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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/08/10(火)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(15)
 逃げる未来たちを横目で確認しながら、骸は<骨刀>を首無しイノシシに向ける。頭を失ったイノシシの胴は、首から上がなくなる以前と変わらないとでもいったように立ち上がった。――そして頭も動いている。穿たれただけの、暗き双眸は何の反応も示さなかったが、確かに口元が動いているのを確認した。
 ――あの頭と胴体は別の生き物として見た方がいいのだろうか。
 剣先を胴体の方に向けたまま、骸は考えていた。頭を完全に潰してしまえば、あるいは胴体も死ぬかもしれない。だが、すでに別個の生命体として活動しているのであれば、頭を潰す行為にあまり意味を見出せなかった。頭は放っておいても現状では何も出来そうにない。問題は胴体の方なのだ。もし頭を潰して胴体が活動を止めなければ無用の隙を与えてしまうことになる。
 ――そして、敵はこいつだけではない。
 頭を正面から縦一文字に斬られた巨大ムカデはまだ生きている。化け物と呼ぶに相応しい回復力で、その頭部が早くも再生を始めていた。2対1では圧倒的に不利である。先手を打って、どちらかを先に潰さねばなるまい。
「手間がかかるな」
 骸は呟き、逃がした2人のことを思った。本当ならば彼らの傍についているべきなのだろうが、今はここでこの化け物たちを喰い止めなければならない。無事に逃げてくれればいいのだが。――そこで彼は不思議に思う。どうして自分は彼らを助けようと思ったのだろうか? 気付いたら躰が動いていた。あれは本能的と呼べるものだったろうと思う。自分の本能が彼らを助けるべきだと叫んでいた。自分が何者かもわからないのに、それだけははっきりと本能が告げていた。不思議だ。さっきまで闘い方すらわからなかったのに、今は手足を動かすかのように、どう闘えばいいのか理解している。この骨の剣だって――彼はそれに<骨刀>と名付けた――気付けば手にしていて、これで闘っていたのだ。
 ――本能。
 おそらくその一言に尽きるではないだろうか。自分が何者なのか、以前として理解しているわけではないが、しかし自分が彼らを守るべき存在であるという確信がどこからともなく湧いてきていた。
 ――それが俺の役目ならば……
「臨むところだ」
 彼は骨刀を強く握り締め、化け物に対峙する。
 首無しイノシシの斬られた断面から黒い触手がウニョウニョと這い出てきた。床に落ちている頭部からも同様のものが生えている。その触手は、まるで血が凝固したような色だ。
 胴体から伸びた触手が、頭部から伸びた触手と触れ合う。それらは結合するかのように複雑に絡みあった。そうして繋がった部分は、巨大なドス黒い筋繊維のようにも見えなくもない。キリンのように長い、触手の首がイノシシの頭を持ち上げた。イノシシの口からも大量の触手が這い出して、それらが脚の役割を果たすように床まで伸び、力強く頭部を支えた。
 もはやその姿は完全なる異形。イノシシらしき原形は見事に喪失(うしな)われていた。
 ――フグォォォオオオオオオ!!
 野太い雄叫びをあげ、化け物は骸に向かい合う。
 守る者と奪う者が対峙する。
 異形を倒さなければ守れないというのならば、俺は闘おう。本能に従って、骸は骨刀を構える。
 本能が、彼らを守れと告げていた。
 本能が、やつらを倒せと教えていた。
 本能が、自分の全てだ。
 他に拠りどころはないのだ。闘うことで、守ることで、自分は自分でいられる。本能に従順であることが、いわば彼のアイデンティティーだった。
 自分はそのように存在している。
 それだけは理解していた。
 全身に力が漲る。
 そして、
 彼は化け物に向かって、跳んだ。



<作者のことば>
なんだかMUKURO外伝っぽくなってきたぞ!!


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