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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/06/27(日)   CATEGORY: 短篇小説
櫻宮家の呪い(2)
 あのあと一葉には1人で先に帰ってもらい、私は「あやかし堂」に残り四郎から詳しい話を説明してもらった。

 信じ難いことだけれど、四郎は本当に妖怪・怪異を専門に扱う商売をしているらしい。
 今までに色々な事件を解決してきたのだと云う。

 そしてやっと合点がいった。
 これで以前に私が四郎に悪夢を祓(はら)ってもらったことの説明が付く。
 あれは偶然などではなく本当に彼の力で行われたことだったのだ。

 そして私はやっと1年前のお礼を云う機会が訪れた。
 あのときのことは本当に感謝している。


 ***


 櫻宮一葉の屋敷は東北の山奥にあった。最後に通った村からもう30分以上は走っている。一葉の屋敷は村から30分のところにあるのではなかったのか?
 四郎も一葉も黙ったままだった。タクシードライバーですら何も話さない。わたしには少し空気が重く感じられた。早く、早く着かないだろうか。
「もうすぐです。見えてきました」
 山奥の一画に櫻宮家の屋敷は聳(そび)えていた。大きなお屋敷だ。庭もかなりの面積がある。そして庭には多くの桜の木。

 ――真っ赤な桜の花弁。

 私の人生の中でこんなにも紅く咲く桜など見たこともなかった。初めて見る紅い桜。

「これは…ヤマザクラでしょうか。」

 四郎が云った。ヤマザクラ? わたしは桜の木の種類など知らない。桜は桜だ。それじゃだめなのだろうか。

「ベニヤマザクラです。ヤマザクラよりさらに紅い桜です。」

 桜の木を見上げながら一葉は云った。桜の中でも紅い種類だったのか。わたしは血で染めたような紅さだと思ってしまっていた。

「ベニヤマザクラですか。」
「ええ。」
「それにしても、ここまで紅い桜など初めて見ますよ。」

 四郎がそう云う。一葉は、そうでしょう、と呟いたように云いそれから黙った。
 桜の木から屋敷の方へと目を移すと、屋敷の玄関に男が立っていた。

「お嬢さま、お帰りなさいませ。」

 白髪の老人は云った。どうやらこれが噂の執事らしい。見た目はかなり高齢に見えるが彼の動きから予想するにわたしの想像よりずっと若いのかもしれない。

「石川と申します。」

 老執事は自ら名乗った。

「神堂と申します。お邪魔させて頂きます。」

 私も四郎に倣って目礼して名乗った。

「お嬢さまからお話は伺っております。――こちらへどうぞ。」

 石川に案内され、私たちは屋敷の奥へと進んだ。
 かなり古い建物であるが、老朽化しているようには見えず、まだまだ使えそうだった。余程しっかりした造りなのだろう。

「ここが母の部屋です。」

 そこは想像していたのとはやや違って、質素な部屋だった。広過ぎる部屋がより寂しさを演出している印象すら受けた。

「広いですね。」
「ええ。母はここでいつも独りでした。」
「寂しかったでしょうね。」
「そうかもしれませんね。」

 そう云う一葉の言葉はまるで無機質に感じられた。温度がない。
彼女は母親とうまくいってなかったのだろうか?
 そのような考えが浮かんでは消えていった。

「お部屋を案内しましょう。」

 私たちに宛がわれた部屋もまた広く立派だった。古めかしくはあるが、丁寧に管理されているからなのか、ずっと使われていなかったようには見えないほどしっかりしている。それに綺麗だった。

「お食事の準備が出来ましたらお呼び致しますので。」

 執事の石川はそう云うと引き下がっていった。


 ***


 神堂 四郎は櫻宮 一葉と初めて出会った夜のことを思い出していた。
 あれは雨の日だった。店はもう閉めようと思っていたところに、一葉はやってきた。

「すみません。すこしだけ、雨宿りしてもよろしいでしょうか?」

 彼女はそう云った。
 傘を持っていなかった一葉は随分と濡れていた。そこで四郎はタオルを持ってきて彼女に差し出す。それから温かい紅茶を入れてやった。

「ありがとうございます。」

 部屋の片隅で黒猫のスグリが彼女を一瞥してから、丸くなった。特に興味はないようで、欠伸をして目を閉じた。

「面白い屋号ですのね。何の店です?」
「しがない骨董品屋です。」
「お一人で?」
「ええ。」

 それからしばらく二人は何も話さなかった。
 ただ外の様子を眺めていただけだ。ザアザアと雨が降っていた。

 ――彼女は

 四郎は思う。
 
 ――彼女は一体

 しかし、途中で思考を止めた。

「雨が上がりましたね」

 気付けば、雨は止んでいた。
 四郎がそれを視認したのを見て、一葉が立ち上がる。

「そろそろ行きます。どうもお世話になりました。」
「またいつでもどうぞ。」

 微笑んで、四郎は彼女が行くのを見送った。
 彼は確信していた。


 ――いずれ彼女はまたここに来るだろう。


 それは事実になった。


 ***


 食事を終え、その日はもう休むことになった。
 四郎は一葉の母親を捜し出すためにここへ来たはずなのだが、“神隠し”というのは一体どうやって捜すものなのか私には見当もつかない。とにかく今日は何かをするということはないようだった。

 遠い地に赴いたこともあり、疲れていたらしい私はすぐに眠りに落ちた。



<作者のことば>
正直な話、これはいつもの分量で前後編程度の長さ(つまりは2話分)程度に収めようと思っていた。
理由は案外ストーリーが面白くないのと書くモチベーションが異様に低くてさっさと終わらせたかったから。

なのに気付けば予定より長くなってしまっている。

一気に掲載するのは読むのも面倒だろうと思うので(もちろん読む人がいれば、の話だが)、いつも通りの量で分割することにした。

(どの作品もそうなのだが)読みたい人だけ読んでくれればそれでいい。
正直前半とか数年前の文章なので、かなり読み飛ばしてくれて構わない。というかそうして欲しいくらい。

だからお茶漬けの如くササッと読んじゃってくださいませ。


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