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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2010/07/27(火)   CATEGORY: MUKURO外伝
MUKURO外伝(8)
 その男は自分が意識を持った次の瞬間には、その鋭敏な感覚を以って彼の存在を確かに感じ取っていた。ゆっくりと長身痩躯が立ち上がる。彼はまだ気付いていない。自分と似た存在の彼を男は面白いと感じた。
 面白い――男は彼に興味を抱いた。
 いずれ2人が出会うだろうことは、このとき運命として定められたのかもしれない。しかし彼はまだ何も知らない。彼はまだ彷徨っていた。


 ***


 地下1階――高儀 未来と佐々木 弘之は食品売り場にあったペットボトルの水をゴクゴクと飲み干して、目についた適当なものを口に運んだ。喉はずっとカラカラだったために、ミネラルウォーターが全身に行き渡るのを感じる。空腹も満たされると眠気が現れた。疲れで体が重い。一時の避難場所を得て、極限まで張り詰めていた緊張の糸も緩んでいた。弘之のまぶたが自然とおりてくる。
 未来は眠りかけている弘之を見た。右脚の怪我は布地できつく縛って応急処置としていた。何か手当てするにも2人には知識がなかったし、この場にあるものも限られていた。出来れば医者に見せたいのだが、この状況で見せられる医者が見つかるのかどうかはわからない。とりあえずは今の状態で乗り切ってもらうしかなかった。
 思わずあくびが出る。
もちろん疲れているのは弘之だけではない。未来もまた休息が必要なほどに疲れていた。しかし2人が一緒に眠ってしまうのは危険だった。一応ここは安全のようだが、それでも確実ではない。それに状況は変化するだろう。彼女は、外の魑魅魍魎たちが建物の内部に入り込んでくるのも時間の問題なのではないかという気がしていた。


 結局、未来は眠ってしまっていた。そんな彼女が目を覚ましたのは気配を感じたからだった。目を開けると視界には見知らぬ男が立っている。歳は20代前半くらいだ。男の手には木製のバットが握られていた。驚きと恐怖で、未来は思わず悲鳴を漏らしてしまった。
「どうした!?」
 悲鳴を聞いて弘之が飛び起きた。次の瞬間には状況を把握する。男が自分の目の前に立っていた。男は笑顔を見せてきた。――何者だ?
「あんた、誰だよ」
 弘之が攻撃的な口調で問う。
「まあ、落ち着いて。俺は敵じゃない」男に取り乱した様子はない。「俺は西田。化け物から隠れるためにここにいたんだけど、そこにきみたちが来たんだよ」
 西田はなかなかの長身だった。スポーツをしているのだろうか、肩幅が広く、全体的にがっしりとした印象がある。
「西田さん、ですか」
 どうやら悪い人間ではないようだと弘之は思った。味方が増えてくれるならそれに越したことはない。
「大丈夫? 怪我してるみたいだけど」
 西田は弘之の脚を指した。
「あ、はい。大丈夫です。なんとか」実際はだいぶ痛んだ。「あ、俺は佐々木 弘之って言います」
「そっか。弘之君ね。よろしく」
「こちらこそ」
 友好的な西田に、先ほどは悲鳴をあげてしまって申し訳なさを感じながら、未来も自己紹介をした。
「未来ちゃんか。よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
 西田は笑顔で手を差し出してきたので、未来は同様に腕を伸ばした。2人の間で握手が交わされる。
 3人はしばらく今後のことについて話し合った。特に西田はこの先のヴィジョンについて明確なものは持っていないようだった。とりあえず現段階では居られるだけこの場所に隠れているしかないらしい。その点については未来も弘之も仕方ないと納得していた。
 ――しかしこの状況がいつまで続くのだろうか?
 この先ずっとここに居続けるわけにいかないことは明白だろう。いずれ助けがくればそれまで耐えれば済む話だが、もしも助けが来ないとするならば、活路は自分たちで切り開かなくてはならない。どこまで逃げれば安全地帯なのだろうか? そもそもこの世界に安全地帯がまだ残されているのか? もしそんな場所はすでにどこにもないとしたなら――
 残されているのは絶望という名の地獄。




<作者のことば>
骸が登場するどころが予定外のキャラクターが増えてしまったというね。
当初のイメージしていたものとはかなり違う、というか別物に近い、そのような物語が展開されているのだが、まぁ どのような物語であれ面白かったならそれ以上望むものはない。――面白かったなら。

面白いかどうかという判断は書いている側には難しく、それでも出来るだけ客観的にここまでの感想を述べるならば、「地獄篇と比べて熱量が少ない」と感じている。荒々しさというか。地獄篇の文章の粗さは、文章の持つ熱量である程度はカヴァーされていたのかもしれないが、今回は比較的スッキリまとめようとしている気がする。無意識に。
そうなるとMUKUROの持ち味が発揮されていない気がして、あれ? これでいいのか? って気分になってしまい……。そこは地獄篇の正統なる続篇でどうにか修正していけたらいいなぁ。どう修正していくのかはわからないけれど(オイ)。

当初の目論見では大体5話くらいの構成になるかと予想していたのだが、現在それが8話に。確実に倍の10話には到達してしまいそうである。
しかしそろそろ後半に突入したといってもいいだろう。――順調に物語が進めば近いうちに骸が登場して、近いうちに終われるはず(笑)

地道だが、物語は進行している。終わりに向かって。


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