FC2ブログ
みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/07/29(木)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(9)
 永い時間が経った。正確な時間はわからないが、少なくとも未来にはそう感じられた。未だ助けは現れていない。おそらく、この先も助けが来ることはないだろうという予感はあった。いずれここを離れなければならないだろう。
 しかし食料が豊富にあるこの場所を離れることが得策かどうか、未来には判断できなかった。まだここに残っていた方がいいのかもしれない。急いでも状況は好転しないだろうことはわかっている。ただ、気がかりなのは弘之のことだった。彼の右脚は化膿を始めていて、早く医者に見せる必要があった。動くなら体力のあるうちにしなければならない。そろそろ決断しなければならなかった。
「あの、西田さん」未来の呼びかけに西田は振り向き、続く彼女の言葉を待った。「やっぱり弘之の怪我は医者に見せた方がいいと思うんです。放っておいても治るかわからないし。だから、わたしたちはここを出ようかと思って……」
「そうだね、確かに弘之君の脚は医者に見せた方がいいと思う。――ただ外には相変わらずやつらで溢れかえっていて危険だよ? もう少し様子を見てみてもいいんじゃないかな?」そこまで言って、西田の顔に真剣さが増した。「もし出られそうだったら俺が医者を探しにいく。弘之君のその脚だと移動は大変だろうし、その方がリスクは低いと思うから。だから未来ちゃんは弘之君のことを看てあげてくれないかな」
 それは未来にとって思ってもみない提案だった。自分たちの代わりに医者を探してくる? 考えてみれば未来が弘之を連れて医者を探すよりも安全性は高く、より確実だろう。
「本当に、いいんですか?」
「もちろん構わないよ。1人の方が動きやすいし、だからといって未来ちゃんを1人で行かせるわけにもいかないだろ? だから俺が行くよ。簡単に見つかるかはわからないけれど、きっと医者をここに連れてくるから」
 なんと頼もしい言葉だろうか。
 今の未来には西田の提案を受け入れない理由はなかった。もし西田が了解してくれるならば、断然その方がありがたい。状況は藁にも縋りたいものだのだ。未来は彼の提案を素直に受け入れることにした。「じゃあ、お願いします」


 弘之の体は熱っぽく、体力は目に見えて消耗していた。
 彼はもはや動くのもままならない状態になっており、未来も彼から離れようとはしなかった。ペットボトルのミネラルウォーターを片手に持ち、ときたま彼の口に水を注いでやる。弘之は何度も未来に謝った。「悪いな」
 さて、ついに西田が建物の外に出ることを決意して立ち上がった。一歩踏み出せば魑魅魍魎が跳梁跋扈する危険な魔界に再び戻ろうとしていた。
 地下フロアから階段を上がり、1階に出る。見送ろうと西田のあとを未来が追った。不意に、西田の足が止まる。――様子がおかしい。
 いつの間にかデパート内部の壁に大きな塊がいくつも引っ付いていた。有機的なそれはどう見ても生物ではなかったが、それでも生きているかのように脈打っているように見える。それはまるで蛹(さなぎ)のようであった。
 ――蛹。
 その言葉も持つ意味は考えるだけで恐ろしいものである。つまりそれは、いずれ羽化するということだ。その内部から現れるものは――あの化け物の仲間以外にあり得ない!
 内部(うちがわ)から胎動しているそれが外界(そと)に這い出してくるのはいつなのか。
 未来はごくりと息を呑んだ。
 ミシミシ――実際にそのような音が聴こえたかどうかはわからない。だが、未来にはそんな音がした気がした。蛹の有機的な殻に亀裂が入っている。まさに今、2人の目の前でそれは羽化を遂げようとしているのだ!
 西田はたじろいで一歩さがり、携えていた木製のバットを強く握った。果たしてこの武器が化け物に通用するかどうかは本人にもわからない。しかし何もないよりはましだ。
 ミシミシ。亀裂から何かが見えた。――顔だ。それも人の。
 一気に蛹を破ってそれは飛翔した。羽音は辺りに反響する。速い。蛹から飛び出したものを、未来は一瞬見失いそうになった。再び視界の中央に捉える。それは人の顔を持った、巨大な蜂だった。――人面蜂。
 能面のようなのっぺりとした表情で、それは未来を見つめていた。絡みつくようないやらしい視線が彼女に向けられた。それを見て西田が叫ぶ。「逃げろ! こっちだ!」
 導かれるままに未来は走る。疾駆(はし)る。階段を昇った。先行する西田を必死に追いかける。後方からは人面蜂の羽音が近付いてきていた。
「こっちに!!」
 そこにあるのは業務員通路に繋がる扉。2人は全力で扉の向こうに飛び込んだ。




<作者のことば>
シリーズにつきものなのが定番。
ゲームでもよく定番モンスターというものがある。ドラゴンクエストしかり、ファイナルファンタジーしかり、お馴染みの敵キャラというのはある意味大事なファクターだと思う。

MUKUROにとって人面蜂がそうであるかは別として、見知った敵の登場に「あっ」と思いながら読むという楽しみ方は出来ると思う。
すでに巨大ノミも出てきているし、巨大な溶解アメーバも大きさは違うが地獄篇の最初で石平を襲ったものに近い。浮遊魚は同じ魚種ではないが、地獄篇で登場した様々な魚の亜種的見方も出来る。

外伝では地獄篇で登場したクリーチャー(化け物)を積極的に登場させている。
しかし吸血ノミは最初は(実際のノミと比べれば明らかに大きいものの)地獄篇で登場したものよりだいぶ小さい。それが血を吸うことで急激に肥大していく。人面蜂は蛹から現れた。おそらくその前段階(つまりは幼虫期)もあったのだろう。

化け物たちは劇的な勢いで変化している。進化している。

地獄篇でも化け物の形態の変化は描かれているが、外伝はよりそこに焦点を当ててみた。
急激に進んでいくその変化/進化は一体どういうことなのか? それはつまり――…

外伝では地獄篇の世界観を補完できたらいいなぁ、と思っている。
そしてそれを続篇に繋げていたらいいなぁ、とも。

様々な想像を膨らませながらMUKUROの世界観に浸って頂けたら幸いです。


←応援してくれる人はclick!!
[ TB*0 | CO*2 ] page top

COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する

浅葱 | URL | 2010/07/30(金) 10:01 [EDIT]
人面蜂出たーーっ!!地獄篇でかなりの存在感だったので今回も出るのかな?
なんて思っていたのですが…まさかの羽化描写にゾクゾクでした(笑)
孵化場には絶対近づきたくない、と映画とかで観てても思う

はい、もう色々想像してかなりMUKUROの世界に浸らせてもらってます(笑

匡介 | URL | 2010/07/30(金) 22:47 [EDIT]
>浅葱さん
お待ちかね(?)の人面蜂登場です(笑)
今回は蛹→成虫という過程を書いてみましたが、人面蜂の幼虫って一体…、考えるだけでもおぞましい~。

今後もどこかで地獄篇でも登場したやつが出てくるかもしれませんのでお楽しみに♪

TRACK BACK
TB*URL
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ