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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/07/03(土)   CATEGORY: 短篇小説
櫻宮家の呪い(5)
 全てを理解して、まず最初に母の部屋に行った。何もかもを確かめるために。
 母が、父を殺したのだという確信はすでにあった。全てを視たわけではない。それでも、判断するに足りるほどの情報は自分にあった。その結果に到達するだけのことは、視ていた。
 この確信に基づいて問い詰められた母は諦めた表情をして、そして告白を始めた。
 父は浮気をしていた。相手は、母の知らない女だった。この屋敷の途中にある村の娘だ。
 母がそれに気付いたのは偶然だったが、きっと父はそれがいつまでも隠し通せることだとは思っていなかっただろう。なにせ相手がいるのは小さな村のことだ。いずれそれは誰かに気付かれる。そうすれば噂は一気に広まったことだろう。
 おそらく、父はそうなることを望んでいたのではないだろうか。母は我侭な人だった。きっと束縛もしただろう。それが父には辛かったではないだろうか。母にそれに疲れてしまったのではないだろうか。
 真実はわからない。この眼は、過去は視えても、人も心までは見通せない。
 母は父の浮気に気付き、そのことで父を問い詰めた。だが、父は赦しなど求めなかった。すでに屋敷を去る決心があったのだ。それは余計に母の怒りに触れた。おそらく父が赦しを乞うても母は赦さなかっただろう。しかし、だからと行って自分が捨てられるのもまた我慢ならなかったのだ。母のプライドがそれを許さなかった。
 祖母は二人のことを見て、何を思ったのかはわからない。でも、彼女は自分の息子より義理の娘に力を貸すことにした。かつて自分がやったやり方で、母に父を殺すことを提案したのだ。
 そう、祖母もまた祖父を殺し、その死体を桜の樹の下に埋めていたのだ。
 祖母はそれを母に教え、母はそれを祖母から継承した。つまりはそういうことなのだった。父は母に殺され、桜の樹の下に埋められた。かつての祖母と同じように。
 それを知ってこの心は何を感じたのだろうか。動揺はなかった。凪いだ海のように、穏やかだったかもしれない。そして思ったのだ――この母を殺そうと。
 どうしてそう思ったのだろう。
 父を殺した母が赦せなかった?
 わからない。
 ただ理由は怒りなどではない。悲しみとも違う。
 もしかしたら、父の怨念がこの身に乗り移ったのかもしれない。あるいは祖父の怨念がこの身に憑りついたのかもしれない。
 とにかく次の瞬間には母は死んでいた。
 そして今度は櫻宮の女らしく、その死体を父と祖父が眠る桜の樹の下に埋めた。祖母がそうしたように、母がそうしたように、自分も殺した人間をそこに埋めた。

 きっと、櫻宮の人間は呪われているのだろう。

 いや、櫻宮の女が呪われているのかもしれない。

 どちらにせよ、呪われている。

 だから――


 ***


「――だからわたしは全てを終わりにしたかったのです。」

 そう、一葉は云った。
 その横顔はどこか哀しい雰囲気を漂わせている。

「やはり最初からそのつもりだったんですね。それで僕をここに呼んだ。」
「そうです。きっと誰かに聞いて欲しかったのでしょう――こんなことに付き合わせてしまって申し訳ありませんね。」
「いいえ。気は済みましたか?」
「ええ、おかげさまで。」

 きっと全てが終わった。
 もうこの屋敷で誰も死ぬことはない。あの桜の墓標に、新たな名を刻まれることもなくなるだろう。

 二人を陰から覗いていた私はそう思った。
 あるいは、そう思いたいのかもしれない。

「一つ訊いてもよろしいかしら。」
「どうぞ。」
「どうしてわたしが母を殺したのだと気付いたのですか?」
「根拠はありません。でも確信はありました。」
一葉が笑う。「つまりは当てずっぽうだと?」
「そのようなものですね。ただ――」
「ただ?」
「この事件に貴女が関わっていることはわかっていました。」
「今度は理由があるのかしら。」
「あやかし堂って、普通の人には見えないんですよ。」
「え?」
「あの店は特殊な構造になっていて、一般人にはただの古びた骨董屋にしか見えません。屋号も違うものです。でも、貴女のような人は違う。あやかし堂は、あやかし堂に用がある人の前にしか現れません。つまりは怪異の類いに悩まされている人の前にしか。――貴女が来たのはお母様が失踪される前でしたからね、だけど貴女は“あやかし堂”に訪れた。ということは、貴女はそのときから何かに憑かれていたということはわかっていたんです。」
「それはもしかして――」
「ええ。おそらく貴女のその眼があやかし堂に導いたのでしょう。」
「でも困ってないわ。」
「わかっています。」
「この眼は、きっと呪いなんだと思います。櫻宮の女としてわたしにかけられた」

 そこで二人は黙った。
 それ以降のことは何も聞いていない。私はこっそりとその場を離れ、部屋に戻った。




<作者のことば>
この作品は何度か視点が切り替わる。どうして最初に一人称で始めてしまったのか俺’07!!
そもそも最初の一人称で出てくるこの女性、シリーズ最初にも出てくるのだが名前がわからない。決めてなかったのだろうか? とにかくその記述が見当たらないことにこのあたりで気付いた。

とにかく女性の一人称、俯瞰の三人称、一葉が語る内容部分の一人称かもしれないもの(三人称とも取れる?)と視点が交互に切り替わる。

この回の最後の部分は三人称に見せかけての一人称。
いつの間にかに一人称の女性(名前決めた方がいいか?)が2人の話を聞いているというこのシーン。
こうでもしないと最初に一人称で始まる意味がないと思ったので(笑)、そのためのエクスキューズとして用意してみた。まあ、どうでもいいか。

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