MUKURO外伝(14)
顔面を斬られた巨大ムカデは、もがき苦しむように躰をくねらせ、暴れた。緑色の体液が飛び散る。
骸と名乗った男を前にして、未来は判断に迷っていた。――この男は味方なのだろうか?
腕の皮膚を貫き、そこから骨で出来ているらしい剣を取り出したこの男は、おそらく人間ではない。そのことだけは明白だった。しかし、敵というには違和感がある。なにしろ自分たちを窮地から救ってくれた上に、「逃げろ」と言っているのだ。ならば味方か? 本当に信用していいものだろうか。
だが、今の未来には逃げるほか途(みち)はなかった。弘之に肩を貸して走り出す。骸はそれをただ眺めているだけだった。
急いで出口に向かっていた未来たちだが、その途中で思わぬものと遭遇する。
それは――イノシシのようだった。
イノシシの体躯に、フジツボのようなものがびっしりとついており、そこからピンクの触手がまるでイソギンチャクのように伸び、うねっていた。そして猪の双眸は空である。何もなかった。眼球はなく、穴だけがそこにあった。ただ闇だけが未来たちを見つめていた。
異形のイノシシが突進した。
ふたりは逃げる間もなく、イノシシの牙は弘之の腹部を捉えていた。皮膚は破れ、肉は裂かれ、牙は内臓にまで達している。夥(おびただ)しい量の血がその場に溢れた。
フジツボから伸びたピンクの触手が弘之の体に触れ、傷口に集中する。まるで血を啜っているかのようだった。触手の刺激に弘之は呻いた。
遅れて、未来の悲鳴がこだまする。
次の瞬間、
血が飛沫をあげた。
イノシシの頭がずり落ちる。
骸の剣がイノシシを首から一刀両断したのだ。
しかし躰の触手はまだ動いている。
頭を失っても、生きている。
骸が、
その躰を蹴り飛ばす。
弘之に突き刺さった牙を引き抜いた。
「早く行け」
その言葉が発せられてから数秒後に未来は疾駆する。
弘之は、未来に引きずられるように疾駆(はし)った。
血が溢れる。
ドバドバと、
腹から溢れていた。
――自分は死ぬのだろうか。
弘之は己の死を意識した。
だが、疾駆(はし)っている。
――なぜ?
それは生きるためだ。
本能が、生きたがっているからだ。
死にたくはなかった。
死が、すぐそこまで来ているのがわかる。
死ぬのは、怖い。
生きたかった。
だから疾駆(はし)った。
血を垂れ流しながらも、彼は疾駆(はし)った。
内臓が傷付いている。
痛みは限度を超えて、もはや感覚が正常に機能していなかった。
そんな満身創痍の肉体で、彼は生きようとした。
階段を上り、辿り着いたドアを開ける。
そこは屋上だった。
これ以上、逃げるところはない。
弘之の意識が、そこで途切れた。
骸と名乗った男を前にして、未来は判断に迷っていた。――この男は味方なのだろうか?
腕の皮膚を貫き、そこから骨で出来ているらしい剣を取り出したこの男は、おそらく人間ではない。そのことだけは明白だった。しかし、敵というには違和感がある。なにしろ自分たちを窮地から救ってくれた上に、「逃げろ」と言っているのだ。ならば味方か? 本当に信用していいものだろうか。
だが、今の未来には逃げるほか途(みち)はなかった。弘之に肩を貸して走り出す。骸はそれをただ眺めているだけだった。
急いで出口に向かっていた未来たちだが、その途中で思わぬものと遭遇する。
それは――イノシシのようだった。
イノシシの体躯に、フジツボのようなものがびっしりとついており、そこからピンクの触手がまるでイソギンチャクのように伸び、うねっていた。そして猪の双眸は空である。何もなかった。眼球はなく、穴だけがそこにあった。ただ闇だけが未来たちを見つめていた。
異形のイノシシが突進した。
ふたりは逃げる間もなく、イノシシの牙は弘之の腹部を捉えていた。皮膚は破れ、肉は裂かれ、牙は内臓にまで達している。夥(おびただ)しい量の血がその場に溢れた。
フジツボから伸びたピンクの触手が弘之の体に触れ、傷口に集中する。まるで血を啜っているかのようだった。触手の刺激に弘之は呻いた。
遅れて、未来の悲鳴がこだまする。
次の瞬間、
血が飛沫をあげた。
イノシシの頭がずり落ちる。
骸の剣がイノシシを首から一刀両断したのだ。
しかし躰の触手はまだ動いている。
頭を失っても、生きている。
骸が、
その躰を蹴り飛ばす。
弘之に突き刺さった牙を引き抜いた。
「早く行け」
その言葉が発せられてから数秒後に未来は疾駆する。
弘之は、未来に引きずられるように疾駆(はし)った。
血が溢れる。
ドバドバと、
腹から溢れていた。
――自分は死ぬのだろうか。
弘之は己の死を意識した。
だが、疾駆(はし)っている。
――なぜ?
それは生きるためだ。
本能が、生きたがっているからだ。
死にたくはなかった。
死が、すぐそこまで来ているのがわかる。
死ぬのは、怖い。
生きたかった。
だから疾駆(はし)った。
血を垂れ流しながらも、彼は疾駆(はし)った。
内臓が傷付いている。
痛みは限度を超えて、もはや感覚が正常に機能していなかった。
そんな満身創痍の肉体で、彼は生きようとした。
階段を上り、辿り着いたドアを開ける。
そこは屋上だった。
これ以上、逃げるところはない。
弘之の意識が、そこで途切れた。
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