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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/07/09(金)   CATEGORY: 短篇小説
櫻宮家の呪い(6)
「神堂骨董店」という看板が掲げられた店のドアを押して開けた。
 出迎えるように黒猫がニャアと鳴いた。頭を軽く撫でてあげると眠そうに目を細めて欠伸をした。

「いらっしゃいませ。」

 店主である神堂 四郎が現れ、私に向かって微笑みかける。
 彼と会うのはあれ以来初めてだった。――そして一葉とは会っていない。

「元気にしてた?」
「おかげさまで。」

 勧められた席に腰を下ろしてしばらくすると彼は紅茶の入ったカップを目の前に差し出してきた。
 お礼を云ってカップに口をつける。熱過ぎず、ちょうど好い温度だった。美味しい。

「これ、見てくれる?」

 私が差し出したのは地方新聞だった。
その片隅の小さな記事を指差す。

「――そうですか。」

 彼は別段驚いた様子も見せずにそう云った。
 その記事に書かれていたのはとある山奥にある屋敷の火事だった。その屋敷とは、櫻宮家の屋敷である。

「あまり驚かないのね。」
「そうですか? ――でも、そんな気はしていました。」
「あの屋敷が火事になる予感がしてたっていうの?」
「そんな具体的なことではありませんが、何らかのカタチで、彼女は過去を清算するだろうとは思っていたので。」

 ――どんな過去だと云うのだ。
 そう彼に問いかけようと思ったのだが、それより先に彼が口を開いて私を制した。

「聞いていたのでしょう?」

 突然のことで、言葉に詰まる。

「――あの夜の、一葉さんとの会話を。」

 彼には全てを見抜かれていたようだった。
 もしかしたら――、一葉もわたしに気付いていたのかもしれない。あの夜。

「気付いていたの?」
「ええ。」

 そこで、きっと一葉もわたしが聞いていたことを知っているに違いないという確信が生まれた。
 そもそもあの夜には気付かなくとも、彼女のはあの“眼”があるではないか。あれさえあれば、あとからあの夜の私を視ることも出来るのだろう。

「あの執事の人、一葉のこと気付かなかったのかしらね。」

 例え真夜中だったとしても、彼女ひとりで人ひとりを土に埋めるのは大変な作業だっただろう。
 それに掘り返された土に気付かないというのも違和感がある。

「気付いていたのではないでしょうか。」
「どうしてそう思うの?」
「彼女のお祖母様がどうしてお祖父様を殺したのかわかりますか?」

「殺した」という言葉が胸を締め付けるようで、苦しかった。
 実際にその言葉を他人から聞くのは、かなり辛い。

「わからない。」
「浮気、だそうですよ。」

 父親と同様に、一葉の祖父もまた自分の妻を裏切り、浮気に走っていたのか。

「――お祖母様の。」

 浮気をしたのは、祖母の方――?

「それも、一葉が?」
「ええ。」
「自分の浮気がばれて、殺した?」
「そうなんでしょうね。」
「身勝手ですね。」
「そうですね、その業が禍(わざわい)となってしまったのかもしれません。」
「でも、それがどう関係してくるというの?」
「執事の石川さんはその頃から屋敷に居たそうですよ。歳は、お祖母様よりは若いが、そう離れてもいなかったとか。」
「それって――…」

 浮気相手は、執事の石川だったということか。
 しかしそれが一葉の行為を見逃すこととどう関係してくるのか――、そう思ってから私はある考えに到達した。

「もしかして一葉の本当のお祖父さんって――」

 もしかしたら一葉の祖母のことも見逃したのかもしれない。
 そして母のときも、祖母が居たからまた見逃したのかもしれない。

 しかし本来は石川に一葉の母を庇う理由がないのだ。

 彼は一葉の祖母を愛した。だから口を噤んだ。
 そして一葉も愛していたに違いない。

 自分と血の繋がりのある、一葉を。

 私は小さく身震いをした。
 もしかして、もっとも罪深いのは……

「真実は、もはや誰も知られざるところにあります。」

 四郎はそう云って、窓の外を眺めた。

 私は思う。――あの桜は屋敷とともに燃えてしまったのだろうか。
 血のように、紅い花弁。
 恐ろしいほど鮮やかに、夜闇に浮かぶ姿が思い出される。
 きっと、燃えたのだろう。
 一葉は燃やしたのだろう。
 おそらく、それは赤々と燃え上がったに違いない。その枝に拡がった焔は、まるで満開の桜を思わせたのかもしれない。
 焔に包まれた桜の大木を前にする一葉の姿が脳裏をよぎった。
 全ての罪は浄化されたのだろうか?
 いや、そうではない。
 その深き業は彼女が背負っていくのだろう。それが櫻宮の女の宿命(さだめ)だというように。
 瞼の裏に映る、燃える桜を前にした一葉は綺麗だった。

 彼女は小さく笑っていた。

 黒猫がミャアと鳴いたのが聴こえた。



  (了)



<作者のことば>
なんかこんな終わり方になってしまいました。
どうも色んなところがイマイチで改善の余地が大アリな気がしますが、そこは目を瞑ってください(笑)

最近、新しい物語が浮かんで来なく、自分の限界を感じています。
文章としても、ここらへんが限界なんじゃないかなーって気はしています。

こうして物語を書くようになって早数年。
そろそろ引退時なのかもな~と思いながら、書けるうちは書けるだけ書いておこうと思います。

いずれ書けなくなるときは来ると思ってます。
もしかしたら、それは今からそう遠くないかもしれません。

でも、それまでは全力で。

なので、それまでお付き合いくださると嬉しいです。


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