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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/08/04(水)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(12)
 巨大ムカデの気色の悪い、大きな口からは吐き気を催すような悪臭が放たれていた。しかし恐怖に凍りついた今の未来にとってはそんなことなどどうでもよかった。長い触角が彼女に近付く。あと数センチで触れそうだった。
 未来は強い力で腕を引っ張られ、思わず視線をそちらに向けた。顔面蒼白になった弘之が彼女の腕を掴んでいる。「早く逃げろ」
 ふたりは走り出した。業務員用の通路を抜けて、一般フロアに飛び出る。ムカデが追走した。通路の中では、まだ西田が床を這っているはずなのだが、ムカデは狩猟本能なのか逃げたふたりに狙いを定めたようだ。背中から汗が噴き出させながら弘之はしっかりと強い力で未来の手を握った。この手は絶対に放さないと決めていた。――未来は、俺が守る。
 ゾゾゾゾゾ……無数の脚を器用に動かして巨大ムカデは素早く移動していた。人間の足では到底逃げられそうにない。ふたりが捕まるのも時間の問題だろう。
 弘之は未来を引っ張りながら動いていないエスカレーターを駆け降りた。壁には無数の巨大な蛹が引っ付いている。未来はあの恐ろしい人面蜂のことを思い出したが、今はあの気味の悪い姿は見当たらない。どこか違う場所に移動したらしかった。そうでなければ弘之も未来のところまで辿り着けなかっただろう。
「あっ――」
 未来が声をあげたのも束の間、弘之は脚をもつれさせてエスカレーターを転げ落ちていく。ただでさえ脚を怪我していた上に、彼は憔悴していたのだ。本当は、逃げる体力なんてどこにも残っていないに違いない。そう思うと未来の視界が涙で滲んだ。
「うう……」
 全身のいたるところを打ちつけたせいで弘之は痛みに這いつくばった。立ち上がりたいのにその力が出ない。ぶつけたときに切ったらしく、眉尻のあたりが出血して彼の視界を半分塞いだ。自分はもう無理だ。未来、お前だけでも逃げてくれ。だが、痛みで声は出ない。その想いも未来には届かない。――頼む、俺を置いて逃げてくれ。お前だけでも生きてくれ。
 弘之がそんなことを思っているとは知らずに未来は彼に駆け寄った。どうにか彼を立たせて逃げなければという気持ちが彼女を焦らせた。しかしすぐ後方にまで巨大ムカデは迫ってきていて、とてもじゃないが弘之を連れて逃げることは無理だった。彼女はここで弘之とともに死ぬ覚悟をした。ひとりで迎える最期ではないことが、彼女の気持ちを少しだけ楽にさせていた。
「何をやっている、逃げろ」
 空気を裂くように、その言葉は真っ直ぐに未来に届いた。静寂の中で唯一放たれたセリフのように、それは明瞭(はっきり)と響き渡った。しかし、その声は聴いたこともないものだ。一体だれの…?
 思わず未来は振り返る。
 時の流れが変わってしまったかのようにゆっくりと、彼は現れた。どこから降りてきたのか、宙からふわりと着地する。蝋細工のように白い肌だった。まるで血が通っていない。それと対するかのような漆黒の髪。白と黒のコントラスト。素肌に直接羽織っていたジャケットも闇のように黒かった。モノトーンの色彩が視界を支配する。
 静かに、男は言った。
「どうして逃げない?」
 突然の出来事で未来は言葉をなくしていた。当然身動きも出来ない。思考が停止している。
 男は右手首に左手を当てると、グッと何かを引き抜いた。――骨?
 骨が剣を模(かたど)っていた。
 巨大ムカデが背後から男に飛びかかる。
 男の手にした骨の剣が、水流にように滑らかな軌道を描いてムカデの顔を正面から両断した。緑色をした液体が辺りに飛び散る。巨大ムカデはキイイイイイ!!と叫び声をあげた。
「ほら、どうした。なぜ逃げない?」
 よく見ると男は思わず息を呑んでしまうほど美麗な顔立ちをしていて、一瞬で未来も心を奪われた。再び言葉を喪失する。
「――死にたいのか?」
 男は無表情で未来を見下ろす。
 はっとして未来は立ち上がり、弘之に肩を貸した。「お願い、立って」
 揺らめく意識の中で、弘之は異様な雰囲気に包まれている男を見遣った。恐ろしく冷たい印象を受ける。まるで氷のようだ。しかし敵意は感じない。一体何者だろうか?
「おまえ、だれだ……?」
 生き絶え絶えに弘之は問うた。
「俺か?」男は一瞬考えるように黙った。「俺は――俺の名は骸だ」




<作者のことば>
ついに骸登場――!!
この喜びは計り知れない!! やっと骸さんと再会できたよ!!(感涙)

今回は以前浅葱さんに描いてもらった骸のヴィジュアル・イメージを強く意識してます。
自分の中でヴィジュアル・イメージがはっきりしているということは、それだけクリアに骸の動きが見えるわけで、たぶん書いていていくぶんかラク…(笑)

12話目にしてとうとう骸が登場したことも嬉しいのだけれど、結構前半にも力が入りました。
たぶん今までで一番弘之に感情移入したシーンで、未来にだけでも生き延びて欲しいと願うところは書いていて涙が出そうに…(笑) キャラクターに感情移入して、書きながら泣きそうになることはよくあることなのだけれど。

ひとりの男として未来を守りたい、いや守ってみせる! ――そんな自分の気持ちをはっきりと自覚した弘之は、おそらく少しだけ人として強く成長したような気がします。
それに対して未来はまだこの魔界で生き抜けるほどの強さは手にしていません。何が何でも生き抜いてやる!というよりは、親しい人間とともに迎える最期の方を選んでしまう。それが弱さなのかは別として、そんな未来が少しだけ愛おしいと思ってしまっている自分がいる。あれ? 詩帆のときはなかったのに(笑)

これから詩織のように強くなっていくのかなー? どうなのかなー? まだ俺にもわかりません。

しかし彼らはついに骸と出会いました。
この邂逅は二人にどのような結末をもたらすことになるのか?

この物語の最後までお付き合いくだされば幸いです。

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