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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/08/06(金)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(13)
 彼は街を見た。その誕生したばかりの意識には全てが新鮮で、しかしどれも見知ってもいた。街には邪悪で醜悪な異形が蔓延っていた。彼はそれが何なのか知っていた。感覚的に、理解していた。
 街を彷徨い、彼はいずれ辿り着く。人の死体が地面に落ちていた。無残な姿だ。そのまま進むと一つの建物が見えた。彼は、何かに導かれるかのようにそこへと向かった。ドアは堅く閉じていた。窓硝子を破り、彼はその建物に侵入する。
 空気が澱んでいた。
 彼は、奥から異形の蠢く気配を感じた。
 それでも進んだ。
 そして目撃する。
 巨大な異形――ムカデに似た化け物が二人の男女を襲おうとしていた。
 本能に追従して、
 彼は跳んだ。
 重力を感じさせない跳躍だった。
 見事な弧を描き、彼はゆっくりと着地する。
「何をやっている、逃げろ」
 着地と同時に放たれた、彼の言葉が静かに空気を伝った。
 少女は彼の存在に気付いて、そして目を見開いた。
 彼の姿は一枚の絵画のように美しく、静謐で、しかし内から力強さを放っていた。
 彼はもう一度問う。「どうして逃げない?」
 少女は何も答えられずにいた。
 巨大ムカデが彼のすぐ背後まで迫っていた。
 彼は本能的に腕から、自らの体内から、長い骨を引き抜く。
 それは剣を模(かたど)ったようなカタチをしていた。
 全ては、本能に従ったまでだった。
 彼の剣は演武のような華麗さをもって、滑らかな軌道を描いて、化け物の顔を両断した。
 巨大ムカデの、緑色をした体液が辺りに舞う。
少女はまだ動けずにいた。
「ほら、どうした。なぜ逃げない?」
 彼は少女を守らなければならなかった。
 確かな理由などはない。
 本能がそう言っている。
 彼は本能に追従している。
 だから、助けた。
 だから、守ろうと思う。
 きっと、自分はそのような存在なのだ。
「――死にたいのか?」
 いつまでも逃げようとしない少女を、彼は理解できなかった。
 少女は隣に横たわる少年を抱き起こそうとした。
 少年が、彼を見た。
 ほんの一瞬だけ、間が生まれる。
 そして放たれた少年の問い。
「おまえ、だれだ……?」
 生気を感じさせない。一切の感情も見受けられない。そんな彼を少年は本能的に警戒した。それで放たれた問いだった。
 彼は、自分が何者なのか正確には理解していない。因って、少年の問いにも答えることが出来なかった。
 彼にあるのは先天的にある一部の知識と本能的な使命感だけだった。
 自分は人間ではない――彼は思う。
 目の前にいる少年もまた、完全ではないことを彼は理解していた。
 どちらも一種のエネルギー体。
 精神と呼べるかもしれない存在。
 だが、少年には魂があった。
 それは生物の根源的なものであることを彼は認識していた。
 要するに、コアだった。生物としての、核。
 そして自分にはそれがないことも彼はわかっていた。
 生物にとって、必要な魂のない存在。
 ――それは生きていると呼べるのだろうか?
 自分は生きていないのかもしれない。
 少なくとも、目の前の人間にとっては死人同然だった。
 彼は一瞬でそこまで思案して、少年の問いに答える。
「俺か?」自分は一種のエネルギー体に過ぎない。偶然にも意識を手にしてはいるが、所謂“生”を持っていなかった。魂がなければ、あとに残るものは? それはきっと――。
「俺は――俺の名は骸だ」
 彼は、自らを骸と名乗った。




<作者のことば>
この外伝は、ポジションとしては地獄篇の前段階、ビギニングとかZEROとか、あるいはエピソードⅠとか、そういう表現が適当かもしれない物語です。

骸の意識は突然生まれ、生まれながらにしてある種の使命感を本能的に抱いているというは地獄篇でも少し説明したつもりですが、今回でちょっと補足してもらえればなーって思い骸視点で書いてみました。

骸が自らを命名するエピソードは外伝を書き始めたときから考えていたことではあるけれど、想像とはちょっと違うシーンになった感。でも、悪くなったわけではないし、これはこれでいいかなって思います。

ここから物語は加速度的に展開していく予定です。

どうか、最後まで飽きずお付き合い願えると幸いです。


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