つまりは俺はいつでも敬称略)の小説では、非常にこの手法がよく使われている。
ひとつ間違えば、単に言葉を並べただけの稚拙なものになりかねない。だが、俺はこの書き方に非常にインパクトを受けた。

ひとつひとつの言葉が、圧倒的な迫力を持って迫ってくる。

そんな感覚を覚えた。
俺は、凄いと感じたやり方は積極的に取り入れたいと思っている。その先に、いつか自分だけのスタイルが生まれることを願って。

この物語は果たして面白いのだろうか?

自分自身、そう思える面もあり、そう思えない面もある。自分の未熟さは痛いほどわかっている。
だが、誰か一人でも面白いと思ってくれるならば、俺は嬉しい。その一人のために、俺は書き続けたい。

そして書き続けた先には、もっと面白い物語が待っていることを俺は信じたい。


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